第1回 神経・生理心理学への招待

神経・生理心理学(’22)

Neuro- and Physiological Psychology (’22)

主任講師名:髙瀬 堅吉(中央大学教授)

【講義概要】
神経・生理心理学では、心の生物学的基礎についての学びを主題とします。講義では、知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きを担う脳の機能を中心に学びます。また、睡眠、生体リズム、遺伝子と行動、心の発達、心の病気についても、その生物学的基礎を紹介します。これらの知見に加えて、心の生物学的基礎を明らかにするための研究手法についても触れ、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。講義内容は、公認心理師試験出題基準(ブループリント)の項目を網羅し、臨床の現場に関連する話題も扱います。

【授業の目標】
神経・生理心理学の基礎的知見、考え方を身につけることを目標とします。具体的には、1)心の諸機能の生物学的基盤、特に神経系、内分泌系のつくりと働きを理解し、2)知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きが、神経系や内分泌系の働きによってどのように営まれているかを学びます。そして、1、2の知見を明らかにするための研究手法も学び、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。

【履修上の留意点】
心理学の概論的講義を履修済みであることが望ましいです。また、数学、物理学、化学、生物学の知識が受講者に備わっていると、講義の理解は容易になります。しかし、これらの予備知識については、放送授業や印刷教材で、そのつど説明します。

各回のテーマと授業内容
第1回 神経・生理心理学への招待

神経・生理心理学は、心の生物学的基礎を解明し、心と身体の関係を明らかにする学問です。神経・生理心理学の代表的な研究を紹介し、学問分野のイメージをつかむとともに、その歴史的背景についても概観します。

【キーワード】
一元論、神経・生理心理学における代表的な臨床例

脳損傷事例、ドナルド・O・ヘッブ


1.神経・生理心理学

2.心を生物学的に捉える試みの歴史

・アリストテレス

第02回 アリストテレス:『心とは何か』

・ルネ・デカルト

第1回 心理学とは

・フランツ・J・ガル

第05回 生理心理学

・ヴィルヘルム・M・ヴント

第05回 ヴント:『民族心理学』

3.ドナルド・O・ヘップ

「行動の機構」に記載された

ヘップ則

細胞集成体生物の幼少期の知覚学習においては,特定の刺激が脳内のある特定のニューロン群をつねに興奮させるようになると考えられる。この過程で形成される,相互に結合して閉回路をなすニューロン群が一つの機能的単位をなすと考えた心理学者ヘッブは,これを「細胞集成体」と名づけた。細胞集成体は,それを興奮させる固有の知覚刺激がなくなった後でも,さらには別の細胞集成体の興奮によっても興奮する場合があるとされ,それが,心的イメージとか観念作用のような媒介過程の神経学的基礎になると考えられる。

・位相連鎖 複数の刺激が連続して頻繁に生じる時には、複数の興奮した細胞集成体が相互に連合するようになり、細胞集成体間のネットワークをさせると考えた。

4.神経・生理心理学における前提

・二元論

デカルトの心身二元論・・・・・「心」と「物質」は、まったく異なる種類のものとして認識される「世界には物質と精神という根本的に異なる2つの実体がある。」

性質二元論または中立二元論・・・・・物理的なものと対置されるものとして、主観的な意識的体験、すなわち現象意識やクオリアを想定している。

・一元論・・・・・「心」も「物質」も根本的には同じ種類のものだとする。

物的一元論・・・・・唯物論または物理主義とも呼ばれる。心と脳を同一と考える考えたかを同一説と呼ぶ。神経・生理心理学は、この同一説を前提とした学問だと考えてよい。

5.神経・生理心理学の関連領域

精神薬理学

認知神経科学 認知ゲノミクス・行動ゲノミクス

比較心理学

 


第1回 神経・生理心理学への招待

神経・生理心理学は、心の生物学的基礎を解明し、心と身体の関係を明らかにする学問です。神経・生理心理学の代表的な研究を紹介し、学問分野のイメージをつかむとともに、その歴史的背景についても概観します。

【キーワード】
一元論、神経・生理心理学における代表的な臨床例

第2回 心の生物学的基礎(神経系①)

心の生物学的基礎の一つである神経系について、神経細胞、グリア細胞、さらに情報伝達において中心的役割を担うシナプスについて紹介します。

【キーワード】
神経細胞(ニューロン)、グリア細胞、シナプス

第3回 心の生物学的基礎(神経系②・内分泌系)

