技術は人を不幸にするのか?

世の中では今、不幸なことが際限なく増えているようにも思える。こうした中、不安の種となり続けているのが、不幸の拡大の原因が技術

特にスマートフォンの利用にあるのかもしれないという考えだ。

米ジョージタウン大学心理学部デジタルヘルス幸福研究所の主任研究者であるコスタディン・クシュレブ助教は、インターネット端末の常時利用が社会の健康や幸福度に与える影響を研究している。

クシュレブは「幸福というのは、偏った言葉だ」と語る。「幸福について調べる私たち研究者でさえ、幸福は自分自身でしか定義できないものだと認めている。しかし科学的に研究するには定義が必要であり、最も一般的な幸福の定義は『主観的な福利』だ」

クシュレブによると、幸福には3つの主な要素がある。1つ目は、生活に対する満足度。残る2つは、ポジティブな感情ネガティブな感情だ。幸福度は、これらが合わさってできている。

楽しみやポジティブな感情を最大化する快楽主義的な方法で生きるか、そうではなく意義があり自己実現を果たす生き方を望むかは、幸福の中核的な問題だ。後者の生き方はエウダイモニアとも呼ばれる。

ただクシュレブによれば、エウダイモニアによる幸福と快楽主義的な幸福には非常に強い相関関係があることがデータで示されている。「多くの人は、自分の行動には意義があり重要だと思うと、日常生活の中でポジティブな感情が増えてネガティブな感情が減り、生活をより前向きに評価する。そのため、この2つには非常に強い相関関係がある」

それでは、技術が幸福感を向上させたり妨げたりしている可能性はあるのだろうか? 「技術が与える害やメリットは、ジャガイモを食べたり、眼鏡を掛けたりするのと同じ程度」とクシュレブは冗談を飛ばした。

技術とスマートフォンの使用により社会はより幸福になり、良い影響が生じるように思えるかもしれない。しかしクシュレブの研究チームは、その影響はプラスマイナスでほぼゼロだとの結論に達した。

「私たちは結局、より幸せにはなっていない」。クシュレブは少し皮肉をこめてこう語った。

クシュレブはこれまで、幸福と技術をめぐるさまざまな仮説を検証してきており、それにはスマホの使用がほかの活動に置き換えられてしまったとする「置換」説や、スマホがほかの活動時に同時に使われているとする「干渉」説、スマホによってこれまでできなかった活動が実現したとする「補完」説がある。

多くの人は、自分が一日に携帯電話の画面を見て過ごしている時間を知って驚くだろう。この時間は、運動や睡眠、人との直接的な交流に使えるはずのものだ。このことから、罪悪感のようなコンプレックスが生じる。より大きなメリットをもたらす活動の代わりに携帯電話を選択することで、幸福度は向上しない。

「幸福をもたらす大きな要素の一つは、友人や家族といった他者と時間を過ごすことだということが分かっている。しかし、友人や家族ではなく携帯電話に気が取られると意義が感じられなくなる」

オフィス勤務の再開が進み、ハイブリッド型勤務が多くの組織の標準となる中、リーダーは技術と幸福の関係について優先して検討すべきだ。

「私たちは、対面の方がバーチャルよりもよいことを学んだ一方で、ハイブリッドモデルが非常に有用になり得ることも学んだ。新型コロナウイルスが流行する前でさえ、ハイブリッド型の職場に関する研究からは、この働き方が両方の良い部分を組み合わせたものになり得ると示唆されていた」とクシュレブは指摘した。

技術が職場での幸福度を上げているのか、それとも損なっているのかを考えるリーダーは、対面と遠隔勤務の必要なバランスについても同時に考えるべきだ。本当の幸せ、そして職場でのエンゲージメントは、組織が技術の活用と、企業文化や目的、戦略、対面コミュニケーションとのバランスを取る上での一要因となる。

健康的な生活と幸福度の関係 【原文】 Healthy Living & Well-Being: Chicken and Egg?

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