絶望死(薬物過剰摂取、自殺、アルコール乱用を伴う死)

10年ぶりに低下した日本人女性の平均寿命…先進国が軒並み短くなっている「衝撃的な理由」

「医療は進化している」のに寿命は短くなっている?

米国・国立衛生統計センター(NCHS)は2022年8月31日、2021年の米国人の平均寿命が76.1歳となり、2020年に比べ0.9歳短くなったとするデータを公表した。平均寿命の低下は2年連続で、1996年以来の低水準に落ち込んだことになる。

内訳を見ていこう。男性は、1.0歳低下し73.2歳に。女性は0.8歳低下し、79.1歳。

人種別では、アジア系やヒスパニック系は低下しているものの、微減。白人、黒人、先住民は大きく落ち込んだ。具体的には、白人が76.4歳(前年と比べマイナス1.0歳)、黒人70.8歳(-0.7歳)、アジア系83.5歳(-0.1歳)、ヒスパニック77.7歳(-0.2歳)となり、先住民は65.2歳(-1.9歳)だった。黒人、先住民は元々の平均寿命が短い上にさらに大きく落ち込んだ結果となった。

先進国では、他にもフランス、イタリア、スウェーデンが軒並み平均寿命を落としている。日本でも、10年ぶりに、男性が81.47歳(-0.09歳)、女性が87.57歳(-0.14歳)と微減となった。

photo by Gettyimages

とはいえ、問題が深刻なのは米国であろう。

米国における2021年の76.1歳という平均寿命は、1997年の76.4歳を下回る数値だ。1997年当時と比較して、医療技術、健康に関する研究は格段に進歩しているのに、なぜか寿命は伸びていない。

薬物の過剰摂取の多さへの驚きと「短命化の謎」

JETROの短信(2022年9月2日)によれば、

『(平均寿命の)低下要因の50%は、新型コロナウイルスによるものだという。不慮の事故が15.9%、心臓病が4.1%と続いた。またNCHSによると、不慮の事故の半分が薬物の過剰摂取によるもの(USニュース8月31日)。医療用麻薬「オピオイド」など薬物の過剰摂取による死亡は、2020年も主な死因の1つで、この傾向が引き続き表れている』だという。

医療用麻薬の過剰摂取が死亡者を増やしているのは、アメリカならではの特徴であり、驚きだが、アメリカの平均寿命が伸び悩むのは、最近だけの話ではない。2011年ごろから、ほぼ横ばいまたは微減と伸び悩んでいて、2014年から3年間は純減だった。

さらに、アメリカの総医療費(4兆88億ドル)は2位の中国の3倍強、一人当たり医療費(1万2318ドル)は2位ドイツの1.5倍とこれまたダントツの水準で、アメリカは名実ともに世界一の医療大国だ(数値は、グローバルノート社より引用・https://www.globalnote.jp/category/9/11/81/)。

「予防医学」にも熱心で、1979年には米保健福祉局(HHS)が中心となり、乳児、子ども、未成年、成人、高齢者の5ライフステージ別に目標を設定した「ヘルシーピープル」を公表、健康項目ごとに具体的な目標値を掲げている。喫煙対策も進んでいて、喫煙率は21.6%と日本の28.3%よりも低い。

それでも、アメリカ人の平均寿命は短くなる一方だ。医療大国のアメリカで、いったい何が起きているのだろうか。

謎の答えは「絶望死」

その理由を巡って、アメリカで大きな議論があったのは、コロナによって「絶望死(薬物過剰摂取、自殺、アルコール乱用を伴う死)」が増えたのではないかという点だ。

米シカゴ大学のケイシー・マリガン教授は、コロナ下の孤立などが絶望死を招いていると「Deaths of despair and the incidence of excess mortality in 2020」論文内で指摘している。マリガン教授は、コロナパンデミック(とそれによってもたらされた経済不況)によって、絶望死が10~60%の増加をしていると指摘している。コロナによって社会的孤立が進み、医療用麻薬「オピオイド」など薬物の過剰摂取などによる死亡が増えたと考えたのだ。

それに対して、米ブラウン大学のメーガン・レイニー准教授らは、「2010年代に自殺、薬物の過剰摂取、アルコールによる米国の死者が増加した。この3種類の死はすべて過去10年間、すべてのアメリカ人の間で増加している。これは、10年来の絶望感、不公平感の高まり、そして殺傷手段を容易に入手できるようになったことと並行して起きているのだ」(米サイト『STAT』2020年5月31日)と指摘している。つまり、コロナが絶望死の原因なのではなく、アメリカ社会全体が絶望死の原因ということを主張している。

いずれにせよ、2人の教授の主張で中心となっているのは、「絶望感」というキーワードだ。正確な医療情報を得たとしても、ストレスを抱えてしまっては、長生きができないということだろう。

ここまで分かってきたところで、さらに死へと近づく絶望感を強めるものとして「経済格差」があることが分かってきた。その詳細について、後編『「経済格差が早死にの元凶」だった…?「そのストレスにさらされると不健康さが増す」というヤバすぎる事実』につづく。

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