第1回 知覚・認知心理学とは

知覚・認知心理学(’19)

Psychology of Perception and Cognition (’19)

主任講師名:石口 彰(お茶の水女子大学名誉教授)

【講義概要】
人間は「考える」能力を持っています。考える能力には、大切な事柄を記憶する、問題を解く、どちらが良いか判断する、旅行の計画を立てるなど、意識的に考える能力のほか、見る、聞く、驚くなど、無意識的に考える能力があります。この「考えること」が、広い意味での、認知機能なのです。知覚・認知心理学は、このような、「考えること」の科学です。この講義では、認知の低次過程といえる感覚・知覚等の無意識的な機能から、問題解決や判断・意思決定などのより高次で意識的な認知機能のしくみを解説します。

【授業の目標】
知覚・認知心理学は、実証科学の一員です。実証科学とは、実験を通して得られた事実(エビデンス)に基づいて、仮説やモデルを検証する科学です。この授業では、単に、人間の認知に関する現象や事実を体験し理解するだけでなく、それらの背後に潜む人間の認知のメカニズムを、いかに実証するか、その方法論も併せて理解することが、目標となります。

【履修上の留意点】
履修にあたって、予備知識は特に必要としませんが、高校の生物学の知識があると、理解がより深まると思います。ただし、実証科学の一員として、論理的な思考は、不可欠です。レポートを書くうえでも、論理的なストーリー展開が、求められます。

 

第1回 知覚・認知心理学とは
-考えることの科学-

知覚・認知心理学とは、広義の「考えること」の科学である。広義とは、意識的のみならず、無意識的に「考えること」を含むからである。初回では、人がどのような場面で、どのように「考える」のか、に焦点を当て、それが、知覚・認知心理学ではどのように扱われるのかを紹介する。

【キーワード】
意識的、無意識的、順問題、逆問題、不良設定問題、情報処理システム


順問題、逆問題 データ分析の王道としての順問題と逆問題を理解する【第11回】 https://dcross.impress.co.jp/docs/column/column20170926-02/000591.html

フラッシュパルプ記憶
フラッシュバルブ記憶(英:Flashbulb memory )とは、個人的に重大な出来事や世界的な重大事件に関する非常に詳細な記憶を意味する。閃光記憶。「写真のフラッシュを焚いた時のように」鮮明な記憶。この用語は Brawn と Kulik の論文(1977年)で最初に使われたもので、強烈な感情を伴った記憶が時間が経った後でも鮮明に思い出せることを示した。例えば、多くの人々がアメリカ同時多発テロ事件やケネディ大統領暗殺事件、ジョン・レノン殺害などのニュースを聞いたときのことをよく覚えている。

ストループ効果
ストループ効果とは、「文字の色の情報と文字の意味が持つ情報、それぞれ二つの持つ情報が矛盾している場合、答えを導き出すまでに時間が掛かってしまう現象」のことを指します。

情報処理システム
科学的な認知心理学の誕生と情報処理システムとしての人間の …


第1回 知覚・認知心理学とは
-考えることの科学-

知覚・認知心理学とは、広義の「考えること」の科学である。広義とは、意識的のみならず、無意識的に「考えること」を含むからである。初回では、人がどのような場面で、どのように「考える」のか、に焦点を当て、それが、知覚・認知心理学ではどのように扱われるのかを紹介する。

【キーワード】
意識的、無意識的、順問題、逆問題、不良設定問題、情報処理システム

第2回 知覚・認知心理学の研究法
-「考えること」をいかに科学するか-

知覚・認知心理学は、実証的な科学である。実証という意味は、データを基に、自ら立てた仮説を検証していくことである。今回は、「考えること」を科学する実証的な方法として、行動実験的方法、脳神経生理学的方法、神経心理学的方法等を説明する。

【キーワード】
行動実験、脳神経生理学、神経心理学、二重解離

第3回 知覚・認知の神経的基盤
-脳が考える-

意識的にせよ、無意識的にせよ、「考えること」の担い手は脳を含む神経系である。今回は、脳神経科学の観点から、特に、中枢神経系の構造と機能との関係を中心に、「考えること」の基盤を説明する。

【キーワード】
神経、活動電位、シナプス、大脳皮質、ブロードマンの脳地図、投射

第4回 感覚の科学
−感じるしくみ−

人はどのように周囲の環境から情報を取り入れるのだろうか。また、人にとっての情報とはどのようなものなのだろうか。今回は、視聴覚を中心に、眼球や耳といった感覚器の構造とこれらを通して情報を取り込むしくみについて概説する。

【キーワード】
感覚器、符号化、暗順応、色覚多様性、受容野、側抑制、可聴域

第5回 知覚のしくみ Ⅰ
−モノが見える不思議−

眼球で捉えた揺らめく光の地図から、人はどのように色や形態、運動、奥行きといった意味のある特徴を抽出しているのだろうか。またこれらをもとに、どのようにモノの形や位置を知るのだろうか。今回は視覚の物体認知を中心に、知覚のしくみについて概説する。

