第13回 精神鑑定をめぐって
司法・犯罪心理学(’20)
Forensic and Criminal Psychology (’20)
主任講師名:廣井 亮一(立命館大学教授)
【講義概要】
公認心理師法における「司法・犯罪分野」の要点を踏まえて、少年事件、刑事事件、家庭紛争事件の3部で構成する。
第1部は、司法における犯罪心理学、非行臨床をもとに少年事件を取り上げる(第1回~第4回)。第5回では犯罪者・非行少年の更生に関わる専門家の活動を紹介する。
第2部は、児童虐待、高齢者虐待、離婚と面会交流などの家庭紛争事件、さらに体罰問題など学校に関わる問題への対応を解説する(第6回~第9回)。
第3部は、攻撃性をもとに犯罪の4類型を理解したうえで、ストーカー犯罪、凶悪事件の精神鑑定例、犯罪被害者への贖罪を取り上げる。また、司法における心理臨床家の活動も紹介する。最後に現在の司法の潮流である司法臨床、治療的司法、加害者臨床をもとに、司法・犯罪心理学の展望と課題を解説する(第10回~第15回)。
【授業の目標】
公認心理師法における「司法・犯罪分野」の要点である、少年事件、刑事事件、家庭紛争事件の3部門を学ぶ。そのうえで司法の枠組みを踏まえた、少年への非行臨床、成人への加害者臨床、家庭事件への家族臨床の展開を理解することを目的とする。
【履修上の留意点】
新聞等で少年や成人の事件、家庭での虐待事件等の報道を読み、現代の少年非行、成人犯罪、家庭事件の特徴を考えておく。さらに、講義で関心をもったテーマを各自でさらに深く学ぶこと。
第13回 精神鑑定をめぐって
・精神鑑定には、責任能力鑑定、情状心理鑑定などがあることを提示したうえで、その違いを事例を通して説明する。
・刑事裁判における当事者主義法学と治療法学による司法観の違いを解説する。
・刑事裁判において、法律家(裁判官、弁護人、検察官)、当事者(被害者、加害者、それぞれの家族)に対する説明責任について説明する。
【キーワード】
責任能力鑑定、情状心理鑑定、犯罪動機、治療的司法、説明責任
1.責任能力鑑定と情状心理鑑定
(1)責任能力鑑定
(2)情状心理鑑定
(3)責任能力鑑定と情状心理鑑定の違い
犯罪心理鑑定とは何か? 犯罪心理学とは
責任能力とは?無罪になる理由や精神鑑定の3つのタイプを解説
責任能力鑑定と情状心理鑑定に関する次の①~④の記述から,誤っているものを一つ選びなさい。
① 責任能力鑑定の結果,責任能力がないと判断すれば心神喪失とされ,その者に刑罰を科すことはできない。
② 責任能力鑑定の結果,責任能力が大幅に損なわれていたならば心神耗弱とされ,その者の刑は減軽される。
③ 情状心理鑑定とは,裁判所が決定する刑の量定のために,必要な智識の提供を目的とするものである。
④ 情状心理鑑定は,責任能力に問題がないと判断された場合は行われない。
フィードバック
正解は④です。
【解説/コメント】
責任能力鑑定とは,刑法 39 条に基づくもので,被疑者/被告人の精神障害などの生物学的要素の有無,さらにその症状として被告人が事物の理非善悪を弁識する能力があるかどうかということと,その弁識に従って自らの行動制御する能力があるかどうかという,心理学的要素を鑑定するものです。
その結果を裁判官らが参照して,責任能力がないと判断すれば心神喪失とされ,その者に刑罰を科すことはできません。責任能力が大幅に損なわれていたならば心神耗弱とされ,その者の刑は減軽されます。
情状心理鑑定は,刑法 25 条の執行猶予や,刑法 66 条の酌量減軽に関するものです。
情状心理鑑定とは,訴因事実以外の情状を対象とし,裁判所が刑の量定,すなわち被告人に対する処遇方法を決定するために必要な智識の提供を目的とする鑑定です。
情状心理鑑定は,責任能力に問題がないと判断された場合でも,その刑罰の種類やその程度を決めるために行われることがあります。