第3回 中年期を生きる人々を支える
第3回 中年期を生きる人々を支える 中年期における疾病の特徴や彼らのメンタルヘルスをめぐる問題をふまえ、「中年期危機」の構造や支援の課題について論じる。
【キーワード】
中年期危機、更年期障害、ストレス、メンタルヘルス、アイデンティティの再体制化
1.中年期のメンタルヘルス
「ひきこもり」(40〜64歳の者が、全国で61万3千人いると推計を公表している)
中年期のひきこもりとは、一般的には40代から50代にかけての年齢層で、社会的に孤立し家から出ない生活を送る状態を指します。この状態に陥る原因としては、仕事や家族関係の問題、精神的な疾患、身体的な病気などが挙げられます。
中年期のひきこもりは、若年期のひきこもりと比べて、社会的に孤立している期間が長くなることが多く、社会からの復帰が難しくなる傾向があります。また、年齢が高くなるにつれ、健康や経済的な問題なども増えることから、治療や支援を受けることが重要です。
治療や支援には、専門のカウンセリングや治療、就労支援、社会復帰支援などがあります。また、身近な人がいる場合は、家族や友人の理解や支援も大切です。中年期のひきこもりの人が抱える問題は複雑であるため、専門家のアドバイスを受けながら、個々の状況に合わせた適切な治療や支援を受けることが重要です。
2.中年期危機
(1)中年期危機への構造的理解
中年期危機とは、通常、40代から50代にかけての人生において、人生に対する自己評価や目標の見直しが生じる現象です。この時期には、自分自身や自分の人生について新しい見方を見つけようとすることがあります。
一般的に、中年期危機は、以下のような構造を持っています。
- 目標の再評価:中年期危機の最も一般的な特徴は、自分が何をしているのか、何を成し遂げたいのかについての目標や価値観を再評価することです。これは、これまでの人生で達成したことと未達成のことを考えた結果、自己肯定感に影響を与えることがあります。
- 自己同一性の危機:中年期危機のもう一つの重要な側面は、自己同一性の危機です。自分が誰であり、自分がどこに向かっているのかについての問題を抱えることがあります。これは、自己のアイデンティティが揺らぎ、過去や将来への不安を引き起こすことがあります。
- 家族や人間関係の再評価:中年期危機では、家族や人間関係の再評価が生じることがあります。これは、子育てが終わった場合、配偶者との関係性について、また友人や職場の同僚とのつながりについての再評価が含まれます。
- 生き方の変化:中年期危機は、生き方に対する変化を求めることがあります。たとえば、新しいキャリアを追求する、趣味を見つける、または新しい場所に移住するなどです。これらの変化は、自己の再発見や個人的成長を促すことがあります。
中年期危機は、必ずしも否定的なものではありません。多くの人にとって、新たな可能性を開く時期となることがあります。それでも、この時期は自己の変化や不安に直面する可能性があるため、専門家の支援を受けることが役立つ場合があります。
(2)中年期に体験されやすい心理的変化の諸相
中年期は、一般的に40歳から60歳までの期間を指します。この期間には、身体的変化が起こるだけでなく、心理的変化も起こることがあります。
以下に、中年期に体験されやすい心理的変化の諸相をいくつか挙げてみます。
- 自己認識の変化:中年期に入ると、人は自分自身についてより現実的な見方をするようになります。つまり、自分が何を望んでいるのか、何が大切なのか、何ができるのかといったことを、より客観的な視点から見るようになることがあります。
- 自己評価の変化:中年期には、人は自分自身についてより厳しくなる傾向があります。これは、人生の半ばを過ぎると、過去の選択や経験についてより客観的な見方をするようになり、自分に対する評価が厳しくなることがあるためです。
- 家族関係の変化:中年期には、子どもたちが独立して家を出るという変化が起こります。これにより、親は子どもたちとの関係を再定義する必要が生じます。また、両親が高齢化することで、親との関係も変化していくことがあります。
- 人間関係の変化:中年期には、友人や同僚などの人間関係も変化することがあります。これは、人生の経験や成果に基づいて、新しい人間関係を築く必要が生じるためです。
- 意味や目的の再定義:中年期には、人生の意味や目的について再考することがあります。これは、過去の選択や経験に基づいて、自分自身が何を望んでいるのかを再確認する必要があるためです。
以上が、中年期に体験されやすい心理的変化の諸相の例です。ただし、人によってはこれらの変化を感じない場合もあります。
3.生物学的存在としての自己の揺らぎ
不定愁訴の発生メカニズム
不定愁訴は、心身のストレス、不規則な生活習慣、ホルモンバランスの乱れなどが要因となり、自律神経のバランスが崩れたときにあらわれることが多いといわれています。 そのほか、何らかの病気が原因で起こるケースもあります。
不定愁訴とは、不明瞭な不安や憂鬱な気分、身体的症状が継続的に現れる症状群のことを指します。不定愁訴の発生メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、以下に示すいくつかの要因が関連していると考えられています。
- ストレス:長期間にわたるストレスは、身体的な不調や精神的な不安定を引き起こすことがあります。過度のストレスには、身体的な疲れや痛み、うつ病、不安障害、パニック障害などが含まれます。これらの症状は、慢性的なストレスにさらされた人々によく見られます。
