第9回 真菌感染症

第9回 真菌感染症
真菌には種々の種類がある。発酵食品の製造で役立つものもあるが、住居や食べ物に生えて人々を不快にするカビもある。ヒトの体にも、この真菌が感染し水虫、フケなどの病害を及ぼす。症状が無く、本人が感染に気が付かない不顕性感染もあるし、体の深部にも感染が広がり、時には重篤となる場合もある。真菌感染症を防ぐ日常生活の知識を紹介する。
【キーワード】
真菌症、日和見感染、カンジダ、クリプトコッカス、アスペルギルス


1.序論:真菌感染症の概略を知る

(1)一言で言うと

人間の体にカビや酵母が生えて症状が出た状態である。

いんきんたむし、水虫(浅在性皮膚真菌症)

クリプトコッカス(深在性真菌症)

(2)なぜ、カビが生える?

カビは湿度と微量の栄養さえあればどこにでも生えるほど、生命力が強い。

(3)具体例

水虫、たむし

フケが多すぎる:マラセチア菌の強い感染

(4)何が問題点

表在性感染の場合 痛痒や湿疹等の症状があり、不快である。

深在性感染の場合 生命に関わる重篤な感染症となる可能性がある。(クリプトコッカスなど)

2.各論:私達が自分の真菌感染を疑うきっかけ

(1)皮膚の痒みがきっかけ(浅在性皮膚真菌症の場合)

(a)例1:体部白癬(たむし)   体部白癬ゼニたむし
体や手足にできる浅在性白癬で、頭部、手のひら、足の裏、陰嚢、陰股部を除く部位の白癬をいいます。ステロイド薬を外用している人に多く、原因菌は猩紅色菌しょうこうしょくきんであることが多いのですが、近年、犬猫に寄生しているイヌ小胞子菌しょうほうしきんによる患者さんが増えています。
比較的強いかゆみを伴う輪状に配列する発疹で、小さな水ぶくれ(小水疱)、紅いブツブツからなります。中心にはフケ状のものが付着し、病気が治ったようにみえるので、これを“中心治癒傾向がある”と表現します。
後述する股部白癬ほど皮膚が硬く厚くなく、色素沈着も強くありません。イヌ小胞子菌の場合は感染力が強く、露出部に小型の輪状の発疹が多発します。

(b)例2:股部白癬(いんきん)   股部白癬いんきんたむし
頑癬ともいい、太ももの内側(陰股部)にできる浅在性白癬です。夏季に、男性に多くみられ、時に集団発生することもあります。原因菌は、大部分が猩紅色菌ですが、まれに有毛表皮糸状菌によることもあります。
中心治癒傾向がある境界鮮明な輪状の湿疹様の発疹で、激しいかゆみがあります。中心部の皮膚は厚く硬くなり、色素沈着がみられ、辺縁は紅色丘疹が輪状に配列、融合して、堤防状の隆起を形成します。陰股部、臀部でんぶに生じやすく、まれに下腹部にまで及ぶこともあります。

(2)皮膚の外見の変化がきっかけ(浅在性皮膚真菌症の場合)

(a)足がジクジクしている。  足白癬水虫

足にできる浅在性白癬で、最も頻度の高い真菌症です。主に、足底に小水疱ができる小水疱型(汗疱型)、足の指の間にできる趾間しかん型、足底全体に角化のみられる角質増殖型に分類されます。
小水疱型  足底や足縁に小水疱や紅色丘疹ができるか、または皮がむけ、強いかゆみがあります。
趾間型    足の指の間の皮がむけ、白くふやけたようになります。親指から4番目の指と5番目の指の間によく発症します。
角質増殖型 足底全体の角質が厚くなり、皮がむけ、あかぎれも生じます。

(b)頭髪に白い粉

マラセチア菌

(c)皮膚の色調の変化

癜風(でんぷう)

表皮(皮膚の最も外側の層)に発生する真菌感染症で、鱗屑(りんせつ)を伴う変色した斑が出現します。 この感染症は真菌の一種によって引き起こされます。 一般的には、皮膚に鱗屑を伴う皮疹が現れます。 診断は病変の外観と皮膚の擦過物の検査結果に基づいて下されます。

②乳児寄生菌性紅斑

カンジダの感染

③頭部白癬(しらくも、頭皮のたむし)

ケルスス禿瘡 毛に侵入した白癬菌が原因の炎症性頭部白癬です。 小児の発症率が高く、頭部への誤ったステロイド外用薬の使用により悪化して発症する場合が多いです。 脱毛を伴いますが、早期に治療を行えば毛髪の再生が可能です。

