第1回 考古学とは何か
考古学(’18)
Archaeology (’18)
主任講師名:早乙女 雅博(放送大学客員教授)、設楽 博己(東京大学名誉教授)
【講義概要】
モノである考古資料は、そのままでは何も語ってくれない。考古学は、モノからさまざまな方法で情報を読み取り、過去の社会や文化を復元し歴史を構築していく学問である。そこで、発掘調査や型式学・年代論・機能論・分布論などの方法論、隣接科学の考古学への応用、それをもとにした具体的な歴史の復元など、考古学の基礎を体系的に講義する。初めて学ぶ者から専門的な学習を目指す者まで幅広い学生を対象としている。
【授業の目標】
考古資料の見方、さまざな方法による分析をもとに歴史を構築していく考古学の研究について、理論と具体例に重点をおいて体系的に習得する。
【履修上の留意点】
講義では現地取材(遺跡や博物館)も多くあるので、あらかじめテキストを熟読して各章の内容を把握した上で、講義を受けることが望ましい。
第1回 考古学とは何か
■考古学とはどんな学門か
・濱田耕作「考古学は過去人類の物質的遺物(に依り人類の過去)を研究するの学なり」
物質的遺物 遺物、遺構、遺跡
チャイルドの定義「時代と社会環境の産物であるわれわれ人類そのわれわれの住む人類社会の形成過程を調査し復元する」
考古学的記録 人類行動の一切の痕跡を包括
人類の行為による自然環境の変化を含む
■考古学の歴史
世界の考古学の歴史、日本考古学の始まり
1836年 トムセン 石器時代 青銅器時代 鉄器時代
1865年 ラルテ&ラボック 旧石器時代 新石器時代
19世紀後半 モルティエ アシュール ムスティエ ソリュート マドレーヌ
ドイツのジルゲンシュタイン洞窟
20世紀 旧石器時代前期・中期・後期 新石器時代 青銅器時代 鉄器時代
トロイの発掘 ハインリヒ・シュリーマン
ハンス・ユルゲンス・エガース
イーリアス:ホメーロスによって作られたと伝えられる長編叙事詩で、最古期の古代ギリシア詩作品である。
進化論を応用したのが、モンテリウスの型式学
これをさらに発展したのが、ペトリー
◯日本考古学の始まり
戦後のニューアーケオロジー(人類学の考古学)
過去の出来事を語る 編年や事実の叙述
共通する人間活動の法則
社会や文化が変化する過程(プロセス)
遺跡、遺構、遺物→民俗学、実験考古学、文献史学→人類社会の形成過程復元、法則性
■考古学の分野と隣接科学
考古学の細分 地域、宗教、遺跡異物の性格
宗教考古学
- ・仏教考古学 日本では6世紀以降 寺院、瓦、仏具
- ・神道考古学 祭事遺跡
- ・聖書考古学 西アジアの青銅器時代中期以降 聖書との記述と遺跡を結びつける
- ・イスラム考古学 7世紀以降 コーランを始め、文献史料が豊富
掩体壕(えんたいごう)
筑紫官衙遺跡(地震)
玉津田中遺跡(洪水)
民俗学、生物学(動物・植物・人類)、分析化学
自然化学的手法
- 年輪年代法(年代)
- 炭素14年代法(年代)
- 熱ルミネッセンス法(年代)
- 同位体比分析(産地、食物)
- 蛍光X線分析(産地、生産技術)
- 鉱物工学的観察(産地)
- 花粉分析(植物)
- プラントオパール(イネ科植物)
■考古学の研究
・発掘→分析→研究
1.考古学とは、過去の人類社会の形成過程の復元、歴史学でもあり人類学でもある。
2.18世紀に、ヨーロッパで考古学研究が始まる。進化論の影響を受けて、20世紀初頭に考古学の基本的な方法論である型式学が確立する
3.1960年代に、アメリカでニューアーケオロジーがおこり、日本にも影響を及ぼす
4.考古資料の自然科学的分析が、研究に取り入られる
5.発掘→分析(方法論、隣接化学)→過去の復元研究
先史時代年表
実年代 (年前) |
地質 年代 |
史的 年代 |
考古 年代 |
人類 | 経済・社会・文化 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
