「ロスチャイルド家が世界を支配している」という陰謀論と向き合うロスチャイルドさん

陰謀論の退治を専門とするマイク・ロスチャイルド。ロスチャイルド家とは無関係だPhoto: Courtesy of Mike Rothschild

陰謀論の退治を専門とするマイク・ロスチャイルド。ロスチャイルド家とは無関係だ
Photo: Courtesy of Mike Rothschild

 

ユダヤ人が世界を牛耳っているという陰謀論は日本でも耳にしたことがあるかもしれない。この類いの陰謀論と正面から向き合うユダヤ人がいる。姓はロスチャイルド。米ユダヤ系メディアが、その名前の皮肉も含めて聞く。

This article is translated from the English original, which appeared in the American Jewish news outlet the Forward. Click here to get the Forward’s free email newsletters delivered to your inbox.

陰謀論者にしてみれば、あのロスチャイルド家がイーロン・マスクをひそかに傷つけようと企んでいることを裏づける出来事が最近あったようだ。

その始まりはマスクが米民主党をバッシングして、共和党に乗り換えると言い張ったツイートだった。これに反応したのがデービッド・ロスチャイルドという名のユーザーだった。南アフリカのアパルトヘイトで得した裕福な白人家庭出身で特権階級のくせに不平を言ってとマスクをばかにしたのだ。

さて今度は、ロスチャイルド自身が愚弄される番になった。ほかのユーザーたちがやはりというべきか、その姓にとびつき、あのユダヤ人の銀行家一家の末裔が社会的特権の話で誰かを批判する資格などないだろうと主張したのだ。

「ロスチャイルドが他人の特権について文句を言う。冗談きついね」とあるユーザーは書いている。

まるでタイミングを見計らったように、また別のロスチャイルドがさっと割って入り、マスクをばかにした人物の弁護にまわった。「デービッド・M・ロスチャイルドはニューヨークの経済学者」とツイートしたのは、マイク・ロスチャイルドという名のユーザーだった。

「あの銀行家一家とはつながりなし。マイヤー・アムシェル(ロスチャイルド家始祖)の曾孫×5の冒険家で環境保護活動家のデービッド・M・ド・ロスチャイルドと勘違いされているのかもしれない。ユダヤ人みんながつながっているわけではない」

純粋に偶然ふたりとも同じ姓だったという話は、まさにロスチャイルド姓の者が広めようとするに違いない類いの嘘だ。もちろん、陰謀論者にしてみればの話だが……。

銀行はいくつお持ちですか?

実際は、どちらのユーザーもあの有名な一家とはなんの関係もない。デービッドは経済学者だ。マイクは陰謀論を退治する専門家だ。

2021年、マイクは、「Qアノン」ムーブメントに関する『嵐が近づいている』(未邦訳)という本を出版した。

自分の姓をめぐる皮肉については、もちろん認識している。ロスチャイルドが執筆にとりかかったばかりの次なる著作は、200年にわたって反ユダヤ主義者たちの格好の的になってきた高名な銀行家一家に焦点を当てたものだ。書名は『ユダヤ宇宙光線』だ。

そんなマイク・ロスチャイルドに、自著について、またその姓を持ちながら陰謀論を退治するのはどんな感じなのかについて聞いた。

──念のためうかがいますが、銀行をいくつお持ちで、世界経済のどの部分を個人的に支配されているんですか?

それについてはお話ししません(笑)。そういうのは知ってはいけないことがらです。でもすごくおもしろいですよね。ロスチャイルド家にまつわる妄想や陰謀論の大半が、存在しないものか、人々が誤解しているものに由来しているわけですから。

たとえば、中央銀行に所有者はいない。一国の金融機関です。個人銀行もたくさんありますが、陰謀論者たちが語るのはそちらの銀行ではない。人々が自分で自分に言い聞かせて信じ込んでしまったものというのは、ただもう大それた話です。

──ご自身をめぐる陰謀論でいちばんヤバかったものは?

