第3回 進化心理学とはどのような学問か

第3回 進化心理学とはどのような学問か

第3回の講義では、進化心理学という学問の特徴を「何ではないのか」という形式で説明する。また、進化心理学では、行動の原因として究極要因と至近要因という水準の異なる要因があると考える。究極要因と至近要因についても説明する。

【キーワード】
標準社会科学モデル(SSSM)、究極要因、至近要因


1.標準社会科学モデルからの脱却

20世紀の心理学では、「育ち」を重視し、その代表格は、行動主義心理学(behaviorism)、ジョン・ブローダス・ワトソンである。

第1回 心理学とは

人間の意識(内面)を内観法によって解明しようとした古典的心理学に決別し、外から観察可能な行動のみを取り上げることで、より科学的な心理学を目指す行動主義が台頭した。

子供を対象とした条件づけ実験を通して、行動は「刺激と反応」の結びつきによって形作られることを示した。

第4回 学習心理学

標準社会科学モデル(SSSM)  生物学的説明を排除する論法。

標準社会科学モデルStandard Social Science Model、SSSM)は一般的に進化心理学の支持者によって、20世紀に社会学で発展したと考えられる「空白の石版」、あるいは「環境決定論(文化決定論)」を指す語として用いられる。それらは文化を空白の石版である人の心に吸い込まれる「超個体」と見なし、進化的 / 生物的基盤に全く関わりなく人の考え、感情行動を形作ると考える。進化心理学の理論家はSSSMが時代遅れであり、社会科学の進歩的なモデルには生物学的 / 進化的基盤を考慮した心の計算理論に基づく文化学習の新たなモデルが必要だと主張している。

この用語は1992年のレダ・コスミデスジョン・トゥービージェローム・バーコウによる論文集『Adapted Mind』で初めて用いられた。

  • 「本能は習慣を生み出さない;習慣は本能を作る。なぜなら想定上の人間の本能は常に学習され決して固有ではないから」(Ellsworth Faris, 1927, cited in Degler, 1991, p. 84)
  • 「我々は人間の本性がほとんど信じられないくらい柔軟であると結論することを強要される。正確に、対照的に、文化の状況に反応する。」(Margaret Mead, 1935/1963, p. 289)
  • 「『人間性』と一般に呼ばれていることの多くは、単に神経、線、感覚器、筋肉、そのほかのスクリーンに投影されている文化のことである」(Leslie White, 1949, cited in Degler, 1991, p. 209)

批判

今日では、ほとんどの人は「空白の石版」を信奉していない。しかしSSSMが20世紀にどれだけの範囲で用いられていたかには議論がある。進化心理学者はSSSMを「わら人形」とするために、実際よりももっと人気があったように文脈を無視して引用したと批判された[1]

ヒトの心のはたらき・行動がまったく生物学と関係ないのであれば、脳の大きさや構造も関係ないということになってしまう。「生物学はまったく関係ない」という立場は極端すぎる。

優生学と生物学の違い

優生学eugenics

遺伝学的に人類をよりよくすることを目的として起った応用生物科学。すなわち世代を重ねながら遺伝的に有利な素質が発展し,生存にとって有害な素質が少くなるようにはかるもので,近代的な優生学的運動は F.ゴルトンに始る (1883) 。これに対し人類は遺伝素質の改革よりも環境,教育の改良に重点をおいてよりよくすべきだという主張があるが,これを優境学 euthenicsという。また有害遺伝子を受取っても,これが表現型として現れないようにすることも可能な場合がある。たとえばフェニルケトン尿症を遺伝した患者に,食物中のフェニルアラニン含量を押えるなどである。こうした対策の研究を,優生学と対比して,優表現学という意味で euphenicsという。優生学的な方策を強く主張することは,個人間に優劣の価値づけの差別を設けるものだとの指摘がある。