500万年 | 更 新 世 |
先 史 時 代 |
旧 石 器 時 代 |
初源期の人類の出現 | |||
400万年 | アウストラロピテクス・アファレンシス | 猿人 | 獲得経済(狩猟・採集) 礫石器の使用 言語の形成 道具の製作 火の使用 |
群 社 会 野 外 ・ 洞 窟 住 居 |
|||
250万年 | ホモ・ハビリス | ||||||
130万年 | ジャワ原人 | 原人 | |||||
50万年 | 北京原人 | ||||||
12万年 | 中 期 旧 石 器 時 代 |
ネアンデルタール人 | 旧人 | 埋葬開始(宗教の起源) 剥片石器の使用 骨角器の製作・漁労 弓矢の発明 洞窟絵画 |
|||
4万年前 | 後 期 旧 石 器 時 代 |
フマーネ洞窟の壁画 | |||||
6万年 | クロマニョン人 周口店上洞人 |
新人 | |||||
3万6000年前 | ショーヴェ洞穴の壁画 | ||||||
2万年前 | 晩 期 旧 石 器 時 代 |
ラスコー洞窟の壁画 | |||||
1万年 | 完 新 世 |
新 石 器 時 代 |
農耕・牧畜開始, 生産経済に入る 磨製石器・土器・織物・煉瓦・村落定住 |
||||
4000年 | 青 銅 器 時 代 |
シュメール人 セム語系・エジプト語系民族の登場 インド・ヨーロッパ語系民族の登場 |
灌漑農業・犂耕・手工業・交易開始 青銅器・文字・神殿の出現 都市・階級の成立 奴隷の発生 |
||||
3000年 | 歴 史 時 代 |
鉄 器 時 代 |
分業の発達 鉄器の普及 国家の成立 |
※上記の実年代算定は、人類学・考古学・地質学により、また研究者によって相当の差がある。
各回のテーマと授業内容
第1回 考古学とは何か 1 考古学とは何か 【キーワード】 執筆担当講師名:早乙女 雅博(放送大学客員教授) |
第2回 野外調査の方法と実際 1 野外調査の目的 【キーワード】 執筆担当講師名:西秋 良宏(東京大学教授) |
第3回 年代決定論① 1 型式学と層位学 【キーワード】 執筆担当講師名:設楽 博己(東京大学名誉教授) |
第4回 年代決定論② 1 被熱した年代を測定する方法 【キーワード】 執筆担当講師名:藤尾 慎一郎(国立歴史民俗博物館教授) |
第5回 考古資料による空間分析 1 空間分析の方法 【キーワード】 執筆担当講師名:設楽 博己(東京大学名誉教授) |
第6回 自然科学とのかかわり 1 人と自然 【キーワード】 執筆担当講師名:佐藤 宏之(東京大学教授) |
第7回 狩猟採集民の生活技術 1 狩猟・漁撈・採集生活 【キーワード】 執筆担当講師名:佐藤 宏之(東京大学教授) |
第8回 農耕民の生活技術 1 農耕技術 【キーワード】 執筆担当講師名:藤尾 慎一郎(国立歴史民俗博物館教授) |
第9回 集落に暮らす人々 1 竪穴住居の出現 【キーワード】 執筆担当講師名:早乙女 雅博(放送大学客員教授) |
第10回 精神文化 1 考古学による精神文化へのアプローチ 【キーワード】 執筆担当講師名:設楽 博己(東京大学名誉教授) |
第11回 日本の考古学① 1 旧石器時代 【キーワード】 執筆担当講師名:設楽 博己(東京大学名誉教授) |
第12回 日本の考古学② 1 古墳時代-前期・中期・後期・終末期 【キーワード】 執筆担当講師名:早乙女 雅博(放送大学客員教授) |
第13回 世界の考古学① 1 旧石器から新石器時代へ 【キーワード】 執筆担当講師名:早乙女 雅博(放送大学客員教授) |
第14回 世界の考古学② 1 人類史における西アジア 【キーワード】 執筆担当講師名:西秋 良宏(東京大学教授) |
第15回 考古学と文化財保護 1 文化財の保存と活用 【キーワード】 執筆担当講師名:早乙女 雅博(放送大学客員教授) |