いくらでもあります。典型的なのが、お前は500兆ドル(7京円弱)持っていて、すべてを所有するこの一家の一員だというやつです。私がQアノンの創設を手伝って、それで儲けられるようにしたと思っている人たちもいました。

私がロシア諜報機関のために働いているとか、マイケル・フリン(ドナルド・トランプ大統領の補佐官を務めた人物)のために働いているとか、私の仕事はQアノンに人々を巻き込んで、その創始者についてのデマを拡散し、誰が本当に始めたのかを知られないようにすることだと思っている人たちもいました。

人はただこちらについて話をでっち上げるわけですが、それに対して実際できることは何もありません。やりとりもできません。しようものなら、こうした人たちが考えていることを認めることになりますし、彼らに不相応な注目を与えてしまうことにもなります。

それが真実でないとこちらは証明できません。向こうもそれが真実だとは証明できません。さらに残念なことに、証明がどう機能するかということが多くの人に誤解されているところもあります。私がこんなことは真実でないと証明する必要はない。向こうが真実だと証明しなければいけない。でも向こうがそうしないというだけです。

陰謀論の信奉が一線を越えるのはいつですか?

──陰謀論や過激派の運動を研究し報告するようになったきっかけは?

物語としての陰謀論にはずっと興味がありました。学生のときは、UFOとかミステリーサークルとか火星の人面岩とかについてひたすら語る深夜ラジオ番組をよく聴いていました。どれも知人からは聞かない話です。社会一般では議論されないネタで、ヤバい人たちの分野でした。

でも自分はヤバい人じゃないと思っていました。ただこういう話を楽しんでいるだけで。なぜ人はこういうものを信じるのかを腑分けするみたいなことが楽しいんです。

その後、大ファンだった批判的思考のポッドキャスト「スケプトイド」のブログで記事を書きはじめました。1年か1年半、週に1回だけ書いたんですが、それがすごく楽しかった。自分は上手く書けることもわかった。そこから、ジャーナリズムの仕事をするようになっていったんです。

トランプが大統領になるまで、こういうことについて書く人はいませんでした。これは変人の領域だったんです。まっとうなジャーナリストたちは陰謀論とかデマについて語りませんでした。そういうものに酸素を与えなかった。無視すれば、そのうちいなくなるからです。

ところがいまや、そういうのを無視したところでいなくならないことがわかった。さらにひどくなるだけです。だれも対峙しないから、誰も挑まないからです。

なので、そこに着目し、職業としてやってみて気づいたのは、こういうことがそこら中にあって、本来語られるべき仕方で語られていないということでした。

──陰謀論的な信念を抱きながらも普通の生活を送る人はたくさんいます。ならば陰謀論の信奉が一線を越えて、問題になるのはいつなのでしょう? 人はありとあらゆる変な信念を持っているわけだし、なぜそれが問題になるのでしょう?

大方の人にとって陰謀論的な信念というのは、ただ友達と話して楽しいもの、いじくりまわすものです。ほかの人がたいして聞きたくもない、根拠のない、変なことを誰もが信じています。

サッカーの試合が八百長だとか、メラニア・トランプが別のメラニア・トランプにすり替わったとかを友達と議論するくらい単純な場合もあります。それで生活が乗っ取られることはない。それで自分が世界から切り離されて、暴力行為に走るようなこともない。

圧倒的多数の人にしてみれば、それでいい。「そういう信念から誰かを引きずり出そうとしなくてもいい。誰も傷つけていないんだから」と私は人に言います。

ただ、人を傷つける人もいる。行き過ぎて、暴力行為に走る人がいるのです。家族とのつながりを断ち、ワクチンを接種しないとか、コロナ予防策をとらない人もいる。

最悪、アメリカ議会襲撃のようなことが起こってしまうこともある。あの出来事は陰謀論的な信念の際の際であり、大半の人はそこまでやらないわけです。

そこにいた人の大半ですら、暴力行為には走らなかった。そういうときに介入しはじめ、注意を払いはじめる必要があるのだと思います。

──次の本のタイトル『ユダヤ宇宙光線』は、ロスチャイルド家が衛星を使って2018年のカリフォルニアの山火事を発生させたという陰謀論を指したものです。これを書こうと思うに至ったいきさつは?

