健康に生き抜くために不可欠なこととは?定年後40年

人生を毎日、楽しんで生きよう。仕事はそこそこに幸せに生きよう。

最近、残業続きである。復職して数か月だか、残業ばかりしているとうつ病が再発するおそれがあるので、恐る恐るしている。ほんとうは、残業なんかしないで定時で仕事を終了したい。

以前は、残業代を稼ぐためにしていたが、もうそんなに無理して稼いでもしょうがないと休職してから思うようになった。

それにこれからは、定年が60歳ではなくなるだろう。年金も65歳では、少なくなるか、でなくなるではないだろうから、いつまで働くんだと思うくらいのびるのだろうなぁ。

40年の長い勤めを果たして定年退職したシニアも、「人生100年時代」にあってはまだまだ先が長い。心も体も健康を維持しながら第二の人生を楽しむにはどうすればいいか、誰しも気になるところだ。大手シンクタンク野村総合研究所の研究員が、25年間にわたって1万人を対象に実施している調査結果をもとに分析する。本稿は、林 裕之『データで読み解く世代論』(中央経済グループパブリッシング)の一部を抜粋・編集したものです。

「人生100年時代」に健康寿命を伸ばすには社会的な交流が不可欠

 2016年に出版されたロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン、アンドリュー・スコットによる著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)において、先進国の寿命長期化によって「人生100年時代」が到来するとし、100年間生きることを前提とした人生設計の必要性が論じられた。

 首相官邸においても、「人生100年時代構想会議」が設置され、人生100年時代を見据えた経済社会システムを創り上げるための政策のグランドデザインが検討されているように、長寿化するシニアの生活を維持するための対策が求められている。

シニアが活力ある生活を維持するためには、いわゆる健康寿命を伸ばすことが重要である。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」であるとWHO(世界保健機構)では定義されているが、厚生労働省の「健康寿命のあり方に関する有識者研究会報告書」(2019年3月)では、「健康寿命とは単に身体的要素に止まらず、精神的要素・社会的要素も一定程度広く、包括的に表していると考えられる」と記載されているように、身体的な健康維持だけでなく、精神的・社会的な健康維持も重要な要素であり、その1つが社会的な交流を持ち続けることにある。

 筆者が所属するNRI(野村総合研究所)では、過去25年にわたって同一設問・項目の「生活者1万人アンケート調査」を実施しており、日ごろの人との付き合いとして、「週1回以上、会話や連絡をとる人」について聴取している。

 その中で、地域・隣近所の人や、趣味や習い事などを通じて知り合った友人など、家族・親族以外の人とコミュニケーションをとっている人を「社会的交流あり」と定義すると、社会的交流のあるシニアの方が、生活満足度が高いという結果が得られている。

 社会的交流が少なくなることで、行動全般的に消極的になり、趣味や余暇活動、消費行動にも影響を及ぼし、結果として生活満足度の低下へとつながると考えられる。社会的な交流をもつことが、シニアの生活を充実させる要素として大きいと想定される。

 団塊世代(NRI調査では、1946~1950年生まれを指す)やポスト団塊世代(同、1951~1959年生まれ)が週1回以上家族や親族以外の人と社会的な交流をする対象としては、「地域・隣近所の人」がトップにきており、団塊世代の55%、ポスト団塊世代の42%にもおよぶ。

 さらに注目すべきは、団塊世代の27%、ポスト団塊世代の33%が「会社・仕事を通じて知り合った人」を挙げたことである。

 通常、定年後は会社関係者との交流がぱったりなくなる中で、週1回以上も交流を続ける人が多いのは、定年後にも何らかの形で仕事を続けているためである。すなわち、人生100年時代を生きることには、シニアの就業もまた重要な要素であることがうかがえる。

勤務先に深くコミットはしないが組織への忠誠心は高いシニア層

 65歳以上でも就業している人の中には、会社役員や事業主である人も含まれ、NRI調査の回答者の中でも、3割強が会社役員や事業主に該当する。

 会社役員や事業主は「自分の能力や専門性を高めることで社会的に認められたい」「出世や昇進のためには、多少つらいことでも我慢したい」および「資格を取得したりして、自分の能力の向上に積極的に努めたい」などの向上心に関わる意識が強い傾向があり、今後の一般的なシニア就業を検討する上で、バイアスとなるため、本稿の分析対象からは会社役員や事業主を除外する。