(d)爪の変化

(a)白いチーズ

①鵞口瘡(がこうそう)

②性器カンジダ症

カンジダ  カンジダは、カンジダ属の真菌(しんきん)というカビの一種によって起こる性器の感染症になります。 男性は尿道、性器周辺の皮膚、女性は膣内、性器周辺の皮膚に感染します。 女性の感染症のなかでは頻繁にみられる病気です。 常在菌による自己感染が多く、性的接触でも感染します。

(3)確定診断に至るまでには、慎重な鑑別診断が必要な真菌症(深在性真菌症の場合)

深在性真菌症 真菌が肺、肝臓、腎臓、脳など、体の深部に入り込んで感染を起こすような状態を深在性真菌症といいます。 おもに骨髄移植・臓器移植を受けた後や、ステロイドや免疫抑制薬を投与されているような、免疫力が低下している患者さんに起こることがある感染症で、診断が遅れた場合は治療がとても難しい病気です。

アスペルギルス症  アスペルギルス症は、アスペルギルス属 Aspergillusの真菌によって引き起こされる通常は肺の感染症です。

クリプトコックス感染 クリプトコックス症はクリプトコックス属真菌による感染症であり、健常者における侵襲性真菌感染症として国内で最も頻度が高い。クリプトコックス属真菌は主に肺や皮膚から感染して病巣を形成する。肺クリプトコックス症が多いが、播種性感染症を起こすことがある。特に中枢神経系に播種して、脳髄膜炎を起こすことが多い。腎疾患、膠原病、悪性腫瘍、糖尿病やステロイド投与などがクリプトコックス症のリスク因子であり、ヒト免疫不全症候群ウイルス(HIV)感染はクリプトコックス脳髄膜炎のハイリスクとなる1)

3.各論:真菌感染を防ぐ

(1)個人衛生対策(市井の人間としての暮らしの中の対策)

外因性真菌症

内因性真菌症

(2)公衆衛生対策(衛生行政担当者が立案、実行すべき対策)

(3)院内感染対策(患者→患者、患者→医療人、医療人→患者)

4.各論:真菌感染を確定診断する方法(鑑別診断)

(1)原因菌の検出

(2)治療的診断

5.総論:真菌症の治療&問題点

(1)代謝

(2)副作用が多い

(3)DDS(drug deliverry system)

6.総論:真菌は動物か?植物か?

動物か、植物かの分類は、従属栄養独立栄養かを基準にしている。

従属栄養(じゅうぞくえいよう)とは独立栄養に対する語で、すべての動物クロロフィルをもたない植物、細菌菌類の行う栄養形式。他養、有機栄養ともいう。これらの生物体自体には無機物から有機物を合成する能力がないため、植物あるいは他の動物を食物として摂取して栄養源とすることとなる。

従属栄養生物とは、生育に必要な炭素を自分自身では生産できず、主に植物や動物に由来する有機化合物を摂取することで有機炭素源を獲得する生物群のことである。 従属栄養生物という用語は、栄養の種類に基づく微生物の分類の一部として、1946年に微生物学分野において生まれた。

独立栄養とは栄養素として有機化合物を必要とせず、無機物だけを用い、これを同化して、生物自体の体を構成する有機物を合成して生活活動を営む栄養形式をいう。 従属栄養に対する語で、自養、無機栄養ともいう。

独立栄養生物(どくりつえいようせいぶつ、英:Autotroph、オートトロフ)は、炭素を含む単純な無機化合物二酸化炭素重炭酸塩など)のみを炭素源として、複雑な有機化合物炭水化物脂肪タンパク質など)を生成して生育する生物群のことである[1]。例えば、二酸化炭素を還元して、生合成経路を経て様々な有機化合物を作る生物群などである。


皮膚真菌症(白癬)
ひふしんきんしょう(はくせん)
Dermatomycosis (Tinea)
(感染症)

どんな感染症か目次を見る

真菌(カビ)が皮膚感染、または寄生して起こる病気で、皮膚糸状菌しじょうきん白癬はくせんきん)、カンジダ癜風でんぷうきん、黒色真菌などによって起こります。ここでは、皮膚糸状菌(白癬菌)による白癬についてみていきます。

