経済学者が考える退職後の正しい生活設計

経済学者が考える退職後の正しい生活設計
This Economist Says Most Retirement Planning Is Wrong
ファイナンシャルプランナーは間違っている

生涯支出の平準化を目指すべし
ボストン大学の経済学者、ローレンス・コトリコフ氏は、ほとんどのファイナンシャルプランナーは間違っていると考えている。同氏によれば、ファイナンシャルプランナーは、顧客が退職後の所得目標を達成できるように支援することではなく、生涯の支出額を平準化し、それを維持できるように支出を守ることや、そのための貯蓄を促すことに重点を置くべきである。

コトリコフ氏は退職者に対して、たとえ貯蓄を減らすことになったとしても、社会保障給付の受け取りを可能な限り遅らせて最大の利益を得るべきだと助言する。また、住宅ローンを返済すれば確実に安全なリターンが得られるため、退職口座の貯蓄を切り崩して返済することを検討すべきだと言う。

本誌は同氏に電話で話を聞いた。

本誌:ファイナンシャルプランナーの基本的な問題とは?

コトリコフ氏:人生の目標は富を蓄積することではない。決まった所得の範囲で最高のライフスタイルを確立し、市場が暴落したり、家が焼失したり、100歳まで生きることになったりしても路上で生活しなくてよいようにすることだ。

Q:あなたは生涯の消費額を平準化することを提唱しているが、ファイナンシャルプランナーは顧客の退職後の資産ポートフォリオを構築することで平準化を実現しているのではないか?

A:退職後に備えた貯蓄は消費の平準化にとって最も重要なステップだ。しかし、貯蓄は少な過ぎても多過ぎてもいけない。経済学者は生涯の所得を踏まえ、支出を続けることができる支出額を計算する。ほとんどのファインシャルプランナーのように、退職後にどれだけお金を使いたいかと聞くことはない。自分の資産の範囲内でしか支出することはできない。資産が分かれば支出できる金額も分かる。

Q:自分の資産をどのように投資しているか?

A:株式市場のバリュエーションは割高になっており、米連邦準備制度理事会(FRB)のサポートや低金利へのコミットメントに依存しているように見える。この政策は持続不可能であり、株式市場は非常にリスクが高いと考えている。現在の投資環境は非常に難しいため、私は資産の約半分を現金で保有している。

Q:何百万人もの米国人が社会保障給付の前倒しを選ぶ。これは間違っているか?

A:家が燃えなかった時に損をしないように、火災保険の保険料を減らすようなものだ。つまり、論理が屈折しており、間違っている。社会保障給付は、⻑生きし過ぎて貯蓄がなくなってしまうという最大の財務リスクに備えて保険を買うようなものだと理解する必要がある。

Q:他に米国人が退職後の資産形成に関して間違っていることは?

A:住宅だ。多くの人は小さい住宅に住み替えない。また、米国には住宅価格が安くて、現在以上の生活を送れる地域がたくさんある。退職年齢が早過ぎるのも間違っている。望む生活水準を維持できないなら、仕事を辞めるのはまだ早い。1年退職を遅らせるごとに、生活費を貯蓄で賄わなければならない期間が1年減る。教育支出は所得を増やすが学生ローンは借りるな

Q:父親が経営するニュージャージー州カムデンのデパートで働きながら育ったそうだが、そこで学んだことは今も役立っているか?

A:最大の教訓は、老後に備えて資産を分散する必要があるということだ。父とその兄弟は資産の全てをデパートに注ぎ込んでいた。デパートが破綻した時、両親には自宅以外に何も資産がなかった。だから私ときょうだいが面倒を見ることになった。両親の稼ぎの大部分は子供の教育費に充てられていたから、私たちが両親の世話をしたことは投資のリターンだったとも言える

Q:教育支出は生涯所得を押し上げるため、優れたお金の使い方だとされている。これは本当か?

A:大学や大学院に通うだけでなく、配管工になるための投資さえ、分別ある投資ならば利益になる。しかし、大学の入学者の40%は卒業せず、その多くは学生ローンを借りたのに退学している。大学に通うために学生ローンを借りるべきではない。リスクが高過ぎる。

Q:住宅ローンを前倒しで返済するのは賢明なことか?私の友人は(元手が大きい方が)株式投資で稼げるから繰り上げ返済はしないと言っている。

A:もし住宅ローンを完済したら、借金をして株式市場に投資するかと友人に聞いてみるといい。そんなことはしないだろう。つまり、友人の言っていることは非合理的だ。

Q:ロス個人退職勘定(IRA)(年金制度の一つ。運用・給付が非課税となる)への移管は合理的か?

A:場合による。移管する金額が大き過ぎると、かえって税金が増えるかもしれない。将来に比べて所得税率が低い時期に移管することが望ましい。社会保障給付を前倒しで受け取り、ロスIRAに移管すると、社会保障給付に対する税金やメディケア(高齢者向け医療保険制度)の保険料が増える可能性がある。移管の時期や金額については細かい計算が必要だ。

Q:近日中に刊行する本では、資産を増やし、リスクを減らし、より良い人生を送るための秘訣(ひけつ)を紹介するということだが、それを教えてほしい。

A:住宅費を節約するために親と同居すべきである、大学に通うために学生ローンを借りてはならない、IRAの貯蓄を切り崩して住宅ローンを返済する、退職後は徐々に株式への投資を増やすといった秘訣がある。予想もしないようなアイデアがたくさん詰まった本だ。

Q:2012年と2016年に大統領選に立候補した理由は?

A:幅広い政策に関する懸念について、経済学者が必要だと考えることを人々に伝えるのが務めだと思った。そのため、医療制度改革に関するスピーチを書く前に医療経済学者と対談をしたり、税制改革について優れた財政学者の意見を聞いたりした。勝てるとは思っていなかった。

Q:個人として経済学のルールに反する間違いを犯したことは?

A:休暇用のコテージを改築したことだ。取り壊して一から建てれば半分のコストで済んだが、そのコテージに愛着があった。お金に関する意思決定をするときは、誰でも感情に流されてしまう。

By Neal Templin
(Source: Dow Jones)
バロンズ‧ダイジェスト 2021/09/12

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