命に優劣をつけ選別する「優生思想」。20世紀初頭に欧米諸国で盛んになり、戦時下のドイツでは、障害のある人に対し「断種法」に基づく強制的な不妊手術や、「T4作戦」と呼ばれる計画的な大量殺りくが行われていました。当時の日本でも、そうした影響を受けて旧優生保護法が作られ、今でも暗い影を落としています。繰り返されてきた命の選別を終わらせることはできるのでしょうか。再び過ちを犯さないためにも、ドイツの歴史から考えます。
優生学が間違っているのは、遺伝性のある特性に優劣をつけることができると考える点である。その恣意的に決定した優劣に基づき価値判断をしている点である。

ヒュームの法則 ヒュームの法則とは、「~である」といった事実を証言している文から、「~すべきだ・~は悪だ」といった価値を証言することは論理的に不可能であるとする説のことです。

出典は、18世紀イギリス・スコットランドの哲学者デイヴィッド・ヒューム著の『人間本性論』となっています。

デイヴィッド・ヒュームDavid Hume[注 1]、ユリウス暦1711年4月26日〈グレゴリオ暦5月7日〉 – 1776年8月25日)は、スコットランド哲学者ロックバークリーベーコンホッブズと並ぶ英語圏の代表的な経験論者であり、生得観念を否定し、経験論懐疑論自然主義英語版哲学に絶大な影響を及ぼした。歴史家政治思想家経済思想家随筆家としても知られ、啓蒙思想家としても名高い。生涯独身を通し、子を一度も残していない。エディンバラ出身。

自然主義的誤謬 ムーアによれば、自然主義的誤謬とは、「善い」(good) を何か別のものと同一視することである。 その何か別のものの内には、われわれが経験できるような対象も含まれるし、われわれが経験できないような形而上学的対象も含まれる。

浮気は生物学的にOK?「自然主義的誤謬」とは? | 詭弁を見抜く!論理の間違いシリーズ

事実→規範は論理的に繋がらない

自然主義的誤謬とは、「である」こと(物事の自然な状態)を、ゆえに「であるべき」だ(物事のあるべき状態)と、話を飛躍させることだ。こういったもっともらしい主張は、男女の役割や、遺伝子改良などの新技術といった、様々な分野で横行している。

2.進化心理学についての誤解

(1)進化心理学と遺伝決定論と同じではない。

遺伝子決定論、あるいは生物学的決定論とは、遺伝子が成人の思考・行動パターンを決定するという概念である。 ほとんどの表現型が遺伝の影響を強く受けることは確立された事実であるが、同時に非遺伝性の要因が表現型に影響を与えるケースも知られている。

進化心理学は、遺伝子に基づく進化及び経験や環境が、成人の思考・行動パターンに影響することとしている。

遺伝により言語を学習する能力が備わっている。その上で、経験や環境により何語を話せるようになるかが決まる。

(2)進化心理学と行動遺伝学と同じではない。

行動遺伝学とは,簡単に言えば,人と人との違いを遺伝による影響と環境による影響とに分割するやり方である。(行動遺伝学からみた自尊心の安定と変化)

進化心理学は、個人差ではなくヒトという種に共通の心の働きを調べる学問である。

(3)進化心理学と反証不可能と同じではない。

仮説の検証可能性

進化心理学に対するよくある批判は、その仮説を検証することが困難または不可能であるとして、経験科学としての地位に異議を唱えるものである。一例として、批判者は、現在みられる形質の多くは現在とは異なる機能を果たすために進化した可能性があり、歴史に対する後方推論の試みを混乱させていると指摘している[39]。進化心理学者は自分達の仮説をテストすることの難しさを認めるが、それでも可能であると主張する[40]

批判者は、ヒトの行動形質が何かに対する適応であることを説明するための多くの仮説は「なぜなぜ話 (Just-so story)」であると主張している。ある特性の適応的進化についての一見うまく見える説明は、その内部の論理を超えた証拠に基づいていない[41]。進化心理学は、矛盾する状況を含め、任意の状況における多くの、あるいはすべての行動を予測できると彼らは主張している。つまり、多くのヒトの行動は常に何らかの仮説に適合してしまう。ノーム・チョムスキーは次のように述べた。

