第04回ダーウィン:『人及び動物の表情について』

発達科学の先人たち
第04回ダーウィン:『人及び動物の表情について』

森 津太子


1.ダーウィンとその時代
2.『人及び動物の表情について』を読む
3.ダーウィンが心理学にもたらした影響


1.ダーウィンとその時代

1809年2月12日 – 1882年4月19日 チャールズ・ダーウィン

植物学者 ジョン・ヘンズローの紹介で、同年末にイギリス海軍の測量船ビーグル号に乗船することになった。
ガラパゴス諸島のチャタム島(サン・クリストバル島)に到着したのは1835年9月15日であり、10月20日まで滞在した。

自然選択説への到達
1858年アルフレッド・ラッセル・ウォレスと共同発表で進化論を学会で発表
1859年「『種の起源』」を出版。
1871年『人間の由来
1972年『人及び動物の表情について (岩波文庫)


2.『人及び動物の表情について』を読む

2.1『人及び動物の表情について』の構成と概要

人及び動物の表情について」(shorebird 進化心理学中心の書評など)

第一章 表情の一般原理
第二章 表情の一般原理(続き)
第三章 表情の一般原理(完結)
第四章 動物の表情手段
第五章 動物の特殊の表情
表情の一般原理の説明と、それを土台とした動物の感情表現に関する説明が中心。

第六章 人間の特殊な表情苦悩と涕泣
第七章 気欝、心配、悲哀、落胆、絶望
第八章 喜悦・上機嫌・情愛・やさしさ・帰依
第九章 反省―――瞑想―――不機嫌―――不平さ―――決意
第十章 憎悪と憤怒
第十一章 侮慢―軽蔑―嫌悪―罪過―高慢等
第十二章 驚き、驚愕、恐怖、震駭
第十三章 自己注意―――は愧じ―――はにか羞み―――謙退―――赤面
第十四章 結論と概括
人間が種々の心の状態の下に示す表情について、詳しく考察されるという構成。

第10回 感情と進化

解剖学者 チャールズ・ベル

人間と動物の間には明確な区別があり、人間が顔面に呈する表情は人間固有のものだと考えていた。

「人間の由来」
「この著名な解剖学者は、人間は、自分の感情を表現するためだけに使われる筋肉を有していると述べている」

人間と動物の連続性について
ダーウィンは、動物や人間の表情動作の起源・発達は以下の3つの原理で説明できるとし、仕草や表情には学習や模倣によるものもあるだろうけれども、基本的には遺伝するものである、と結論付けている。

チャールズ・ベルとチャールズ・ダーウィンの表情研究

2.2表情の一般原理 1.有用な連合性習慣の原理
連合的習慣 (serviceable associated habits)
連合的習慣の原理とは,人間や動物の感情表出はそれまで有用であった身体運動が習慣化したものであり,たとえば歯をむき出すことは闘争に役立ったがゆえに怒りの表情となったというもの
第一原理(連合性習慣の原理):欲望を満たしたり感覚を癒したりするのに役立つ動作は、同じ欲望・感覚を感じるたびごとに習慣的となって繰り返される。

2.3表情の一般原理 2.反対の原理
反対(antithesis)
反対の原理とは,対立する感情(たとえば怒りと恐怖)は対立する身体動作(耳をたてると耳を伏せる)や行為を喚起するというもの
第二原理(反対の原理):ある動作がある精神状態の下に第一原理に従って遂行されるならば、これと反対の精神状態の興奮によって正反対の動作が遂行される。

2.4表情の一般原理 3.神経系の直接作用の原理
神経系の直接作用(direct action of the excited nervous system)
神経系の直接作用の原理とは,無用と思われる表情も神経系の成り立ちから説明されるとするものである。
第三原理(神経系の直接作用の原理):意志や習慣からおおむね独立に、興奮した神経系の直接作用で動作が起こる。

2.5人間の表情

例えば、悲哀の人の眉が傾斜するという表情について、ダーウィンはこう考察するのである。

”幼児が飢餓または苦痛のために大声に叫ぶ時、その血液循環が影響され、眼には血液が飽充する傾向がある。したがって眼の周囲の筋肉はこれが保護のために強く収縮する。この作用は幾多の世代の間にかたく固定して遺伝するに至った。だが、歳月と文化の進むとともに、叫喊の習慣が一部抑制される時でも眼の周囲の筋肉は軽微な困難でさえ、これを感じるごとに、なお収縮する傾向を生ずる。これら筋肉中、三稜鼻筋は、他の筋肉よりも意志によって左右されることが少なく、その収縮はただ前頭筋の中央筋鞘のそれによってのみ阻止することができる。この筋鞘は眉の内端を引き寄せ、前頭を特異に皺める。われわれは直ちにこれを悲哀もしくは憂懼の表情として認識する。”


ダーウィンが心理学にもたらした影響

ヴントは、ダーウィンの原理の問題点を指摘し、それを修正した独自の原理を提案している。しかし感情を進化的な観点から捉えるというアプローチそれ自体は、その後も脈々と続いている。
ポール・エクマンらは、マーガレット・ミードを含む一部の人類学者の信念に反して、エクマンは表情が文化依存的ではなくて人類に普遍的な特徴であり生得的基盤を持つことを明らかにした。 エクマンの発見は現在科学者から広く受け入れられている。

エクマンが普遍的であると結論したのは 怒り、嫌悪、恐れ、喜び、悲しみ、驚きである。
軽蔑に関しては普遍的であることを示す予備的な証拠があるが、まだ議論は決着していない。

エクマンはあらゆる表情を分類するためにFACS(Facial Action Coding System、顔動作記述システム)を考案した。 これは表情に関連する心理学、精神医学や情報工学の分野で幅広く利用されている。

ポール・エクマン – Wikipedia

ポール・エクマン(Paul Ekman、1934年 – )は感情と表情に関する先駆的な研究を行ったアメリカ合衆国の心理学者。 20世紀の傑出した心理学者100人に選ばれた。

発達科学の先人たち
目次
1 発達科学と先人の足跡
2 アリストテレス:『心とは何か』
3 貝原益軒:『和俗童子訓』
4 ダーウィン:『人及び動物の表情について』
5 ヴント:『民族心理学』
6 デュルケム:『道徳教育論』
7 シュタイナー:『子どもの教育』/『教育術』
8 モンテッソーリ:『子どもの発見』
9 バートレット:『想起の心理学』
10 ピアジェ:『思考の心理学』
11 ハーロウ:『愛のなりたち』
12 アリエス:『〈子供〉の誕生 アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』
13 清水義弘:『試験』
14 土居健郎:『「甘え」の構造』/『続「甘え」の構造』
15 先人たちと現代社会

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