「コロナ後の生き方」に鈍感すぎる日本人の大問題「ライフシフト2」
「コロナ後の生き方」に鈍感すぎる日本人の大問題
「ライフシフト2」著者が続編で言いたかった事
人類は時代の転換点を迎えている
リンダ・グラットンと私が『ライフ・シフト2』の原稿を書いたときは、まだ誰も「新型コロナウイルス」という言葉を聞いたことがなく、世界規模の感染拡大で多くの命が失われてもいなかった。
LIFE SHIFT2―100年時代の行動戦略
本書で論じた最大のテーマは、長寿化の進展とテクノロジーの進化の恩恵に最大限浴するために、個人と社会がどのように行動すればいいのかという点だった。
その後、2020年になって新型コロナウイルスの感染が広がり、世界の国々は急場しのぎの対策を打ち出したが、それらの措置は概して、未来志向というより過去の延長線上のものに終始していた。
このパンデミック(感染症の世界的大流行)を通じて思い知らされたのは、人類が成し遂げてきた進歩は目を見張るものがあるが、強力な感染症に対して私たちがきわめて弱い存在だということだった。
2021年に入っても混乱は続き、パンデミックをきっかけに社会と経済の変化が加速し、新しい未来が到来しつつあることが明らかになってきた。いま人類は、時代の転換点に立っている。
新型コロナウイルスの流行は、世界で5歳未満の人口より65歳以上の人口のほうが多くなりつつある時代に人類がはじめて経験したパンデミックだ。また、死亡率が年齢とともに上昇する病気の流行は、高齢化時代における社会と経済の弱点を改めて浮き彫りにした。
本書では、テクノロジーが急速に変化するなかで長い人生を生きる私たちにとって、健康、スキル、人生の目的、雇用、人間関係を維持することがいかに重要かを強調した。私たちがそのような生き方を実践するには、もっと柔軟な働き方とキャリアの道筋を選べる必要がある。
こうした側面で日本社会に大きな変革が求められていることは、以前から指摘されていたし、これまでに進歩もあった。それでも、長寿化の進展とテクノロジーの進歩がもたらす試練に対処するにはまだ十分とは言いがたい。
しかし、今回のパンデミックが変革を加速させる可能性があると、私は考えている。その理由は、以下の3つだ。
第1に、新型コロナが社会のあり方を激しく揺さぶったことで、現状維持の力が弱まった。そうなれば、おのずと変革を推進しやすくなる。
第2に、多くの人が指摘しているように、いま日本は経済成長を強く必要としている。これは、コロナ対策で政府の債務が膨張したこと、そして飲食や観光などの主要産業が大きな打撃を被ったことが理由だ。長寿化の進展とテクノロジーの進化を経済成長の原動力に転換しなくてはならないのだ。
第3に、パンデミックは、変革を加速させると同時に、個人、企業、国にとって、将来のリスクへの対応力を試すストレス・テストの機会になり、変化に適応するための学びの機会にもなった。
デジタル化が遅れる日本企業
では、日本社会のストレス・テストの結果はどうだったのか。
テクノロジーの面では、日本はすでに世界で最先端のロボット技術をもっており、とくに製造業では、それが年長の働き手の生産性と雇用を維持する切り札になってきた。
その一方で、感染拡大によりバーチャル化が加速するなかで露呈したのは、多くの日本企業が「デジタル化」で後れを取っているという現実だった。
たとえば、イギリスとアメリカではリモートワークが生産性に悪影響を及ぼした様子はないが、日本では生産性が低下したというデータがある。日本企業が柔軟な働き方の恩恵に浴したいと思うなら、すでに実現させた変化をさらに徹底し、働き方をもっと変えなくてはならない。
それに対し、健康と長寿の面での状況は、(少なくとも私がこの文章を書いている時点では)テクノロジーの面よりも良好だ。
人口比で見ると、新型コロナによる死者数は、アメリカとイギリスは日本の16倍、ドイツは9倍に達している。もっとも、日本が現時点で出生時平均寿命が最も高い国であることを考えれば、これは意外なことではないのかもしれない。
日本が平均寿命を大きく延ばしたことの価値は大きい。今回のパンデミックで私たちが痛感させられたことの1つは、健康の大切さだった。
2020年、日本のGDP(国内総生産)は5%縮小した。これは、感染拡大を受けて人々の行動が変わり、政府が人命を救うための措置を講じた結果である。お金は確かに重要だが、人々はそれ以上に健康を重んじているのだ。その意味で、長寿化に関して日本が成し遂げた進歩は称賛すべきものと言える。
しかし、長寿化で目覚ましい成果を挙げたからこそ、日本はいっそう経済のあり方を大きく変える必要に迫られている。人々がただ長く生きるだけでなく、長く生産性を保ち続けるために、それが不可欠なのだ。
いまどの国でも高齢者人口が増大しているが、そのペースが日本ほど速い国はない。日本は世界のどの国よりも、長寿化と健康の改善を経済成長に結びつけ、いわば「長寿の配当」を経済面でも獲得する必要がある。
60歳を超えた高齢者の雇用を増やすだけでは十分でない。いまから最も長く生きて、テクノロジーの影響により生活と仕事とキャリアが大きく変貌する可能性が最も高いのは、若い世代だ。本書で、金沢市に住む20代のカップル、ヒロキとマドカを大きく取り上げている理由はここにある。
「長寿の配当」を実現するには、新しい人生のあり方を構築することが求められる。人々が長い人生を金銭面で支えるために、長期の職業人生を送れるようにし、健康な人生を生きるために、柔軟な働き方とキャリアの道筋を選べるようにする必要がある。
具体的には、人々がスキルを錆びつかせず、アップデートする機会を用意し、子どもと老親の世話をする時間を確保できるようにしなくてはならない。ひとことで言えば、本当に大切なものを重んじて生きるために、バランスの取れた生き方を実践できるようにすべきなのだ。
自分の未来への投資をしよう
こうしたことは社会の長期的な変化に関わる問題だが、パンデミックが始まると、人々はこれらの問題を強く意識せざるをえなくなった。古いやり方が通用しなくなり、新しい生き方と働き方が求められるようになって、多くの人はもっとよい生き方や働き方がないかと考えはじめたのだ。
その点、この危機を通じて、人類が病気に弱いことが如実に示されただけでなく、今日の人類が過去の世代と同様、現状を改善し、変化に対処するための発明の能力をもっていることも実証された。本書ではそうした発明の能力について論じている。
もっとも、経済的な「長寿の配当」を実現し、テクノロジーが人類に恩恵をもたらすようにするためには、企業と政府も大きく変わらなくてはならない。この点も本書の大きなテーマだ。
しかし、これも今回のパンデミックで見えてきたことだが、健康と資金とスキルと生き甲斐と人間関係を維持することは、ますます個人の責任になってきている。このような新しい状況は、現在の人生を形づくるうえで胸躍る可能性を生み出すが、その半面でみずからの未来に対して自分で投資する必要性も大きくなる。
コロナ後の時代は、そのような長い目で見た投資について考える好機になるかもしれない。あなたがそうした検討をおこない、(どんな人生を生きるにせよ)未来に備えるうえで、この本が役に立てば幸いだ。