第9回 認知と進化
第9回 認知と進化
認知心理学ではヒトの判断と意思決定は合理的とは言えないと考えられている。しかし、非合理的な判断・意思決定をする生き物は適応的とは言えない。第9回の講義では、ヒトの認知の(非)合理性について検討する。
【キーワード】
ヒューリスティック、バイアス、エラー管理理論、領域固有性
1.ヒューリスティックとバイアス
(1)ヒューリスティック
与えられた情報をフル活用せず、簡便な問題解決方略を使っている。
(Tversky & Kahneman,1974)
(2)なぜ間違えるのか
「複雑な課題を単純な手続きで解くことを可能にする、多くの場合役に立つ簡便な問題解決方略」
ヒューリスティック自体、それが、合理的に推論した結果なのか、ヒューリスティックを使った結果なのか区別がつかない。
(3)環境との整合性
再認ヒューリスティック 再認ヒューリスティックは、情報処理の際に使用される認知の補完手法です。このヒューリスティックは、過去の経験や知識に基づいて、問題解決や意思決定を行う際に効果的な戦略を提供します。
再認ヒューリスティックでは、過去に経験した情報や要素を再び出現するときに、それを正確に認識しやすくなるという考え方に基づいています。人々は、既に知っている情報やパターンに基づいて情報を処理する傾向があります。そのため、過去に何度も出現した情報は、再び出現したときにより速やかに認識できるという仮説があります。
例えば、再認ヒューリスティックは、商品のブランドロゴや広告のキャッチフレーズが再び現れた場合、それにより消費者は商品に関連する情報を素早く認識しやすくなると予測します。同様に、過去に学習した知識や概念が再び現れた場合、その情報をより速やかに再認できると言えます。
再認ヒューリスティックは、情報処理の効率を向上させる可能性がありますが、注意が必要です。過去の経験や知識に基づく判断は、新しい情報や状況に対応するために柔軟性を失う可能性があります。そのため、常に適切な判断を下すためには、他の戦略や情報源と組み合わせることが重要です。
2.エラー管理理論
(1)信号検出理論
信号検出理論によれば、見落としを減らそうとすればどうしても誤警報が増え、誤警報を減らそうとすればどうしても見落としが増えます。
(2)エラー管理理論
見落としか誤警報のうちどちらかを選ばなければならない状況では、相対的に損失の小さい間違いを犯しやすい傾向が進化します。
見落としか誤警報のうちどちらかがよりましな間違いかは、どのような適応問題について考えているかによって変わるということです。
(3)配偶パートナーの意図の推測
男性には女性の性的意図を過剰知覚する傾向がある。(見落としを減らして誤警報を増やす)
女性には誤警報をできるだけ減らそうとする傾向が進化した。
3.認知の領域固有性
(1)ヒトは論理的推論が苦手?
確証バイアスの証拠となる
自分が正しいと思っている仮説を確かめようとする傾向がある。しかし
反証を探して仮説が間違っている可能性を検討しようとはしない。
(反証:その仮定的事実や証拠が真実でないことを立証すること。そのための証拠。)
(2)領域固有性
「PならばQ」
適応に関連する領域に特異的に問題解決能力がはたらくことは、認知に領域固有性があるという。
(3)領域固有性を越えて
どんな問題には一般性をもって当てはめることができる抽象的なレベルで考えるよりも、個別領域の具体的な問題として考える方が理解しやすいことがある。
領域一般性 人間は領域個別性から開放された一般的な認知能力も持っている。個別の領域を越えて抽象的に思考する能力がある。
認知心理学は、ヒトを間違えやすい存在とみなしている。
進化心理学は、その認知心理学のみなし方を疑問視する、そんなに間違いやすいとしたら適用的ではない。
・ヒューリスティックは実際には役に立つ
・特定の間違いをしやすいとしても、それは別の種類のより深刻な間違いを回避する可能性を秘めている
・適用上、重要な領域を与えてあげたが、苦手とする論理的推論ができること。