「人々が協力していれば、『ああ、それは彼らの遺伝子を残すことに貢献していますね』と言える。人々が戦っていれば、『なるほど、他の誰かの遺伝子ではなしに彼ら自身のものを永続させるということですね』と言える。実際、どんなものについてでも何かしら物語を作ることができるでしょう。」 [42] [43]

一方レダ・コスミデスインタビューで次のように述べた。

「進化生物学の専門知識を持っている人は、あらゆる形質に対して事実に基づいた説明を作り上げることは不可能であることを知っている。進化論の説明には重要な制約が存在するのである。さらに重要なことに、すべてのまともな進化論的説明からは、形質の設計について検証可能な予測ができる。たとえば、妊娠中の病気は出生前ホルモンの副産物であるという仮説は、胎児が胚発生の時点で食物中の病原体や植物毒素から(もっと脆弱な妊娠初期の)胎児を保護するために進化した適応であるという仮説とは異なる食物嫌悪のパターンを予測する。新しく形質を発見するために生成されたものであれ、すでに知られている形質を説明するためのものであれ、進化論的仮説は、その形質の設計に関する予測をもたらす。代わりに、適応機能についての仮説を立てないとすれば、そういった予測がまったくできない。さて、どちらがより制約された穏健な科学的アプローチだろうか?」

進化心理学者らによる2010年のレビュー論文では、進化論を経験的にテストする方法について述べている。まず心理的現象の進化的原因について仮説が立てられる。次に、研究者は検証可能な予測を行う。これには、進化の原因が引き起こすかもしれない未知の影響を予測することが含まれる。次に、これらの予測がテストされる。著者らは、多くの進化についての理論がこの方法でテストされ、確認または反証されていると主張している。 [44] Buller(2005)は、進化心理学の分野全体が決して確認または反証されていないことを指摘している。進化心理学の一般的な仮定によって動機付けられた特定の仮説のみが検証可能である。したがって、彼は進化心理学を理論ではなくパラダイムと見なし、この見解をレダ・コスミデスジョン・トゥービーデイビッド・バススティーブン・ピンカーなどの著名な進化心理学者に帰している。 [45]

エドアール・マシェリのレビュー論文「進化心理学における発見と確認」(オックスフォードハンドブック心理学の哲学)では次のように結論付けられている[46]

「進化心理学は、心理学において非常に物議を醸し続けているアプローチである。それはおそらく、懐疑論者がこの分野について直接の知識をほとんど持っていないためか、進化心理学者によって行われた研究の質が不均一であるためである。しかし、進化心理学に対する原理的な懐疑論を支持する理由はほとんどない。誤りはありうるにしても、進化心理学者が使用する発見のヒューリスティックと確認戦略は確固たる根拠に基づいている。」

スティーブ・スチュワート・ウィリアムズは、進化心理学の仮説は反証不可能であるという主張に対し、そのような主張は論理的に矛盾しているとした。進化心理学の仮説が反証不可能である場合、競合する仮説も反証不可能である。なぜなら、代替の仮説(社会文化的仮説など)が真であることが証明された場合、これは競合する進化心理学の仮説を自動的に反証するためである。競合する仮説が真であるためには、進化心理学の仮説は偽でなくてはならず、つまり反証可能でなくてはならない。[47]

エドワード・ハーゲンは進化心理学への典型的な批判として次のようなものを挙げている。形質は適応と副産物のどちらかで進化した可能性があり、これは過去の環境でのことであるためにどちらであるかを判断することは不可能であり、したがって、形質の起源についての進化心理学の仮説は検証できないというものである。ハーゲンによれば、この主張に基づく批判は科学の理解に問題があるという。科学は基本的に仮説的推論であり、ひとつに最良の説明を推論することであるという。ハーゲンは、現象に対する最良の説明を提供するために複数の仮説が競合すると主張している。ここで「最良」は、新しく驚くべき観察、単純性の原則、一貫性などの予測などの基準による。仮説的推論は、科学者がその予測の全てに対して直接的な証拠を提供することを必要としない。進化心理学の仮説は予測を行い、したがって他の仮説と競争して特性を説明する。さらに、一部の批判者は精神的形質の進化心理学の説明は先述した理由により検証できないため真実ではないとするが、これは誤った結論だとハーゲンは主張している。たとえ進化心理学の仮説を検証できなかったとしても、これはそれらが間違っていることを意味するのではなく、単にそれらの証拠が入手できないということであり、進化のために形質が存在しないということではない。[48]

