引退前にお試し期間

引退前にお試し期間
Pandemic Have You Thinking of Retirement? Try It On First.
増えつつある段階的退職

仕事を減らし徐々に退職
ナンシー・ペッティー氏(68)は、ニューヨーク州ロングアイランドにある出版社の営業担当者として⻑年勤務していたが、昨年、退職してウィスコンシン州に引っ越す予定だと上司に伝えたところ、後任者への引き継ぎを支援するためにリモートワークを続けてほしいと上司が依頼したため承諾した。このシンプルな依頼が、すなわち段階的退職だ。これは、労働者の引退をゆっくりと進め、労働者が⻑年蓄積した知識を企業が活用できるようにするための慣行で、ますます一般的になりつつある。段階的退職に
は、正式な制度になっている場合もあれば、偶然の産物の場合もある。ペッティー氏にとっては、お金よりも重要な利点があり、「会社も人も大好きで、人とのつながりを保つことができた。これはお互いにとって素晴らしいことだと思う」と話している。

パンデミック(世界的大流行)の影響で、多くの退職間近の人々が、望むと望まざるとにかかわらず、退職計画を進めざるを得なくなったため、ファイナンシャルプランニングの専門家はしばしば、段階的退職を一つの可能性として提案する。段階的退職とは、簡単に言えば、同じ雇用主の下で働き続けるが、仕事の量を減らすというものだ。多くの大学が従業員にこの制度を提供しており、連邦政府にも制度がある。また、⺠間企業では、正式な制度がなくても、単発的に実施されることが多い。

段階的退職にはさまざまな形態がある。正式な制度が整備されている場合もあり、その中には健康保険を含む主要な福利厚生は維持されるが、一定期間内(通常は2〜3年)に完全に退職しなければならないものもある。一部の会社では、従業員が段階的退職を試した後、希望すればフルタイムの仕事に戻れる権利がある。また、従業員がパートタイムで働き続けながら、年金などの受給を開始できる制度もある。段階的に退職することで、従業員は経済的にも心理的にも退職に慣れることができ、同時に仕事を維持できる。また、社会保障の受給を遅らせたり、退職後用のポートフォリオの切り崩しペースを緩やかにできたりする。

ノースカロライナ州立大学では1988年から、62歳以上の常勤教員が3年間パートタイムで教えながら老齢給付金も受け取ることができるプログラムを実施している。連邦政府では、現在800人近くが段階的退職制度を利用しており、中でも米航空宇宙局(NASA)のように次世代への組織的な知識の移転が特に重要な機関では利用者数が多い。

正式な段階的退職制度は、⺠間ではさほど一般的ではない。米国人材マネジメント協会(SHRM)による2017年の調査では、正式な段階的退職制度を設けている雇用主はわずか6%で、非公式なプログラムを設けていたのが13%だった。政府監査院(GAO)による別の報告書では、正式な制度を提供している割合が最も高い雇用主は、教育、コンサルティング、ハイテク分野であることが分かった。しかし、多くの企業は、大切な従業員が仕事を減らしても貢献できるように、非公式な取り決めをしている。

このような制度の恩恵を受けるのは企業だけではない。研究によると、社会的なつながりを維持することが、老化を遅らせることにつながると言われており、仕事も非常に重要なつながりだ。また、仕事をすること自体が老化を遅らせる。「週に2、3時間でも仕事をしていれば、完全に引退するよりも頭脳の機能が保たれる」と、ペッティー氏のファイナンシャルアドバイザーのデビッド・フリッシュ氏は述べる。

バッキンガム・ストラテジック・ウェルスのファイナンシャルプランナーであるバーバラ・リストー氏の顧客の1人は、企業の社⻑をしていたが、もう少しゆったりしたいと考えていた。「激務から身を引きたいと思っていたが、有意義な形での経営参加は継続したいと望んでいた」ため、結局その顧客は社⻑の座を降り、給与や福利厚生を受けながらパートタイムで働くことになった。リストー氏は、ベビーブーマー世代が退職するのに伴い、より多くの企業が同様の制度を検討すべきだと考えており、「出て行く人たちの経験の水準は高い。その経験を、責任を引き継ぐ若い世代にどのように伝えていけばよいのか」と話している。

踏み切る前に考えるべきこと

段階的退職に関心がある場合は、以下の点に注意すべきだ。

1)本当に真剣でない限り、雇用主との話し合いは始めないこと。段階的退職を口に出すと、

自分のキャリアが終わりに近づいていることを示すことになり、万一気持ちが変わったとしても、昇進の機会が減り、解雇されやすくなる可能性がある。退職計画アプリ「シルバー(Silvur)」の創設者であるライアン・ホーガン氏によると、多くの高齢者は仕事を減らしたいと思っているが、キャリアにダメージを与える可能性があるため、上司に段階的退職の話題を持ち出すことに躊躇(ちゅうちょ)する。「対話を開始するのはリスクが高いと感じられている」と同氏は述べる。

2)経済的な影響を十分に考えること。仕事を減らせたらと夢想するのも良いが、フルタイムで働いていた時の半分以下の収入で生計を立てなければならない。繰り返しになるが、上司と話をする前に、本当に自分にとって可能かどうかを確認すべきだ。また、段階的退職に入ってわずか数カ月後に会社がフルタイム労働者に早期割増退職金制度の提示を決定した場合、その恩恵にあずかれなくなる可能性があるとアドバイザーらは言う。段階的退職の契約書をよく読むべきだ。間違うと、やり直しが利かないかもしれない。

3)社会保障に関する戦略を事前に考えておくこと。段階的退職を利用して仕事を⻑く続け、社会保障の受給を遅らせる人もいる。給付金は、62歳から70歳までの間に少なくとも76%増加する。完全な退職年齢を超えて受給を遅らせると1年ごとに8%上昇するので、これは良い戦略だ。また、段階的退職で給料が減った分を補うために社会保障の受給を開始する人もいる。その場合、完全に退職する前に年間1万8960ドル以上の収入があるとき、社会保障の給付額が一部減額されることも忘れてはならない。しかし、損をしたわけではない。収入が増えれば、それを反映して給付額が上方修正されるため、完全退職後の月々の受取額が増えることになる。

会社側にも利益があるはずだ。会社に正式なプログラムがない場合でも、パートタイムであっても重要な貢献ができると雇用主が考えれば、契約を結ぶかもしれない。労働者側は、次世代の育成に協力したいと明確に告げるべきだろう。また、自分が持っている特殊な技術や知識が、他の人に取って代わることが難しい場合には、その旨を強調すべきだ。

この契約がうまくいくためには、雇用者と被雇用者の双方にメリットがある必要がある。労働者側は、仕事を続けて収入を得つつも、少しゆっくりする機会を得ることができる。雇用主は、支払う給料を減らせる一方で、大切な従業員をしばらくの間維持するチャンスを得られる。

By Neal Templin
(Source: Dow Jones)

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