【キーワード】
ハイパーコラム、モジュール構造、知覚の恒常性、グループ化の原理、ジオン理論、視覚失認、相貌失認

第6回 知覚のしくみ Ⅱ
−意識にのぼる世界とは−

われわれの知覚世界は、単独の感覚からの入力に基づいているのではない。今回は、知識や文脈、異なる感覚モダリティからの情報が知覚世界に与える影響を説明する。また、意識的な視覚体験と行為の乖離を感じさせる症例を紹介し、意識にのぼる知覚世界とは何なのかを考える。

【キーワード】
トップダウン処理、音韻修復効果、視聴覚情報の統合、カテゴリー化、行為のための知覚

第7回 注意と認知
−限られた資源を生かす−

人の情報処理能力には限りがある。そのため、当面必要な情報を選択して、重点的に処理するしくみがわれわれには備わっている。今回は、その情報選択の役割を担う注意について、代表的な理論と実験パラダイム、障害をとりあげて説明する。

【キーワード】
選択的注意、フィルター理論、特徴統合理論、注意のコントロール、処理資源説、半側空間無視

第8回 記憶のしくみ Ⅰ
-記憶と神経的基盤-

記憶は脳でどのように形成・表現されているのだろうか。前半は、記憶のプロセスや特徴、分類について概観する。後半は、臨床研究を中心に解き明かされてきた脳と記憶の関係について、脳のマクロ(構造)とミクロ(神経)の双方の視点から概説する。

【キーワード】
マルチストアモデル、ワーキングメモリ、宣言的記憶、非宣言的記憶、海馬、前頭前野、認知症、ヘッブの法則、シナプス可塑性、長期増強

第9回 記憶のしくみ Ⅱ
-日常記憶-

日常場面を中心に、記憶の忘却と変容に焦点を当てる。前半は、人間がどのように情報を符号化し、そして貯蔵された情報の中から、何がどのように検索されるのかを概説する。後半は、記憶が変容するメカニズムについて、知覚・認知研究を通して考察する。

【キーワード】
フラッシュバルブ記憶、リハーサル、自己参照効果、再生、再認、忘却曲線、検索、干渉効果、符号化特殊性原理、フォールスメモリ、スキーマ、事後情報効果

第10回 問題解決
-山頂を目指すには-

われわれは、常に、様々な「問題」に直面し、それを考え、「解決」している。今回は、知覚・認知心理学で扱う「問題」の分類、問題解決のプロセス、洞察問題や類推に焦点を当て、さらに、問題解決と脳活動との関連を説明する。

【キーワード】
良定義問題、ヒューリスティックス、情報処理アプローチ、問題空間、手段-目標分析、洞察問題、類推

第11回 判断と意思決定
-人間は合理的か-

人間は、合理的に判断し、決定を下しているのであろうか。合理的というのは、判断が正しく、その決定は最大の利得をもたらすものである。今回は、まず、合理的な判断・意思決定としての期待効用理論を説明し、それと対比して、人間の意思決定の特徴とそれを説明する理論を紹介する。

【キーワード】
決定木、確率判断、価値判断、効用関数、期待効用理論、価値関数、プロスペクト理論

第12回 推論
-論理的に考える、一から十を知る-

問題解決や判断・意思決定の背後には、「推論」が関与している。今回は、代表的な推論様式である「演繹的推論」と「帰納的推論」について説明する。演繹的推論とは、論理的な推論であり、帰納的推論とは、事実を基にして一般化する推論である。

【キーワード】
演繹的推論、帰納的推論、三段論法、ウェイソンの選択課題、実用的推論スキーマ、仮説検証、ベイズ規則

第13回 クリティカルに考える
-信じる心、見抜く心-

われわれが共有している事実はほんの一部にすぎない。互いが誤解なく理解し合うには、様々な場で正しく「推論」することが求められる。すなわち、情報を鵜呑みにせず合理的に推論すること(=クリティカルシンキング)が重要になる。クリティカルシンキングについて、事例を交えながら解説する。また、その育成に知覚・認知心理学の知見がどのように活かせるかを考える。

【キーワード】
クリティカルシンキング、内省、メタ認知、スキーマ、推論、認知バイアス、ステレオタイプ、21世紀型能力

第14回 認知と発達
-推論する心、共感する心-

人間は、人と人との「間」で育ち合い、生物学的「ヒト」から社会に生きる「人」へと発達する。そこには、様々な認知機能の発達が関わってくる。前半、「知覚の熟達化」について解説する。後半、考えるシステムのなかでも「他者の心を推論する」機能がどのように発達するのか、実証研究を通して考察する。

【キーワード】
シナプス刈り込み、馴化脱馴化法、知覚的狭窄、発達的戦略、クロスモーダル可塑性、社会的参照、共同注意、心の理論、誤信念課題

第15回 認知と感情
-悲しいから泣くのか-

感情は、「考えること」と密接に関係している。今回は、人の認知機能・認知行動に、感情(情動)がいかに関わるのかを以下の3点に絞って説明する。①感情の基本的特性と理論、②感情が認知(記憶や判断・意思決定など)に及ぼす影響、③認知が感情に及ぼす影響。

【キーワード】
情動、気分、基本感情モデル、軸モデル、ジェームズ=ランゲ説、キャノン=バード説、気分一致効果、扁桃体、前頭前野

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