ロスチャイルド家についてはずっと書きたかったし、以前にも書いたことがあります。フェイスブック上のミームとか、ヒトラーはロスチャイルド家の男爵がオーストリアでメイドに生ませた隠し子だったとかいうトンデモネタなどについて書きました。

それからマージョリー・テイラー・グリーン(現共和党の下院議員)のことが起こりました。2018年、山火事が起こっている最中にグリーンがその陰謀論をフェイスブックに投稿したのです。その指向性エネルギー兵器の陰謀論についてはずいぶん書きました。多くの人がそれについて話していたからです。

米電力大手「PG&E」のトップがあるロスチャイルドの名を冠した会社の取締役メンバーだったのです。ちなみに、ロスチャイルドの名を冠した企業は複数ありますが、ロスチャイルド家は関わってすらいません。

ほとんどはもはやただの名前でしかありません。この名前が磁石のように珍妙な考えを引きつけ、それが過去200年も続いているというのはもうとんでもないことです。

この本は、なぜこのユダヤ人の金持ち一家がターゲットになったのかを解明しようとするものです。あるいは、なぜロックフェラー家とかモルガン家とかウォルトン家といったほかのユダヤ人の金持ち一家ではなかったのかを──。

アメリカのユダヤ系名家はほかにもありますし、そもそもロスチャイルド家はアメリカの名家ですらありません。アメリカでとくに成功したわけでもありません。1800年代にニューヨークの金融業界に参入しようとしたときも上手く行かなかった。それなのにこうした珍妙なことをこれほど引きつけるのはなぜなのか?

──ロスチャイルド家と連絡を取ったりしているんですか?

この本に着手しはじめた頃に、連絡を取ろうとはしました。一族のいろいろなメンバーに接触しましたが、誰も論じてくれません。語ってくれません。書いてくれません。一家の資料室にすら何もありません。

ロンドンにあるロスチャイルド家の資料室の担当者と話したことがあります。否定命題を証明する立場に身を置きたくないと言われました。つまり、世間に出て行って、「500兆ドルなんて持っていません。戦争のたびに両側に出資してなどいません」と言ったところで、そうでないことは証明できないわけです。

繰り返しになりますが、こうした非難をする人たちがそうだと証明しなければならないのです。でも、大衆文化のなかではそうは行かない。だから、彼らはそれは真実でないと証明などせず、ただ論じないのです。

──ロスチャイルド家をテーマにした本はほかにもあります。どんな新説を提示したいとお考えですか?

一家のレガシーのこの具体的な側面、つまりなぜこうした陰謀論がこれほどずっと根強くあるのかを突き止めようとしています。

ロスチャイルド家に関する本はそうとうあります。1960年代、70年代にたくさん書かれましたが、うわさ話が満載でした。どれも富と贅沢の話ばかりでした。

ニーアル・ファーガソンの2巻本『ロスチャイルドの家』(未邦訳)がありますが、それはかなり銀行業やローンの細部に焦点を当てたものです。しかも1999年で終わっているので、インターネットの話は抜けています。

なので、なぜこの家族が陰謀論をこれほど引きつけているかに関する本はなかったわけです。大衆文化のなかでユダヤ人を引き合いに出し、金持ちのユダヤ人を持ち出す必要があるときに頼るのが、なぜいつもこの一家なのかということについても然りです。

ロスチャイルド家が世界を食い物にしていると揶揄した風刺画(フランス、1898年)

ロスチャイルド家が世界を食い物にしていると揶揄した風刺画(フランス、1898年)
Photo: Photo 12/Universal Images Group via Getty Images

──最近はロスチャイルド家だけではないですね。反ユダヤ主義者たちが話したがるユダヤ人がほかにもいます。ジョージ・ソロスです。現時点で反ユダヤ主義的な陰謀論のターゲットとしてはどちらのほうが大きいでしょうか?

たぶんソロスでしょう。露出が多いですから。インタビューも受けますし、彼の名前はいろんなところに出てきます。

ソロスの「オープン・ソサエティ財団」はさまざまな慈善団体にたくさんおおやけに寄付しています。ロスチャイルド家はもっとずっとおとなしい。でも、多くの言い回しはリサイクルされるので、ロスチャイルド家についての言い回しが、ソロスにただ再利用されています。

──イスラエルがレーザー光線を使ってミサイルを撃墜する新しい軍事システムを開発したというニュースをご覧になりました? ユダヤ宇宙光線にそっくりですね。

そうなんですか(笑)。それも本に書き加えなきゃですね。現実が陰謀論を模倣する、とてもよくあることです。

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