第9回 記憶のしくみ Ⅱ -日常記憶-

知覚・認知心理学(’19)

Psychology of Perception and Cognition (’19)

主任講師名:石口 彰(お茶の水女子大学名誉教授)

【講義概要】
人間は「考える」能力を持っています。考える能力には、大切な事柄を記憶する、問題を解く、どちらが良いか判断する、旅行の計画を立てるなど、意識的に考える能力のほか、見る、聞く、驚くなど、無意識的に考える能力があります。この「考えること」が、広い意味での、認知機能なのです。知覚・認知心理学は、このような、「考えること」の科学です。この講義では、認知の低次過程といえる感覚・知覚等の無意識的な機能から、問題解決や判断・意思決定などのより高次で意識的な認知機能のしくみを解説します。

【授業の目標】
知覚・認知心理学は、実証科学の一員です。実証科学とは、実験を通して得られた事実(エビデンス)に基づいて、仮説やモデルを検証する科学です。この授業では、単に、人間の認知に関する現象や事実を体験し理解するだけでなく、それらの背後に潜む人間の認知のメカニズムを、いかに実証するか、その方法論も併せて理解することが、目標となります。

【履修上の留意点】
履修にあたって、予備知識は特に必要としませんが、高校の生物学の知識があると、理解がより深まると思います。ただし、実証科学の一員として、論理的な思考は、不可欠です。レポートを書くうえでも、論理的なストーリー展開が、求められます。

第9回 記憶のしくみ Ⅱ
-日常記憶-

日常場面を中心に、記憶の忘却と変容に焦点を当てる。前半は、人間がどのように情報を符号化し、そして貯蔵された情報の中から、何がどのように検索されるのかを概説する。後半は、記憶が変容するメカニズムについて、知覚・認知研究を通して考察する。

【キーワード】
フラッシュバルブ記憶、リハーサル、自己参照効果、再生、再認、忘却曲線、検索、干渉効果、符号化特殊性原理、フォールスメモリ、スキーマ、事後情報効果


フラッシュバルブ記憶(第1回 知覚・認知心理学とは)
フラッシュバルブ記憶 – Wikipedia

覚えること 符号化の方略
記憶とは神経科学的には、脳内の神経ネットワークの変化、シナプス結合の再編成である。(第8回 記憶のしくみ Ⅰ)

記憶を測定する
記憶の測定方法には、再生と再任によるものがある。(第2回 知覚・認知心理学の研究法)

 

エビングハウス
ヘルマン・エビングハウス – Wikipedia
エビングハウスの忘却曲線とは?


記憶の変容フォールスメモリは、無意識にしてなってしまうらしい、自分は正しい記憶と思っていても、違っていたり、創ってしまう。これは、人間の知識構造であり、人間の情報処理の特徴に関わること。

この様な記憶を元に人間は、さまざまな思考をし、重要な決定をしている。

なぜ、PCの記憶装置のようではなく、このような記憶をするように人間はなっているのか?

 

事後情報効果
〔研究者コラム〕「あまり知られていない犯罪心理学の世界(第3回)」―目撃者の証言

感情一致効果 感情が行動を規定する
気分一致効果とは「何かを記憶しようとする時の気分と、その記憶内容が一致していると、思い出しやすい」というものです。 ですから憂鬱な気分の日々を過ごしている人は、気づかないうちに憂鬱な内容の記憶素材(多くは自分に関するネガティブな過去経験)を覚えこみやすいということになります。


問題 2 次の①~④のうちから,正しいものを一つ選べ。

系列位置効果が生じるのは,系列の最初のほうは順向性,最後のほうは逆向性の干渉を受けるためである。
再認課題において,学習時に「見なかった」ものをテスト時に「見た」と回答することをミスという。
③ 記銘時と想起時の感情が一致しているときのほうが思い出しやすいことを感情一致効果という。
④ 目撃者の記憶は目撃した出来事が起こった後に提示された情報に影響され変容することがある。これを事後情報効果という。 正解です。

フィードバック 正解は④です。

【解説/コメント】

①印刷教材第 9 章第 1 節(2)(3),図 9-3 を確認してください。15 項目程度の短期記憶課題を行い,その結果をグラフにすると系列位置効果が見られます。系列位置曲線は,系列の最初のほう最後のほう正答率が高くなる「U 字型」を示します。これは,系列の最初のほうでは新しい記憶が古い記憶を妨害する逆向性干渉(=逆向抑制),最後のほうでは古い記憶が新しい記憶を妨害する順向性干渉(=順向抑制)によるものです。

②印刷教材第 9 章第 1 節(2),図 9-1 を確認してください。ミスではなく「フォールスメモリ」(=フォールスアラーム)と言います。ミスは学習時に見たものをテスト時には見なかったと回答すること(見逃し)を指します。ヒットは学習時に見たものをテスト時にも見たと回答すること,コレクトリジェクションは学習時に見なかったものをテスト時にも見なかったと回答することを指します。印刷教材第 9 章第 2 節(4)でもフォールスメモリに触れています。併せて確認してください。

③印刷教材第 9 章第 1 節(3)【文脈手がかりによる検証】をよく読んでください。これは符号化特殊性原理の内的文脈に関する現象で「感情状態依存」と呼ばれます。感情一致効果(=気分一致効果)は,感情と一致する情報を思い出しやすいことを指します。混乱しないように気をつけましょう。また,感情一致効果については印刷教材第 15 章でも触れています。併せて確認してください。

④よく理解しています。印刷教材第 9 章第 3 節を確認してみましょう。事後情報効果の検証は,ロフタスら(1974)の自動車事故の映像を用いた実験が有名です。事後情報効果には,情報の一部が書き換えられてしまう「上書き仮説」や,元の情報と事後情報が共に存在する「共存仮説」などが指摘されています。

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