第12回 原因と結果をめぐる錯覚

第12回 原因と結果をめぐる錯覚

出来事の原因は何であるかを考える心の働きが、原因帰属推論である。この推論は、人の心理にとって、私たちが思っている以上に重要な役割を果たしている。この帰属推論が、人の動機づけを左右し、対人認知の歪みにもつながることを理解し、よりよい帰属推論を行うためのポイントを考える。

【キーワード】
学習性無力感理論、基本的帰属錯誤、行為者観察者効果、情動二要因理論


1.物事の原因は心理的に決定される

(1)「原因」とは一体何なのだろう。

原因とは
・ある物事や状態を引き起こすもと(として働くこと) ・着目する事柄Bに対して、それに時間的に先立つ幾つもの事柄のうちの、ある(一つとは限らない)Aが起こらないまたは無いとすればBも実現しないだろうと思われる場合、AをBの「原因」、BをAの「結果」と言う

原因帰属推論 「原因帰属推論」とは、ある物事の結果の原因を何に帰属させるか、出来事や人の行動の原因を推論する理論のことです1。この理論は、我々が自分自身や他者の行動について、その成功や失敗の原因をどう考えるかということに関係しています2

必要原因 Xが存在しないとYは起こらない。一つでも欠けると出来事は起こらない

十分原因 XさえあればYは起こる

原因を推測し決定するプロセスは、原因帰属と呼ばれ、視知覚と似た不良設定問題になっている。

「表面的に一番、目につくものが原因」J.S.ミル

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%AB

(2)分散分析モデルの考え方

内的帰属 起こった事象について、当事者本人にその原因を求めることを言います

外的帰属 起こったことの原因を、自分以外の誰かや外的な状況に求めることです。 

ケリーの立方体モデル

あの人はなぜあんな行動を取るのか?立方体モデルで考える

ケリーの分散分析モデル(ANOVAモデル)

http://hirominobenkyobeya.air-nifty.com/pleasecomein/2004/12/post_26.html

(3)原因帰属のバイアス

原因帰属の錯覚

・基本的帰属錯誤

他人の行動の原因を考える際、その人の性格や能力などの内的な影響を過度に重視し、状況や環境による要因の可能性を見逃してしまいやすいことを意味します。状況や環境が原因なのではなく、その人自身が原因と考えてしまうこと。

・自己奉仕バイアス: Self-serving bias

成功を当人の内面的または個人的要因に帰属させ、失敗を制御不能な状況的要因に帰属させること。 自己奉仕バイアスは、成功は自分の手柄とするのに失敗の責任を取らない人間の一般的傾向を表している 。 それはまた、曖昧な情報を都合の良いように解釈しようとする傾向として現れるとも言える。

・行為者観察者効果(actor–observer effect)

自分の行動は「状況」や「出来事」に帰属させ、反対に他者の行動は「性格」や「能力」に帰属させる心理傾向 つまり、 自分が行為者である場合、自分の行動は外的要因に帰属させがちになる。 自分が観察者である場合、他者の行動はその他者の内的要因に帰属させがちになる。

(4)原因帰属の自己高揚・自己防衛バイアス

「自己高揚/自己防衛 動機」 と 「記憶・知覚、認知バイアス」により原因帰属の錯覚が起こる。

内集団バイアス 内集団バイアスとは、自分が所属するグループ(内集団)の人を優遇する心理傾向です。 内集団バイアスの本質は、あくまでも「仲間へのひいき」です。 しかし、グループ内の内集団バイアスが強化されていくと、 内集団ひいき ↓ 外のグループを蔑視・敵視 ↓ グループ間抗争 へと発展していく場合もあります

フォールス・コンセンサス効果(合意性推測の過大視)

フォールス・コンセンサス(偽の合意効果)「False consensus」とは、自分の意見や考え、行動が常に多数派でありかつ正常であると思い込む、認知バイアス(認知の偏り)のことです。周囲が合意してくれていると勝手に思い込む行為から、この名前がついています。フォールス・コンセンサス(偽の合意効果)効果は、「偽の合意効果」や「総意誤認効果」ともいいます。

フォールス・コンセンサス(偽の合意効果)効果は、たとえば学校や職場など、グループで議論したときに頻繁に発生します。特定の集団内で合意すると、さらに一般的でかつ大きな集団、たとえば市民やさらにいうと、日本人全体でも同じだろうと思ってしまう傾向が生まれがちです。わざわざ外部に、議論している内容を調査したり議論する機会がないと、ついそう信じ込んでしまいます。

2.原因帰属スタイルと心身の健康

(1)原因帰属を改善する

改訂版学習性無力感理論

https://esdiscovery.jp/knowledge/basic/apathy002.html

自分が行動しても結果のコントロールは不能だ、ということを覚えてしまった(学習した)ために、「やってもダメだ」という無力感を感じることを「学習性無力感」と言います。1978年に発表された、エイブラムソンらの「改訂学習性無力感理論」は、コントロール不能だ思うことそのものが抑うつ状態に直結するのではなく、コントロール不能だという結果の原因を何とするか、で抑うつが生じるか生じないかが決まると考えます。

無力感予期抑うつ

なぜ「うつ」になるのか?
自分でコントロールできないことで、無力感を学んでしまう。セリグマン「学習性無力感」

原因の説明スタイルの違い

■無力感、うつ状態⇒悲観的帰属 

(ものごとが失敗したときの説明スタイル)⇒内的(自分のせい)、安定的(これからも続いて)、全体的(何をやってもだめだ)

(ものごとがうまくいったときの説明スタイル)⇒自分の力ではない、いまだけ、この件にかぎって

■ストレスに強い⇒楽観的帰属

(ものごとが失敗したときの説明スタイル)⇒外的(他の事情による)、一時的(いまだけ)、特殊的(この件に限って)

(ものごとがうまくいったときの説明スタイル)⇒内的(自分のおかげ)、安定的(これからも続いて)、全体的(どんな場面でもうまくいく)

内的 内的 外的 外的
安定的 一時的 安定的 一時的
全体的 頭が悪い 体調が悪い このテストでは測れない 仏滅だった
特殊的 不得意科目だから その問題だけ勉強していない 学校の勉強は集中できない 隣の席が貧乏揺すり

改訂版学習性無力感理論

非随伴的な

否定的経験 ⇒

統制

不可能性の ⇒

認知

統制不可能な経験

についての原因帰属 ⇒

否定的な結果の予期

統制不可  ⇒

性能の予期

学習性無力感
原因帰属の

・内的

・安定的

・全体的

 

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・自尊感情の低下

・症状の慢性化

・症状の一般化

 

3.感情の誤帰属

(1)悲しいから人は泣くのか

心身相関   情動 ⇐ ⇒ 身体的生理変化・興奮

ジェームズ・ランゲ説(情動の抹消起源説)

「人は悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ」

顔面フィードバック仮説

情動二要因理論  生理的喚起(覚醒の認知)⇒ 情動が認識される。

なぜ喚起が起こっているのか?手がかりからの原因推論(情動ラベリング)

「吊り橋実験」

キャノン・バード説

 


デルブーフ錯視⇒アイラインメイクに応用されている。目がパッチリ見える

 

 

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