ドミニク・マーフィーは、進化心理学に対するよくある反対意見の1つは、「タイムマシン」の議論であると説明している。進化心理学の仮説が真実であれば現代で起こる現象について予測を行うことができるが、同様にこの現象を予測しうる形質の起源についての代替の説明が無数に存在するという議論である。適応進化によって現れたとされる形質があるいは副産物として現れたのだとしても同じ現象を予測できるのである。したがって、潜在的には無数の代わりの歴史の説明が可能であり、タイムマシンがなければ、現代で見られる証拠に対する可能な説明のうちいずれが正しいかを判断することは不可能だという。マーフィーはこの議論には複数の欠陥があると主張している。第一に、特性の説明を提示し、その説明に基づいて現代で見られる現象の予測が行われる場合、単に代替の説明を提案することはできない。代替の説明は独自のテスト可能な予測、そしてできれば複数の予測を提示する必要がある。またマーフィは、すべての説明が同じ現象を予測するわけではないため、ある説明が現代の多くの現象を予測し、代替の説明がこれを説明するのに苦労している場合、前者の説明に確信を持つことは合理的であると主張する。さらに、「タイムマシン」の議論が他の科学に適用された場合、それはばかげた結果につながるという。マーフィーは、宇宙論者が利用可能な天文学的証拠と素粒子物理学の現在の理解を研究することによってビッグバンについての予測を確認したことを引き合いに出している。タイムマシンで宇宙の始まりに戻る必要はないのである。同様に、恐竜の絶滅を引き起こしたのは小惑星の衝突であるという仮説を調査している地質学者と物理学者は、現代の証拠を探すことによってそれを行っている。したがって、他の歴史科学がそうではないのに、進化心理学だけが「タイムマシン」でテストできないと主張されなければならないのか示す責任は懐疑派にあるとし、「方法は、ある文脈での嘲笑のために選ばれるのではなく、全面的に判断されるべきである」とマーフィは結論している。[49]

同様の主張はアンドリュー・ゴールドフィンチによってもなされた。こういった批判は一様に不確定性の問題であるという。すなわち、多くの競合する説明がある現象に適応しているとき、どの説明が適切かを決めるのは困難ということである。さらに、実験結果の解釈を修正し、新規の事実と適合するようにしたり実験の信頼性に疑問を呈したりすることができる。しかし、これは科学のあらゆる領域に共通の問題であるため、進化心理学に限って批判として使われるというのは辻褄が合わないとゴールドフィンチは主張している。次に、ゴールドフィンチによれば、競合する説明を区別する方法の一つは、新たな予測を立てたり新事実を発見するための手法と、他の手法による新たな発見に適合するような手法を区別することである。予測を立てたりテストしたりできるような手法を、他の手法による発見に適合するような手法より優先すべきなのである。[50]

3.至近要因と究極要因

ニコ・ティンバーゲン

ニコラース・ティンバーゲンオランダ語Nikolaas Tinbergen1907年4月15日 – 1988年12月21日)は、著名なオランダ動物行動学者で、鳥類学者。「ニコ」は通称。オランダ語読みではニコラース・ティンベルヘン。オランダのデン・ハーグ生まれで、ノーベル経済学賞の初代の受賞者、ヤン・ティンバーゲンの弟としても知られる。他によく知られたルーク・ティンバーゲンという兄弟もいる。1955年イギリスの市民権を取得している。1973年コンラート・ローレンツカール・フォン・フリッシュと共にノーベル医学生理学賞を受賞した。

ティンバーゲンの研究は、一部は当時のアメリカ心理学界で有力であった行動主義への反発として行われた。ティンバーゲンは動物の行動が環境刺激への単なる反応ではなく、より複雑な動物の内面の情動に起因すると考え、行動の生理的、現象的な側面だけでなく、進化的な側面の研究の重要性を強調した。それに関連して示した生物学の4領域ティンバーゲンの4つのなぜとも呼ばれる)は行動生態学など後の行動生物学分野の重要なフレームワークとなっている。

