第12回 推論 -論理的に考える、一から十を知る-

知覚・認知心理学(’19)

Psychology of Perception and Cognition (’19)

主任講師名:石口 彰(お茶の水女子大学名誉教授)

【講義概要】
人間は「考える」能力を持っています。考える能力には、大切な事柄を記憶する、問題を解く、どちらが良いか判断する、旅行の計画を立てるなど、意識的に考える能力のほか、見る、聞く、驚くなど、無意識的に考える能力があります。この「考えること」が、広い意味での、認知機能なのです。知覚・認知心理学は、このような、「考えること」の科学です。この講義では、認知の低次過程といえる感覚・知覚等の無意識的な機能から、問題解決や判断・意思決定などのより高次で意識的な認知機能のしくみを解説します。

【授業の目標】
知覚・認知心理学は、実証科学の一員です。実証科学とは、実験を通して得られた事実(エビデンス)に基づいて、仮説やモデルを検証する科学です。この授業では、単に、人間の認知に関する現象や事実を体験し理解するだけでなく、それらの背後に潜む人間の認知のメカニズムを、いかに実証するか、その方法論も併せて理解することが、目標となります。

【履修上の留意点】
履修にあたって、予備知識は特に必要としませんが、高校の生物学の知識があると、理解がより深まると思います。ただし、実証科学の一員として、論理的な思考は、不可欠です。レポートを書くうえでも、論理的なストーリー展開が、求められます。

第12回 推論
-論理的に考える、一から十を知る-

問題解決や判断・意思決定の背後には、「推論」が関与している。今回は、代表的な推論様式である「演繹的推論」と「帰納的推論」について説明する。演繹的推論とは、論理的な推論であり、帰納的推論とは、事実を基にして一般化する推論である。

【キーワード】
演繹的推論、帰納的推論、三段論法、ウェイソンの選択課題、実用的推論スキーマ、仮説検証、ベイズ規則


1.推論の様式

2.演繹的推論

3.帰納的推論


1.推論の様式

推論機能 演繹的推論 帰納的推論

意味情報を増加させる。 フィリップジョンソンレアード(Johnson Laird)

2.演繹的推論

三段論法(syllogism)には、条件三段論法、提言三段論法などがある。

アリストテレスの『オルガノン』(『分析論前書』『分析論後書』)によって整備された。

認知心理学では、条件三段論法で導かれた結論が妥当かどうかを、人間がどのように判断するかが検討すべき問題となる。エバンズ(Ecans 1993)

ウェイソンの4枚カード課題に関する研究のレビューウェイソンの4枚カード課題に関する研究のレビュー

ウェイソンの選択課題    演繹的思考を学ぶための有名なタスクである[4]

3.帰納的推論

推論の2重システム
二重過程理論 – Wikipedia
衝突・協力する「2つの心」 Evans (2010) – えめばら園


問題 7 次の①~④のうちから,正しいものを一つ選べ。

実用的推論スキーマが働くような選択課題では,「 P ⇒ Q」といった規則が与えられたとき,そこに義務や掟などの,社会的ルールが関与する場合が多い。
帰納的推論には,一般帰納特殊帰納があるが,特殊帰納とは,専門的知識に関する帰納的推論である。 不正解です。
③ 人は自らの仮説を検証する際には,反証を挙げる傾向があり,これは帰納的推論における反証化バイアスと呼ばれる。
④ ベイズ規則による仮説評価では,データが与えられれば,仮説の確からしさは,必ず上がる。

フィードバック 正解は①です。

【解説/コメント】

①よく理解しています。基本的なウェイソンの選択課題は,主張の真偽を問うのに必要なカードを選ばせるという課題です。一方,グリッグスとコックスが行った,規則遵守を問う選択課題では,義務や掟など,社会的ルールが関与し,実用的推論スキーマが働くと言われています。

②印刷教材の第 12 章第 3 節をよく読んでください。帰納推論には一般帰納と特殊帰納があるという点では正しいです。しかしながら,特殊帰納は前提事例と同じレベル・階層にある他の事例の特性を導き出す帰納推論であり,専門的知識に関する帰納的推論ではありません。

③印刷教材の第 12 章第 3 節をよく読んでください。ウェイソンの 2・4・6 課題の結果に示されるように,人は自らの仮説を検証する際には,自分の仮説を確証すると思われる事例を挙げる傾向があります。これは帰納的推論における確証化バイアスと呼ばれます。

④印刷教材の第 12 章第 3 節をよく読んでください。ベイズ規則による仮説評価では,データが与えられても,仮説の確からしさは下がる場合があります。つまり,ある仮説 H のもとで,データ D が得られる条件付確率(尤度)P(D|H)の値が,もともと小さければ,H の下では D は余り得られないということですから,D が得られたら,仮説の確からしさは,下がるでしょう。


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