第6回 内的世界の理解:対象関係論

一回目 2023/11/20
二回目 2024/01/08

「対象」というと自分の外側にある物や相手をイメージするだろうが、対象関係論では主に「内的対象」を指す。私たちの心のなかの「自己-対象」表象の性質が、現実のできごとや対人状況を意味づけるという考え方である。言語では掬いきれない体験水準のことを説明するのは難しいが、対象関係論の考え方とその臨床的な意義をみていく。

【キーワード】
対象関係論、内的対象、表象、無意識的空想、思考の生成、コンテイニング


1.対象関係論の視点

ある人とかかわりをもちたいという関係希求のニーズに重点を移動したモデルである。

(1)心の中に棲んでいる対象の表象

対象関係論の対象とは、「内的対象」を意味する。私たちの外側にある外的対象ではなく、心の中に内的対象の表象があるということを想定する。表象というのは、心に思い描かれるもので感覚や機能や情動を含んでいてイメージよりはもう少し長く存在していると考えられる。

(2)「自己ー対象」が対となったいくつもの表象群

心の中には、対象にまつわる表象だけでなく、自己にまつわる表象もある。

部分対象関係・・・クラインによれば、子どもは外界を捉える過程は部分対象関係からスタートするとされます。部分対象とは、その瞬間に自分を満足させてくれるかどうか、つまり快-不快の状態と対象を結び付けて捉えることを指します。

(3)内から外へ

成人であっても他者と話していく中で、自分が相手に何を期待しているのかがわかるという経験をすることがあるだろう。

(4)プレイセラピーの例

マルトリートメント・・子供への適切ではない接し方・養育であり、虐待を包含する概念である。接頭辞mal-は悪い・不規則・不良・不全を意味する

2.クラインとウィニコット

(1)クラインの臨床と業績

メラニー・クライン・・・乳幼児期における良い乳房と悪い乳房の未統合によって精神的な問題が起こるとした(対象関係論)。後期フロイト死の欲動概念に注目した独自の方向性でクライン学派を作り出し、フロイト以後の精神分析に大きな影響を与えた。

クライン自身の生い立ちにより精神分析を行うようになった。若いころ医学を学びたいと思っていたが、10代の頃、父と兄が相次いでなくなり、医学の道を諦めて、20歳の時に実業家と結婚した。が結婚の破綻、母親と子供の死により、抑うつ状態となった。二人の精神分析家から精神分析を受けた。二人目の精神分析家のアブラハムから子供の精神分析の方法を苦労して編み出していった。

大人の自由連想にあたるのは、子供の場合は遊び自由なプレイではないかと考えました。そして大人の自由連想が止まる抵抗のところに葛藤があるならば、子供の遊びが滞るところにプレイが静止するところに不安や葛藤がある。その事態そのものを解釈すると子供の自発的な動きが再び動き出すことを経験を通して実感していった。

フロイトとは、空想の位置づけが異なっている。フロイトは欲動が原動力となって夢や空想が創り出されるのだとしたが、クラインは、本能に由来する無意識的空想こそが一次的なものだとした。

(2)ウィニコットの臨床と業績

D.W.ウィニコット・・・彼は対象関係理論にも大きな影響を及ぼし、特に1951年の論文「移行対象と移行現象」[4]では、子供がストレスの掛かった中で不安を免れるために拠り所とする馴染みの大切にしている対象に焦点を当てて議論している。

「一人の赤ん坊などというものはいない」(1960)環境の役割を重視し母子をひとつのユニットととらえた。

3.ビオンによる独自な思索とその影響

W.R.ビオン・・・メラニー・クラインドナルド・ウィニコットロナルド・フェアバーンらと並び称されるイギリス精神分析家である。第一次、第二次世界大戦に従軍した[1]。ビオンは精神分析家になるまでに相当の回り道をしており、当時にしてはかなり遅い50歳になってようやく精神分析家となった。その後、ビオンは精神病の精神分析の経験から、グリッド、思考の理論、コンテイナー・コンテインド理論など早期乳幼児期を念頭においた理論構築を精力的におこなっていった。この影響は非常に大きく、現代の精神分析や対象関係論を理解する上で欠かせないものになっている。[2]

グループ心性の解明・・・集団にも個人と同じように独自にうごめく非理性的な無意識があり、集団がなすべき課題からたやすく離れて、迫害不安に抗する防衛的な文化をグループ全体が発展させること。

(1)思考の生成

思考の生成と成熟モデル

乳児は生まれながらに前概念をもっている。本能的な知識や物事の関連性についての前概念をもっており、それは期待の状態に相当するものであり、現実の体験とつがうことによって概念(conception)が生じ、その繰り返しによって物事の関連性がかわっていく。

(2)コンテインメントの理論

コンテイニングはクライエントが恐れ・拒絶している部分の投影を受け取る容器(コンティナー)となり、クライエントの不安に圧倒されてしまうことなくもちこたえ考え続けるプロセスであり、セラピストの機能のことである。


対象関係論(たいしょうかんけいろん、Object relations theory)は精神分析の一方法論である。ジークムント・フロイトの理論を基に、メラニー・クラインらが児童や精神病性疾患の精神分析に取り組む中で、新しいやり方として発展した。

概要 概ね「ヒト」を意味することの多い対象、つまり自分以外の存在との関係性の持ち方に焦点が当てられる。この関係性の持ち方には外的なもの(現実的なもの)と内的なもの(個人の心の中のもの)とのずれがあり、このずれを本人がどのように体験しているかを実際の治療場面では扱う。

ジークムント・フロイト精神分析においては治療は無意識リビドー(性欲)の抑圧などに主眼をおき、治療者がそれに解釈を与えることによって治療が成り立つとしていた。対象関係論では対象関係が問題の中枢であり、治療者と被治療者の間に何が起こっているのかについて詳しくとらえる事が治療上重要とされている。


Bionのコンテイニング理論

 ビオンは、なかなか難解な言葉をたくさん作っていった人ですね。結構好きですけど…。

 セラピストがクライエントの気持ちにしっかりと関心を持ち、話を聞いていくという部分では、どのような心理療法でもコンテイニングの基本があるのです。
コンテイニングとは、更にクライエントがセラピストに投影をしていく、つまりクライエントが感じたことをセラピストに投げ込み、それをセラピストがクライエントに受け止めやすい形で伝え返していくことで、思考が整理されていく過程を推し進める、ということなのですね。

ウィルフレッド・ルプレヒト・ビオン(W.R.Bion, 1897-1979)

 

Pocket
LINEで送る