ティンバーゲンの4つのなぜ

ティンバーゲンの4つのなぜとは、ニコ・ティンバーゲンにちなんで名付けられた、「なぜ生物がある機能を持つのか」という疑問を4つに分類したものである。

例えば、「植物はなぜ動かないのか」と問うたとき、「植物には筋肉のような運動器官を持たないから」という機構に基づいた答えは正しいのだが自明すぎてあまり有用な答えとは言えない。このような問いは、たいてい、なぜ植物は(動物とは異なり)そのような進化をしたのか、なぜ動くことがなくとも現在のように繁栄できるのか、という疑問から発せられたものだからである。一方、「ある種のイカが外部からの刺激に反応して体色を素早く変色させるのはなぜか」という問いに対しては、周囲の目を欺くためという機能に基づいた回答もさることながら、色素胞と筋肉、それを制御する神経の仕組みという機構に基づいた説明も、たいへん興味深いものになる。このように、「なぜ」という一言は、着目する観点の違いによって複数に分類されるべきことが納得できる。

生物のが見える理由の一つとして「目は食べ物を見つけ危険を回避する助けになるため」という答えが一般的だが、そのほかに生物学者は異なる三つのレベルの説明を行うことができる。すなわち「特定の進化の過程で目が形成されたため」「眼がものを見るのに適した機構を持っているため」「個体発生の過程で眼が形成されるため」である。

これらの答えはかなり異なってはいるが一貫性があり、相補的であり、混同してはならない。1960年代にニコラス・ティンバーゲンが動物の行動についてアリストテレス四原因説を元に4つの疑問(あるいは説明の4分野)を詳細に描写するまで、生物学者もこれらをしばしば混同した。この概念は行動に関わる分野、特に動物行動学行動生態学社会生物学進化心理学比較心理学の基本的な枠組みである。原因と機能の区別はティンバーゲンと同じ時期かそれ以前にジュリアン・ハクスリーエルンスト・マイヤーからも提案されている。

質問と説明の4領域[編集]

二つの要因は個体に関係する。別の二つの要因は進化に関係する。

分類表[編集]

通時的/共時的
動的
時間の流れの中での現在の形の説明
静的
種の現在の形の説明
どのように/なぜ 至近要因
個々の生物の機構はどのように機能するか
発達(個体発生)
ある個体の機構はどのような過程をたどって発達するか
機構(メカニズム)
どのように生物の機構が働くかのメカニズム
究極要因 (進化要因)
その種の機構はなぜ進化したか
系統発生
進化の道筋の中で種はどう変化してきたか
機能(適応)
現在の環境において生殖または生存の問題にどう寄与しているか

究極要因 (進化要因)[編集]

進化要因とも訳される。究極要因は「最も重要」という意味ではない。他の要因も同様に重要である。

1 機能(適応)[編集]

現在において、生存し子孫を残すためにどのような機能を持っているか。

ダーウィンの自然選択による進化の理論は、なぜ動物の振る舞いが通常、おのおのの環境の中で生存と繁殖のために「良くデザインされている(少なくともそのようにみえる)」かの唯一の科学的説明である。例えば鳥は食物と暖を取るために冬には南へ渡るほ乳類の母親は子どもを育て、それによって生き残る子の数を増大させる。

2 系統発生[編集]

系統発生、すなわち「現在の生物がどのような進化の経路をたどってきたか」は、機能/適応以外の全ての進化的な説明に関わる。自然選択が最適なデザインを達成できないかも知れないいくつかの要因がある[1]。例えば小集団に起きる遺伝的浮動創始者効果、環境的な突発的な出来事(気候変動など)のように、進化は偶然の過程も伴う。また初期の進化的発達の結果、制約が生まれることがある。多くの表現型が系統発生の過程で維持されるために、個体は過去の様々な世代の特徴を引き継ぐ。これは形態にも行動にも当てはまる。種の系統発生がどのようなものであったかを再現することは、現在の形質の「独特さ」の理解につながる。例えばヒトも含めた脊椎動物の眼は盲点を持つが、タコの眼は持たない。それぞれの系統で独立して眼が何とかして作られた。いったん脊椎動物の眼が作られたあとは、「十分機能し、かつ盲点なしの眼」という過程を経ることがなかった。