白癬は従来、症状から以下のように分類されていました。

表皮や爪、毛包に限局する浅在性せんざいせい白癬……頭部白癬、体部白癬(小水疱すいほう性斑状白癬)、頑癬がんせん、足白癬(汗疱状かんぽうじょう白癬)、つめ白癬など

・真皮から深層に強い炎症症状が起こる深在性しんざいせい白癬……ケルスス禿瘡(とくそう)、白癬菌性毛瘡もうそう、白癬菌性肉芽腫にくげしゅなど

しかし近年では、発症部位によって頭部白癬、顔面白癬、体部白癬股部(こぶ)白癬陰嚢いんのう白癬、手白癬足白癬爪白癬などに分ける欧米式分類にならう傾向にあります。

体部白癬ゼニたむし

体や手足にできる浅在性白癬で、頭部、手のひら、足の裏、陰嚢、陰股部を除く部位の白癬をいいます。ステロイド薬を外用している人に多く、原因菌は猩紅色菌しょうこうしょくきんであることが多いのですが、近年、犬猫に寄生しているイヌ小胞子菌しょうほうしきんによる患者さんが増えています。

比較的強いかゆみを伴う輪状に配列する発疹で、小さな水ぶくれ(小水疱)、紅いブツブツからなります。中心にはフケ状のものが付着し、病気が治ったようにみえるので、これを“中心治癒傾向がある”と表現します。

後述する股部白癬ほど皮膚が硬く厚くなく、色素沈着も強くありません。イヌ小胞子菌の場合は感染力が強く、露出部に小型の輪状の発疹が多発します。

股部白癬いんきんたむし

頑癬ともいい、太ももの内側(陰股部)にできる浅在性白癬です。夏季に、男性に多くみられ、時に集団発生することもあります。原因菌は、大部分が猩紅色菌ですが、まれに有毛表皮糸状菌によることもあります。

中心治癒傾向がある境界鮮明な輪状の湿疹様の発疹で、激しいかゆみがあります。中心部の皮膚は厚く硬くなり、色素沈着がみられ、辺縁は紅色丘疹が輪状に配列、融合して、堤防状の隆起を形成します。陰股部、臀部でんぶに生じやすく、まれに下腹部にまで及ぶこともあります。

足白癬水虫

足にできる浅在性白癬で、最も頻度の高い真菌症です。主に、足底に小水疱ができる小水疱型(汗疱型)、足の指の間にできる趾間しかん型、足底全体に角化のみられる角質増殖型に分類されます。

小水疱型

足底や足縁に小水疱や紅色丘疹ができるか、または皮がむけ、強いかゆみがあります。

趾間型

足の指の間の皮がむけ、白くふやけたようになります。親指から4番目の指と5番目の指の間によく発症します。

角質増殖型

足底全体の角質が厚くなり、皮がむけ、あかぎれも生じます。

爪白癬爪の水虫

足白癬を放置していると、白癬菌が爪を侵し、爪白癬になります。爪にできることはまれと従来いわれていましたが、最近の統計によると足白癬をもつ人の半分が爪白癬ももっていることがわかりました。高齢者に多くみられます。

爪の甲の肥厚と白濁を主な症状とし、自覚症状はありません。まれに爪の甲の点状ないし斑状の白濁のみのこともあります。陥入爪かんにゅうそうの原因のひとつにもなりますが、一般にカンジダ症と異なり、爪の周りが赤くなることはまれです。

 

検査と診断目次を見る

 

ふけや水疱部の皮膚、爪、毛を水酸化カリウムで溶かし、顕微鏡で観察する方法(KOH法)が一般的で、時に培養を行って、菌の同定を行うこともあります。手足に水ぶくれがみられる汗疱かんぽうとの区別が必要です。

 

治療の方法目次を見る

 