神経細胞が情報を送る仕組みについて、「伝導」と「伝達」を紹介します。また、脳の機能局在についての概要、さらに、血中に分泌される物質を通じた情報伝達の仕組み(内分泌系)についてもお話します。

【キーワード】
活動電位、神経伝達物質、中枢神経、末梢神経、自律神経、機能局在

第4回 外界を知覚する仕組み①

私たちが外界を知るための感覚・知覚機能について、その生物学的基礎を紹介します。①では、視覚をとりあげ、網膜によって受容された外界からの光が、どのような情報処理によって視知覚となるのかを学びます。

【キーワード】
知覚、網膜、受容野、視覚皮質、背側経路、腹側経路

第5回 外界を知覚する仕組み②

①でとりあげた視覚以外の、聴覚、味覚、嗅覚、体性感覚について、それぞれの情報処理の仕組みを理解するとともに、いずれの受容器も、外界の物理化学的刺激が神経細胞の膜電位変化への変換を起点として情報処理を開始することを学びます。

【キーワード】
蝸牛管、有毛細胞、周波数局在、嗅細胞、味細胞、体性感覚皮質

第6回 記憶の生物学的基礎

長期増強、長期抑圧など、記憶の生物学的基礎について学びます。また、健忘を呈した患者の代表的な臨床例をとりあげ、脳における記憶の局在についても紹介します。

【キーワード】
記憶、シナプス可塑性、長期増強、長期抑圧、健忘

第7回 学習・認知の生物学的基礎

レスポンデント条件づけやオペラント条件づけの生物学的基礎を紹介します。また、学習の過程で重要な役割を示す脳内報酬系とその異常である依存についても学びます。さらに、空間認知など、より高次の機能の生物学的基礎についてもとりあげます。

【キーワード】
学習の生物学的基礎、条件づけ、脳内報酬系、依存症、認知神経科学

第8回 情動の生物学的基礎

喜怒哀楽は人生を彩るものであるだけでなく、自分の置かれた状況や今とるべき行動を生体に教えてくれる生存に必須の機能です。この、情動という機能の生物学的基礎を学びます。

【キーワード】
感情、感情に関する神経科学、感情の進化、感情と心身の健康

第9回 意識の生物学的基礎

意識と呼ばれる主観的現象を科学的に明らかにする試みは、近年、目覚ましい発展を遂げています。意識研究の歴史から、近年の前頭葉機能を中心とした最新の研究までを紹介します。

【キーワード】
意識、前頭葉、高次脳機能障害、リハビリテーション

第10回 コミュニケーションの生物学的基礎

失語症患者の臨床研究から明らかにされてきた言語情報処理に関わる知見を学ぶとともに、私たちが他者とコミュニケーションをとる際に必要と考えられている「心の理論」の生物学的基礎、コミュニケーションに関わる神経系、内分泌系の働きについても紹介します。

【キーワード】
失語症、ディスレクシア、心の理論、自閉症スペクトラム障害

第11回 睡眠・生体リズム

睡眠は生存に必須の営みであり、心の健康の維持にも必要な機能です。講義では睡眠の生物学的基礎を学ぶとともに、睡眠のように周期性のある生体リズムについても紹介します。

【キーワード】
睡眠、サーカディアンリズム、脳波、事象関連電位

第12回 遺伝子と行動

親から受け継いだ遺伝子の情報に基づいて合成されたタンパク質が、私たちの身体をどのようにかたちづくるのか、そして私たちの行動にどのような影響を与えるのかについて学びます。

【キーワード】
染色体、DNA、RNA、タンパク質、遺伝子改変動物、光遺伝学

第13回 心の発達の生物学的基礎

心の発達は、その生物学的基礎である神経系、内分泌系の発達と深くかかわる現象です。これらの生体システムがどのように発達を遂げていくのかについて、生涯発達の観点から紹介します。

【キーワード】
発達、加齢、生涯発達の遺伝的基盤

第14回 心の病気の生物学的基礎

気分障害や統合失調症の生物学的基礎について、神経伝達の異常という観点から紹介します。また、発達障害など、生物学的基礎が十分に明らかになっていない心の病気についても、現時点で解明されている知見を紹介します。

【キーワード】
気分障害、統合失調症、薬理作用、発達障害

第15回 まとめと展望

これまで学んできた内容を振り返りつつ、これらがどのような研究手法によって解明されてきたのかを学びます。そして、神経・生理心理学の今後の発展についても紹介します。

【キーワード】
脳機能計測技術、生物心理社会モデル

Pocket
LINEで送る