至近要因[編集]

直接要因とも訳される。

3 機構(至近メカニズム、直接的な原因)[編集]

神経、脳、分子的、物理的なメカニズム。以下は至近メカニズムの例である。

  • :ブローカ野文法の使用のために重要である。
  • ホルモン:生物の個々の細胞間で行われる通信用の化学物質である。例えばテストステロンはいくつかの種で攻撃的な振る舞いを刺激する。
  • フェロモン:同じ種のメンバー間での通信に用いられる化学物質である。例えばなどでは仲間を引きつけるためにフェロモンを用いることはよく知られている。

現生の生物を調べるときに、生物学者は複雑さの様々なレベル、例えば化学レベル、生理レベル、精神レベル、社会レベルに遭遇する。研究の主題はレベル間の機能的な因果関係である。生理学(行動生理学)分野ではとりわけホルモンやニューロンの解明が注目される。例えば社会的、生態的状況、個々の行動がホルモン濃度やニューロンの状態に与える影響などである。ほ乳類では出産時のストレスは陣痛を抑える効果を持つ。下位レベルの研究は上位レベルを理解するための必要条件である。しかし、神経細胞の化学メッセンジャーの理解だけでは、神経解剖学的な構造や行動の理解には不十分である。ニコライ・ハルトマンが「複雑さのレベルの規則」で述べたように、「全体はその部品の単なる合計以上である」。全てのレベルは等しく重要であると認識されなくてはならない。

4 発達(個体発生)[編集]

ある個体が生殖細胞から現在の形になるまでの発達に関する分子機構や学習方法。

20世紀後半に社会科学者は人間の行動が「生まれ(遺伝)」か「育ち(文化を含む、発達期の環境)」の結果であるかを議論した。生物学者の間の総意は現在、行動が遺伝と環境の相互作用の産物であると言うことである。そのために、全体は部分の総和(遺伝と環境の合計)以上であり得る。対照的に、身長は「高さ遺伝子」と食糧の豊富さの合計であるかも知れない。

相互作用の例(構成要素の合計以上であるという例)は幼児期の習慣に関係する。いくつかの種において、個体はなじみの深い個体を好むが、同時にあまりなじみの深くない相手とつがうことを好む[2]。つがい行動に影響する遺伝子とは異なって、共に暮らすことに影響する遺伝子が環境との相互作用によってつがい行動にも影響を与えていると推測されている。

相互作用の例は植物にもある。いくつかの植物は重力に反して成長し(重力屈性) 、他のいくつかの植物では光の方向へ成長する(光屈性)。そのような種は異なる遺伝子のために同じ環境に対して異なる反応を示す。

発達上の学習の多くは臨界期を持つ。例えば人間の言語の獲得やガチョウ刷り込みなどである。このような例では遺伝子は環境の影響を受けるタイミングを決定する。同様の概念に「学習バイアス」[3]や「準備された学習」[4]がある。例えば、食事をした後に続けて不快な気分(吐き気など)にさせたラットは、その食物を臭覚と結びつける。音とは結び付けない[3]。多くの霊長類ではわずかな経験でヘビを恐れることを学習する[4]

[編集]

視覚

最初の疑問の「見ること」に戻ると、4つのカテゴリーによる説明は次のようになる。

  • 機能:食物を見つけて危険を回避すること
  • 系統発生:脊椎動物の眼は盲点を持って形成されたが、「完全な」眼に向かう適応的な中間形態が存在しなかったために、その初期の形態が維持された。
  • 発達:ニューロンは眼と脳を接続するために光の刺激を必要とする[5]
  • メカニズム:眼のレンズは光を網膜の視覚システムに集める。
ウェスターマーク効果

ウェスターマーク効果は、兄妹に対して性的関心が欠如する現象である[6]