 また、団塊世代は就業者が少なく、調査上の回収サンプルが少なくなることから、ポスト団塊世代の就業者について詳細な分析を行うことにした。

 ポスト団塊世代の就業意識は、65歳未満の現役世代と比較すると「自分の能力や専門性を高めることで社会的に認められたい」および「資格を取得したりして、自分の能力の向上に積極的に努めたい」等の向上心に関わる意識は自然と低くなる。

 また、「会社や仕事のことより、自分や家庭のことを優先したい」も低くなるが、これは定年後のシニアの生活ではそもそもプライベートの時間にゆとりがあることを踏まえると、意識の面では子育て等も含め日々の生活が忙しい現役世代より低くなると想定される。

 逆に、シニア就業者の方が高いのは、「たとえ収入が少なくなっても、勤務時間が短いほうがよい」「人並み程度の仕事をすればよい」であり、就業を日々の生活を充実させる要素と捉える意味では、現役世代より高くなることは自然である。

 意外な結果であったのは、「自分の仕事の目的は会社を発展させることである」がポスト団塊世代の就業者の方が高いことである。

 これは勤続年数が長い人ほど高くなり、会社への忠誠心の高さがうかがえる項目である。しかし、ポスト団塊世代の就業者については、就業5年未満の再就職者についてもこの項目は高いのである。

 つまり、新しい職場における再就職であっても、単なる時間つぶしや生活賃金稼ぎのためではなく、新しい職場の発展のために従事する意識の高さが、ポスト団塊世代の就業者にはある。

ろろ(注)会社役員および事業主を分析対象から除外している。出所/NRI「生活者1万人アンケート調査」(2021年版)。訪問留置法により一戸づつ訪問し、層化二段無作為抽出法で地域・性年代構成が日本人の縮図となるようにランダムに抽出された対象者に回答を依頼している。

(注)会社役員および事業主を分析対象から除外している。出所/NRI「生活者1万人アンケート調査」(2021年版)。訪問留置法により一戸づつ訪問し、層化二段無作為抽出法で地域・性年代構成が日本人の縮図となるようにランダムに抽出された対象者に回答を依頼している。© ダイヤモンド・オンライン

定年後の40年に意義を与える社会貢献欲求をどう満たすか

『データで読み解く世代論』 (中央経済グループパブリッシング) 林 裕之 著

『データで読み解く世代論』 (中央経済グループパブリッシング) 林 裕之 著© ダイヤモンド・オンライン

 シニアの再雇用・再就職の業務内容では軽作業や清掃、警備といった職種が多く存在するが、シニアにおける会社や組織への貢献意識を汲み、これまで培ってきた経験・スキルの活きる職種や後進の指導を担うポジションを増やすことはシニアの活躍の場を広げると共に、会社・組織の発展にも有効に機能するだろう。

 なお、会社役員や事業主を除いた一般的なシニア就業者における会社に対する発展意識は、都市や地方といった居住エリアや居住地の都市規模の違いによってあまり左右されない意識であることが分かっている。

 このようなシニアの職務に対する意識の高さは、都市部や地方等のエリアや都市規模に左右されず、幅広くシニアが共通して持つ価値観であることがうかがえる。

 アメリカの心理学者マズローは、人間の欲求は5段階のピラミッド構造となっており、底辺側から「生理的欲求」、「安全欲求」、「社会的欲求」および「承認欲求」が積み重なり、最上段に成長欲求としてあるべき自分になりたい「自己実現欲求」があるという「マズローの欲求5段階説」を説いていたことは有名である。

 しかし、マズローが晩年にこの5段階に加え6段目として、自己を超え他人の利益(利他)を目指す「自己超越欲求」を説いていたことをご存じであろうか。

 この欲求は社会貢献欲求と言い換えてもよいだろう。社会に参加し活動することによって自分自身に役割を与えることは、シニアにとっても本来人間に備わっている成長欲求の延長であり、充実した生活を送る本質的な要素であると考えられる。

 会社で働く期間を40年、人生を100年とした場合、実は第2のシニア人生を過ごす時間は会社で働く時間とほとんど変わらない。人生の後半戦は想像以上に長いが、一方で高齢に伴う身体的な不自由さもまた避けられないことである。

 身体面の不自由さはデジタル活用によって支え、社会的交流によって精神面が豊かになることで、団塊世代やポスト団塊世代の人たちが生きがいに満ちたシニアライフを謳歌できる人生100年時代の実現を願いたい。

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