「日本人が結婚しなくなった」衝撃の理由…なぜ「結婚したい若者」が「結婚できない」のか

日本の共働き世帯数、日本人の労働時間、日本の労働生産性、事業所の開業率……

現代の「日本の構造」、どれくらい知っていますか?

少子化、格差、老後など、この不安な時代に必要なすべての議論の土台となるトピックを橘木俊詔氏が平易に解説します。

※本記事は、橘木俊詔『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』から抜粋・編集したものです。

生涯未婚率の上昇

日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』の中で、単身世帯の増加を述べたが、その理由の1つとして結婚しない人の増加を挙げた。すなわち生涯を一人身で過ごす人の増加である。そこでここでは結婚しない人の増加の理由を探究しておこう。

表1(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトでご覧ください)は1947(昭和22)年から2019(令和元)年までの婚姻率(人口1000人あたりの件数)を示したものである。後に述べる離婚率(人口1000人あたりの件数)も同時に掲載している。

婚姻率に注目すれば、次のようなことがわかる。第1に、年代によってかなり大幅な振幅はあるが、戦後のトレンドとしては、結婚する人は減少してきた。一番高かった1947年の1.20%から2019年の0.47%まで低下しているので、40%ほどまでの大幅な低下である。かなりの数の日本人は結婚しなくなった、と結論してもよい。

第2に、終戦直後の数年間に婚姻率の高かったのは、戦地から帰還した兵士が多くいたからである。戦争が終了して平和になったので、国民は貧困で苦しんでいたが結婚して家庭をつくりたいという希望は強く、多くの若者が結婚したのである。その後結婚ブームは去って1950年代は0.8%台で落ち着く水準までに低下した。

第3に、それが過ぎると1960年代から1970年代にかけて戦後のベビーブーム世代がいわゆる「結婚適齢期」に達し、婚姻率は再びかなり上昇した。とはいえ終戦直後の高い婚姻率ほどではなく、この頃から非婚の傾向が始まったのである(後述)。

第4に、第一次ベビーブーム世代の結婚ラッシュが終了すると婚姻率は減少に転じたが、その減少率はかなり激しかった。1980年代後半には0.6%前後まで低下した。その後第一次ベビーブーマーの子どもが適齢期を迎えると、婚姻率は少し上昇に転じた。

第5に、その頂点が1994(平成6)年頃であり、その後は再び低下の傾向を示して、2019年は0.47%にまで低下したのである。このようにして日本では結婚をしない人が増加した。その証拠は前の生涯未婚率の推移でも示された。今では男性の4分の1程度、女性の5分の1弱は結婚しない。なぜ男女で差が生じるかは次項で述べる。

なぜこれほどまでに結婚しない人が増加したのだろうか。多少は減少したが、「結婚適齢期」の人の90%前後は結婚したい、家族を持ちたいと希望している。それは表2(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトでご覧ください)でわかる。

ところが実態はそれを示していない。それを説明するために、大きく2つのグループに区分する。1つは結婚の意思がないグループ、もう1つは意思はあっても、それを達成させていないグループである。

前者については次のような理由がある。1:一人の生活の方が気楽と思うし、誰にも邪魔されず自由な生活を楽しみたい。2:女性で働いて所得のある人は、経済的に夫に頼る必要がない。3:家族がいると自分の仕事を遂行するうえでマイナスになることがある。例えば配偶者の転勤のときにどうするか、など。4:家族を持つことにより、リスクが増えることを好まない。相手の親族との付き合いを面倒がるとか、他にもさまざまなリスク(家族が病気になる、介護で苦労する、家族の生活費もかかるなど)を負うことを嫌う。

以上をまとめると、結婚をして家族を持つよりも、一人身の方が自分の人生を自由に送れると期待している。これは表2の統計ソースでも確認できる。では一人身であれば、自分にさまざまな不幸が舞い込んだときにどう対処するのか、といった不安があるに違いないとのコメントが可能である。家族がいるときのリスクと安心感と独身でいるときの自由と不安感、これらを天秤にかけてどちらかを選択しているのであろう。

結婚の意思はあっても達成していないことについては次のような理由がある。1:異性とうまくつきあえる自信がない。2:異性と知り合う場所がない。これに関しては、今まではおせっかいなおばさんがいて、見合い結婚の橋渡しをすることもあったが、今は恋愛結婚の時代なので自分で探さねばならない。3:結婚は二人の男女が共同の経済生活をするのが条件であるが、若いときは所得が低い事情がある。