  • 機能:生存可能な子どもの数を減少させる同系交配を避ける。
  • 系統発生:いくつかのほ乳類の種でこのような性質が見つかっており、数千万年以上以前からこのような性質があると考えられる。
  • 発達:若い時期に他の個体と共に暮らすことで形成され、人間の場合最初の30ヶ月が重要である。イスラエルキブツでは非血縁者同士でもこの現象が観察された。
  • メカニズム:神経的メカニズムについてはほとんど分かっていない。

エルンスト・マイヤー 

エルンスト・ウォルター・マイヤーErnst Walter Mayr1904年7月5日 – 2005年2月3日) はドイツ生まれの生物学者生物哲学者である。メンデル遺伝学ダーウィン進化論を総合する生物進化ネオダーウィニズム(総合説)の形成に関わった。鳥類の分化の研究などをおこなった。

1953年からハーバード大学の教職に就き、1975年に定年退職してハーバード大学のアレキザンダー・アガシー記念動物学名誉教授となった。1904年生まれの長寿の自然科学者で100歳の誕生日にサイエンティフィック・アメリカン誌のインタービューを受けた。生物学以外にも、科学史科学哲学などの著書があり、とくに生物学史と生物哲学の分野の開拓者として知られる。[1]

19歳のとき、ドイツでたまたまアカハシハジロを見つけ、鳥類学者エルヴィン・シュトレーゼマン(Erwin Stresemann)に紹介されたことから鳥類学の研究を始めた。当時、アカハシハジロは77年間も目撃例がなく絶滅したと考えられていたうえに、写真や映像の撮影に成功したわけではなかったので、その発見には疑いがもたれた。しかし、シュトレーゼマンはマイヤーの知識、観察力、識別能力を試した後に、発見を確信しただけでなく、自分のもとで働くようマイヤーを誘った。[2]その後アメリカ自然史博物館に移り、鳥類の剥製のロスチャイルド・コレクションの形成に重要な役割をはたした。

集団遺伝学J・B・S・ホールデンなどの進化に対する数学的アプローチに批判的で、その手法を「ビーン・バッグ(豆袋)」にたとえて批判した。同様にカール・ウーズなどの分子進化生物学にも批判的である。

多くの著書のなかでマイヤーは進化をひきおこす要因が単一の種にたいしてだけでなく、すべての種に加わること、他の種の存在によってある種が影響をうけることを論じて、進化における還元主義(reductionism)に反対している。隔離された種の進化のみを扱わない研究を支持している。

近年の進化と種の分化の分子学的研究は、鳥のような移動性の大きい生物が局所的種分化(allopatric speciation)を起こすのが一般的であるにもかかわらず、昆虫などの無脊椎動物が同所的種分化(sympatric speciation)を起こす場合の多いことを示している。

至近要因(proximate cause) 有る行動を誘発する外的要因やそれに反応する内的神経学的要因

外的要因 渡り鳥の渡り行動を引き起こす要因としては、日照時間が短くなることや急激な気温変化

内的要因 外的要因によって渡り鳥の身体に生じる生理的変化

究極要因(ultimate cause) ある行動傾向が進化した経緯

渡り鳥が渡り行動に至った適応上の理由 なぜ渡り行動がトリに備わったのか、北国で越冬するよりも移動のリスクを冒してでも南国に移動した方が生存に有利だったから。

 

近親相姦 近交弱勢(inbreeding depression)

ウェスターマーク効果(Westermarck effect) ウェスターマーク効果(ウェスターマークこうか、英: Westermarck effect)とは、幼少期から同一の生活環境で育った相手に対しては、長じてから性的興味を持つ事は少なくなる、とする仮説的な心理現象である。

この理論(仮説)は、19世紀にフィンランドの哲学者・社会学者であるエドワード・ウェスターマークが、1891年の自著『人類婚姻史』で提唱したとされているのでこう呼ばれている。reverse sexual imprinting リバース・セクシュアル・インプリンティング と呼ばれることもある。

ウェスターマーク効果?会話時間が短い方が夫婦円満に繋がる可能性は?

 

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