第4回 進化論は利他行動を説明できるか
第4回 進化論は利他行動を説明できるか
進化論によれば、自分自身の適応度を上げる形質を作る遺伝子が増える。そのため、他者の適応度を上げる利他行動と進化論とは相容れないように思われる。第4回の講義では、果たして進化論の考え方で利他行動が説明できるのかどうかを検討する。
【キーワード】
利他主義/利他行動、群淘汰、プライス方程式、血縁淘汰
1.利他行動の謎と群淘汰
利他主義(altruism)に基づく行動(利他行動)は、自分自身の適応度を下げて他者の適応度を上昇させる行動を定義される。
相互扶助(byproduct mutualism)は、単に自身の適応度を上げる行動が他個体に意図せぬ利益をもたらす。
群選択説(ぐんせんたくせつ、group selection)とは、生物の進化に関する概念および理論の一つ。集団選択説、グループ選択説、群淘汰説などとも言う。以下の少しずつ異なる三つの概念に対して用いられる。
- 生物は種の保存、維持、利益、繁栄のために行動する。あるいは生物の器官や行動はそのためにもっとも都合良くできていると言う概念。
- 自然選択は種や群れの間にもっとも強く働く。従って「利他的な」振る舞いをする個体が多い集団は存続しやすい。(1)の行動の進化に関する理論。
- 自然選択は生物の異なる階層で働くというマルチレベル選択説の一部。
種の保存、種の維持のためといった表現は広く見られるが、その概念は曖昧であり、理論的・実証的な根拠なしで用いられてきた。1と2をあわせて古典的な群選択、またはナイーブな(稚拙な、単純すぎる)群選択と呼ばれる。古典的な群選択は非常に限られた状況でしか起こらないことが分かっており、生物の行動を種の保存のためと説明するのは誤りである[要出典]。種が存続しているのは個体が種のために尽くすからではなく、その種を構成する個体が存続している結果である[要出典]。このような「種のため」という考えは自然選択の理解を滞らせたという意味で「群選択の誤り」と呼ばれる[1]。現在でも支持されることがある(3)の群選択説は古典的な群選択とは異なる概念である。
2.プライス方程式と群淘汰の誤り
プライス方程式
プライス方程式(プライスほうていしき、英: Price equation)は、進化生物学や遺伝学などの分野で用いられる数式です。1970年にイギリスの生物学者ジョージ・プライス(George R. Price)によって導入されました。プライス方程式は、遺伝子や遺伝子の伝達に関する進化の過程を数学的に表現するために使われます。
プライス方程式は以下のように表されます:
Δz = Cov(w, z) / E(w)
ここで、Δzは進化の変化、Cov(w, z)は個体の遺伝子に関する共分散、E(w)は個体の期待値を表します。プライス方程式は、個体の遺伝子の頻度の変化を、その遺伝子の寄与と個体の平均的な特徴の間の関係で表現します。
3.血縁に基づく利他行動の進化
血縁度(relatedness)は、共通の先祖に由来して同じ遺伝子を持っている確率をいう。
血縁淘汰 個体のある形質が,祖先が同じで同じ遺伝子を分けもつ子ども以外の近親の生存と繁殖に対して,有利または不利に作用するとき,こうした形質に働く淘汰を血縁淘汰といい,血縁選択ともいう。 社会生物学の基本的概念の一つ。
ウィリアム・ドナルド・ハミルトン ウィリアム・ドナルド・“ビル”・ハミルトン(William Donald “Bill” Hamilton, 1936年8月1日 – 2000年3月7日)は、イギリスの進化生物学者、理論生物学者。
血縁選択説と包括適応度を提唱し、ダーウィン以来の難問であった生物の利他的行動を進化の観点から理解する道を拓いた。近親交配性の狩りバチなどに見られる異常な性比を説明する局所的配偶競争や、進化ゲーム理論のさきがけとなる「打ち負かされない戦略」を提唱した。有性生殖の進化的意義の研究では、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』にちなんだ赤の女王仮説への支持と論理の拡張を行った。性選択において、オスの美しさは寄生虫耐性を示すというパラサイト説を唱えた。また老化の進化的意義の研究や、群れは捕食圧によっても形成されるという「利己的な群れ説」を提唱した。晩年には紅葉の進化のハンディキャップ説、微生物による雲の生成説などを提唱した。進化生物学だけでなく生物学分野全般に大きな影響を与え、現代のダーウィンと呼ばれた。
包括適応度 「包括適応度(inclusive fitness)とは、ある個体の遺伝子のコピーの複製に、その個体がどの程度寄与するかを示す量である。 自然淘汰も性淘汰も、淘汰は、遺伝子が複製する率の差異であるのだから、適応度に寄与する性質だけしか淘汰では残らない。
「血縁選択説」の記事における「ハミルトン則」の解説 他個体との相互作用がないときの適応度をw、利他行動によって相手が得る利益(benefit)をb、利他行動によって失う自身の繁殖成功をc(コストcost)、利他行動をする個体から見た相手の血縁度 (relatedness)をrとすると、包括適応度は w + br – c となる。利他行動が進化するのは、これが利他行動をしない個体の適応度wより大きいときなので、その条件は br – c > 0 となる。すなわち、利他行動を受ける個体の利益に血縁度で重み付けしたものが、利他行動を行う個体が被るコストを上回るとき、利他行動が進化すると予測できる。これをハミルトン則と呼ぶ。ハミルトン則はこの不等式を変形し、 b/c > 1/r と表すこともできる。
※この「ハミルトン則」の解説は、「血縁選択説」の解説の一部です。
「ハミルトン則」を含む「血縁選択説」の記事については、「血縁選択説」の概要を参照ください。
生物学者 リチャード・ドーキンス 血縁度の概念が持てなければ血縁淘汰理論の予測に合致した行動ができないというのは、数学ができないクモに数学的な複雑な構造をもつクモの巣を作れるはずがないと主張しているようなものだと指摘しています。
血縁度が高い相手に対する利他行動は、血縁度が低い相手に対する利他行動よりも進化しやすい
この主張は「血縁選択理論」に基づいています。血縁選択理論によれば、進化が生じるには生物が子孫を残すことが必要であり、血縁者に対する利他行動は生物が子孫を残すことを支援することができるため、進化しやすいとされています。
血縁選択理論によれば、血縁度が高い相手に対する利他行動は、血縁度が低い相手に対する利他行動よりも進化しやすいとされます。なぜなら、血縁者には遺伝子が共有されているため、利他行動によってその遺伝子を保護することができ、自分自身の遺伝子を残す可能性を高めることができるからです。
一方、血縁度が低い相手に対する利他行動は、自分自身の遺伝子を残すためには直接的な貢献をするわけではないため、進化しにくいとされます。ただし、社会的な生活を営む多くの種では、血縁度の低い相手とも協力することで、自分自身の利益を得ることができることがわかっています。
したがって、血縁度が高い相手に対する利他行動が進化しやすいことは事実ですが、血縁度が低い相手に対する利他行動も進化する可能性があることを忘れてはいけません。