さらに【つづき】〈日本の「結婚したいけどできない若者」たち…「年収300万未満」の男性は、「交際経験なし」が33.6%という「悲しすぎる現実」〉では、結婚願望があるにもかかわらず結婚できない若者の事情について、くわしくみていきます。

第11回 成人初期の発達:大人への移行


結婚にまつわる格差

「日本人が結婚しなくなった」衝撃の理由…なぜ「結婚したい若者」が「結婚できない」のか〉で「結婚適齢期」の人々が所得が低いために結婚できないことを指摘したが、最初にそのことを確認しておこう。

図1(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトでご覧ください)は30歳代の人々に関して、男女別・年収別に結婚の状況を示したものである。ここでは4つの区分がある。すなわち、既婚、恋人あり、恋人なし、(異性との)交際経験なし、である。この政府の統計は20歳代も報告しているが、結婚にそう関心のない世代(特に20歳代前半)も含まれているし、結婚しない人に注目するので30歳代に限定する。

図1。年収別にみた30代男女の婚姻.交際状況

まず男性に注目してみよう。

年収300万円未満では、既婚者は10%を切る比率しかいない。もっと衝撃的なのは、恋人なしが38.8%、女性との交際経験なしが33.6%の高い比率だということである。年収が300万円未満の男性は、70%ほどが女性と縁のない人生を送っているという悲惨な状況にいる。もっとも、中には女性に興味がないという男性もいることを認識しておこう。その比率は不明だが、とても小さいと予想できる。

年収が増加すると、既婚者の比率が増えて、600万円以上という高所得者だと既婚者は40%弱に達する。しかし、恋人なしと交際経験なしが合計で40%近くもいる。これらの男性は意図的に結婚しないのか、それとも努力はしているが成功していないか、のどちらかである。残念ながらこの表からは、その比率を読み取れない。

年収が400万円から600万円未満という中間層は、既婚者、女性との交際経験なしの双方に関して、300万円未満と600万円以上の男性の中間にいることがわかる。

もう1つ興味のある事実は、恋人ありと恋人なしのそれぞれは、どの所得階級を通じても20%前後と30%前後と、共通の比率にある点だ。恋愛は表面的には結婚とは直接関係のない現象なので、所得の影響はそれほどない。逆に言えば、結婚するか、しないか、あるいはできないかは、所得の影響がある程度大きいのである。

女性の場合も見ておこう。

男性においては所得額が結婚に大きな影響があったが、女性では、既婚者の割合が一番多いのが300万円未満の人で、他の所得階級間では差はあまり見られない。男性と異なって300万円未満の女性でも結婚できるのは、夫の稼ぎが多ければ結婚できるか、本人がパートなどで働く可能性もあることを暗示している。

むしろ興味のあるのは、女性で600万円以上の高所得者は既婚者が16%とかなり低いことである。自分の稼ぎだけで充分生活できるので、結婚しなくともよいのか、一方で、恋人ありが40%近くもいる。自由な恋愛生活を楽しんでいる「独身貴族」の女性である、としておこうか。

以上をまとめると、日本において男性に関しては、その所得額が、結婚するか、しないか、できないかに大きな影響を与えるが、女性の所得額は影響しないとまでは言えないが、比較的小さいということになる。

結婚という家族形成にいたるには、男性の所得が女性のそれよりも大きな影響があることを示唆している。結婚できる人とできない人を所得差で見たが、結婚している夫婦のあいだにも別の格差が出現している。それは共働き夫婦において、所得の低い夫は妻の所得も低い比率が高いのである。

表1(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトでご覧ください)は夫の所得別に妻の所得分布を示している。例えば夫の年間所得が300万円未満であれば、妻の年間所得も200万円未満というのが、じつに70%ほどを占めているので、夫婦ともに低い所得の組み合わせが多い。これは夫婦とも働いている場合に妻の所得から見ても言える。

表1。共働き世帯における、夫の所得別にみる妻の所得比率(%)

さらに、図表では示さないが、夫と妻ともに高所得の夫婦も結構存在しているのである。橘木・迫田『夫婦格差社会』では、それをパワーカップル、ウィークカップルと称して、夫婦にも格差のあることを示した。これを別の言葉で述べれば、似た者夫婦の所得版とみなしてよく、女性で働く人が増えれば自然とそうなるのが、現代社会の特色である。

本記事の抜粋元『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』ではさらに、教育格差や地域格差、日本の財政や社会保障についてなど、図表を媒介に日本の今の姿を知ることができます。

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