- 身体的な疾患:身体的な疾患や病気がある場合、それに伴って不定愁訴が現れることがあります。たとえば、慢性的な疲労症候群、線維筋痛症、不眠症などが挙げられます。
- 心的外傷:過去の心的外傷、虐待、不安定な家庭環境などが、不定愁訴の原因になることがあります。過去のトラウマによって、人々は不安や不安定な感情を抱くことがあります。
- 個人的な特徴:個人的な特徴や性格によっても、不定愁訴のリスクが高くなることがあります。たとえば、完璧主義者や自己否定的な人、ストレスに弱い人などが該当します。
不定愁訴の発生メカニズムは複雑であり、上記の要因以外にも多数の要因が関連しています。そのため、不定愁訴を抱えている場合は、専門家に相談することが大切です。
4.中年期における人生の問い直しと心理臨床的支援
(1)自己の有限性とアイデンティティをめぐる問い
自己の有限性
時間的展望のあり方
(2)中年期を生きる人々への心理臨床的支援の課題
中年期のアイデンティティ再体制化
・中年期は、青年期の思春期との対応から、思秋期と呼ばれることがあるが、両者の共通点と相違点について比較してみよう
中年期は、一般的に20代後半から40代半ばまでを指します。青年期の思春期に対応する期間は、10代から20代初めまでで、思秋期と呼ばれることがあります。以下に、中年期と思秋期の共通点と相違点を比較してみます。
【共通点】
- 人生において重要な転換期:中年期と思秋期は、どちらも人生において重要な転換期とされています。青年期から抜け出し、社会的責任を負うことが増え、人生での役割や目的を見出すことが求められます。
- 変化や不安定性:どちらの期間も、多くの変化や不安定性が伴います。学業や職場、人間関係など、多くの分野で大きな変化が生じることがあります。これにより、自己アイデンティティの確立や、新たなスキルや関係性の構築が必要になります。
- 成長や発展の機会:中年期と思秋期は、成長や発展の機会が多い期間でもあります。新たなスキルや知識を身につけることができたり、新たな人間関係を築いたりすることで、自己実現や自己成長の機会が生まれます。
【相違点】
- 人生の役割:中年期は、しばしば家庭や職場での役割を強調されます。子育てや仕事、社会貢献など、社会における自己の役割を果たすことが求められます。一方、思秋期は、自己のアイデンティティ形成に重点が置かれます。
- 身体的な変化:中年期は、身体的な変化が現れることがあります。筋力や体力が低下することがあり、健康管理や健康維持が重要になります。一方、思秋期は、身体的な変化が少なく、自己アイデンティティの確立に集中することが多いです。
- 年齢 青年期は、おおよそ10代から20代前半までの期間を指し、中年期は40代から60代前半までの期間を指します。青年期と中年期の間にある思秋期の年齢は、30代から40代前半までの期間です。
- 身体的変化 青年期は、身体的な変化が著しい時期であり、急激な身長の伸びや、性徴の発達などが見られます。中年期は、身体的な変化が緩やかになりますが、体力や筋力の低下が始まり、代謝の低下や生理的な変化が現れることがあります。
- 社会的変化 青年期は、自己確立のための試行錯誤や、社会的な役割の発見が起こる時期であり、人生の方向性を模索する重要な時期となります。中年期は、家族やキャリアの面での安定を求める時期であり、自己実現や自分自身との向き合い方の見直しをする時期となります。
- 心理的変化 青年期は、自己のアイデンティティの確立や、自立心や自信の醸成が重要な課題です。一方、中年期は、自己肯定感を確立し、前向きな人生観を持ち続けることが重要です。また、子育てや家族との関係性の変化、自己の変化に対する受け入れが重要な課題となります。
以上が、中年期と青年期の相違点についての比較です。思秋期は、これらの要素が交錯する複雑な時期であり、自己の内面と向き合い、自己実現を求めるための新たな可能性を模索する時期でもあります。
・中年期の近親者の方が心身の不調を訴えたとき、周囲に期待される私的支援にはどのようなものがあるか考えてみよう
中年期の近親者が心身の不調を訴えた場合、周囲の人々が提供できる私的支援には以下のようなものが考えられます。
- 聴く耳を傾ける:まずは、不調を訴えた近親者の話を聴くことが大切です。相手が話したいことを黙って聴いて、共感や理解を示すことが、心の支えになります。
- 話し相手になる:不調を抱える人にとって、話し相手がいることは大切です。ストレスや悩みを共有することで、心の負担が軽減されることがあります。
- 家事や買い物などの手伝い:身体的な不調を抱える場合、家事や買い物などの日常生活のサポートが必要になることがあります。手伝いをすることで、相手の負担を軽くすることができます。
- 一緒に過ごす時間を作る:孤独感を感じやすい状況にある場合、一緒に過ごす時間を作ることが大切です。会話を楽しんだり、趣味を共有したりすることで、相手の気分が明るくなることがあります。
- 心のケアを提供する:不調を抱える人にとって、心のケアが必要になることがあります。リラックスできる環境を提供したり、ストレス解消のための方法を提供することが、心の健康をサポートすることにつながります。
これらの私的支援を提供することで、不調を抱える近親者の負担を軽減することができます。しかし、症状が続く場合は、専門家に相談することも大切です。