抗真菌薬の外用が一般的ですが、広範囲のもの、抗真菌薬でかぶれるもの、爪白癬では内服療法を行います。

外用は、手足では4週間、そのほかは2週間で症状が改善しますが、皮膚が入れ替わる数カ月間の外用が必要です。爪白癬の場合、少なくても3~6カ月間の内服が必要です。

本田 まりこ

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館「皮膚真菌症(白癬)」の解説

ひふしんきんしょう【皮膚真菌症 (Dermatomycosis)】

 皮膚真菌症とは、真菌(かび)が皮膚に寄生、感染しておこる皮膚病の総称です。皮膚に病気をおこす真菌(病原性真菌)には、皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)(白癬菌(はくせんきん))、カンジダ、癜風菌(でんぷうきん)、スポロトリックス・シェンキイ、黒色真菌などがあります。ほかに日本には存在しないものも数種類あります。いずれも健康な人にも感染し、皮膚病をおこします。
また、通常は病原性がないのに、抵抗力が著しく低下しているときに感染症をおこす(日和見(ひよりみ)感染症という)真菌もあります。
皮膚の真菌症は、浅在性皮膚真菌症(せんざいせいひふしんきんしょう)と深在性皮膚真菌症(しんざいせいひふしんきんしょう)に大別されます(表「浅在性皮膚真菌症と深在性皮膚真菌症」)。浅在性皮膚真菌症は、真菌が皮膚の角質(かくしつ)、爪(つめ)、毛、粘膜(ねんまく)(口腔(こうくう)、陰部)の表面にだけいるもので、日ごろよくみかけるのはこちらです。深在性皮膚真菌症は、真皮(しんぴ)や皮下組織内で真菌が増殖するもので、比較的まれです。
症状は多彩で、湿疹(しっしん)など、他の皮膚病の症状と似たものがたくさんあるため、診断には病変部に真菌が存在することの確認が必要です。そのため、鱗屑(りんせつ)(細かな皮膚片)や爪、毛などを苛性(かせい)カリで溶かして顕微鏡で観察します。深在性の場合は、組織を一部切り取る検査をして真菌を確認します。
◎白癬(はくせん)とは
皮膚糸状菌が、角質や角質の変化した爪・毛に感染しておこる病気です。大部分は浅在性皮膚真菌症ですが、まれに白癬菌性肉芽腫(はくせんきんせいにくげしゅ)という深在性皮膚真菌症がおこります。また、真菌自体は角質や毛にしかいないのですが、毛の周囲まで化膿(かのう)が進み、病巣が皮膚の深部にあるようにみえる「いわゆる深在性白癬」という白癬もあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

百科事典マイペディア「皮膚真菌症(白癬)」の解説

皮膚真菌症【ひふしんきんしょう】

糸状菌の一種である白癬(はくせん)菌,カンジダによって起こる皮膚病。頭部浅在性白癬(しらくも),斑状小水疱(すいほう)性白癬(ぜにたむし),汗疱(かんぽう)状白癬(水虫),頑(がん)癬(いんきんたむし)のほか,頭部に膿瘍(のうよう)をつくり,容易に毛髪が抜けるチェルズース禿瘡(とくそう),爪(つめ)が肥厚混濁してもろくなる爪甲(そうこう)白癬(爪白癬),皮膚カンジダ症などがある。また汗疱様白癬疹は各種白癬の際に生じるアレルギー性発疹。
→関連項目真菌症たむし癜風

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

内科学 第10版「皮膚真菌症(白癬)」の解説

皮膚真菌症(真菌症)

 真菌が表皮・毛・爪・粘膜など生体表面に限局性に感染する表在性真菌症(superficial mycosis)と真皮,ときにリンパ節や内臓に及ぶ深在性真菌症(deep mycosis)とがある.表在性真菌症が圧倒的に多く,中でも白癬の頻度が最も高く,ついでカンジダ症,癜風は比較的少ない.深在性真菌症はまれであるが,その中ではスポロトリコーシスを診る機会が少なくない.[大塚藤男]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

デジタル大辞泉「皮膚真菌症(白癬)」の解説

ひふ‐しんきんしょう〔‐シンキンシヤウ〕【皮膚真菌症】

真菌が皮膚に感染または寄生して起こる病気の総称。人獣共通感染症の一つ。病変が生じる部位によって浅在性皮膚真菌症白癬皮膚カンジダ症など)と深在性皮膚真菌症クリプトコッカス症アスペルギルス症など)に大別される。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典 第2版「皮膚真菌症(白癬)」の解説

ひふしんきんしょう【皮膚真菌症 dermatomycosis】

真菌(俗にカビ)が皮膚に感染して生ずる皮膚疾患の総称。真菌が主として表皮の最表層ともいえる角質層に感染する浅在性皮膚真菌症と,真皮内に菌が侵入し増殖して発症する深在性皮膚真菌症に二大別することができる。日本では前者が圧倒的に頻度が高く,皮膚糸状菌症,皮膚カンジダ症,癜風(でんぷう)が代表的である。後者にはスポロトリコーシス,クロモミコーシス,皮膚アスペルギルス症,皮膚クリプトコックス症などがある。皮膚糸状菌症はおもに白癬(はくせん)菌の感染により発症し,頭部白癬(しらくも),体部白癬(たむし),股部白癬(いんきんたむし),足白癬(水虫),手白癬,爪白癬や黄癬などの疾患がある。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

 

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