第14回 文化と進化

第14回 文化と進化

一般に文化と進化は相容れないものだと考えられる傾向にあるが、実際にはどちらか一方だけではヒトの行動や心のはたらきを十分に理解することはできない。第14回では文化と進化の関係について解説する。

【キーワード】
文化進化、ミーム、ナチュラル・ペダゴジー、遺伝子と文化の共進化


1.文化進化

(1)文化とは、

原始文化 – Wikipedia

「知識、信仰、芸術、道徳、習慣、その他社会の成員として人間が獲得するあらゆる能力や習慣を含む複合的な総体」

アテナイの学童 アテナイの学堂 – Wikipedia

 

 

 

La Scuola di Atene. D.R.

ダライ・ラマ – Wikipedia の教えも世界中の多くの人に共有されている。

 

社会学習(社会的学習 social learning)・・・社会的相互作用を介し個体の行動が変容する過程のこと。ミラーMiller,N.E.とダラードDollard,J.(1941)によって最初に導入された概念。当初は,模倣を対象とし,強化に基づく学習理論の枠組みでの研究が主であった。その後,認知的プロセスに関する研究が盛んになり,近年では,ミラーニューロンとの機能的関連をはじめ,神経科学との融合研究が広く進展している。観察個体の行動の変容が,行動の伝播の結果生じる場合と,知識の伝播の結果生じた場合とで大別される。一般に,観察される個体をモデル(あるいはデモンストレーター),観察する個体を観察個体と称する。

【行動の伝播】 モデルの行動を観察した個体が,即時的に相応する身体部位をもって同一の行動を示すことを模倣imitationという。模倣を行なうためには,モデルの身体とその動きに関する視覚的な入力情報を,自身の身体部位と対応づけたうえで,運動として出力する必要がある。この過程を視覚-運動マッチングという。

モデルと同一の行動が観察個体に形成される行動の伝播は,さまざまな場面に見られるが,模倣とは異なる過程によって説明される場合も多い。一つは社会的促進social facilitationである。社会的促進とは,他個体の存在が,観察個体のある種の行動の生起頻度ないしは動機づけを上昇させる過程である。これによって観察個体に,「結果として」,当該刺激に対するモデルと同一の行動が形成されることがある。局所促進local enhancement,刺激促進stimulus enhancementは,モデルの行動が向かう場所あるいは刺激に,観察個体の注意が喚起される過程である。これもまた社会的促進と同様に,結果として,観察個体にモデルと同じ行動が形成されることに寄与する。社会的促進や局所促進・刺激促進いずれの過程においても,観察個体の行動は,試行錯誤学習によって形成されており,モデルの行動自体の観察によって形成されたものではない。これら社会的促進や局所促進・刺激促進は,模倣と排他的関係にあるわけではない。模倣が生じるためには,これらの促進過程が寄与することは明らかである。

模倣と社会的促進や局所促進・刺激促進を実証的に分離するために用いられる実験手続きとして2反応法two action methodがある。ある一つの刺激に対し,二つの異なる行動いずれを用いても目標達成可能な状況を設け,観察個体がモデルと同じ行動を示すか否かを検証する手続きである。たとえば,ノブを押しても,引いても開けることができる扉に対し,モデルが一方だけの方法で扉を開けた場合,観察個体がモデルと同じ行動を示すかを調べる実験がある。観察個体が,初発の反応からモデルと同じ行動を示す場合には,模倣が支持される。一方,観察個体はノブに向かう行動を示すが,モデルと同じ行動を必ずしも示さない場合には,局所促進・刺激促進によって説明される。

【知識の伝播】 観察個体が,ある刺激へのモデルの行動とその結果を観察し,モデルの行動そのものではなく,それら因果関係を学習することを観察学習observational learning,observation learningという。観察学習は,観察個体がモデルと同一の行動を示すとは限らない点で模倣とは異なる。たとえば,ある刺激に対するモデルの行動が嫌悪的な結果をもたらした場合,これを観察学習した個体は,モデルと同一の行動をむしろ避けるようになる。観察学習は広義には,観察による学習全般を意味する社会的学習と同義の用語として使われることもあるが,本来はここに述べたように,他個体の行動とその結果を観察によって学習する過程を意味する。

モデルの行動とその結果を観察した個体が,モデルとは異なる行動(あるいは,完全には一致しない動作)によって,同じ結果を再現することをエミュレーションemulationという。ウッドWood,D.(1988)によって導入された概念であり,その後,トマセロTomasello,M.(1990)によってヒト以外の動物の観察学習にも適用されるようになった。エミュレーションは,刺激が行為者からどのように動かされたのかという,刺激に視点をおいた観察学習と解説されることもある。しかし,モデルが存在することなく,刺激が遠隔操作的に動かされ,ある結果をもたらすような,社会的に不自然な条件下では,観察学習はほとんど生じないとされる。これは,エミュレーションにおいて,観察個体が,単に刺激の動きとその結果だけを観察しているのではなく,それを引き起こす行為者としてのモデルの存在が必要であることを意味している。

【協力行動cooperative behavior】 共通の目標を達成するために複数の個体が参加し,行動することを協力行動という。得られる利益は複数の参加個体に配されるため,各個体は,他個体のために行動コストを払っている性質があることから,利他行動に含まれる概念である。双利行動ともよばれる。ヒト以外の動物を用いた実証研究においても,2個体が同時にヒモを引く行動の学習など,協力行動の学習が検証されている。協力行動の学習には,他個体と行動を協調させること,あるいはいかなる条件において,いずれの他個体と協力するかという点が重要になる。

利他行動を供する個体にとって即時的な利益がないものの,別の機会に当該の受け手個体から「お返しとして」利益を受けるような,継続的な相互の関係によって維持される協力を互恵的利他行動reciprocal altruismという。トリバースTrivers,R.L.(1971)によって提唱された社会生物学の概念であり,非血縁個体間の協力行動を説明するメカニズムとして,ヒト以外の動物においても広く用いられている。互恵的利他行動の形成には個体認識が不可欠である。また,利他行動に払ったコストと,時間的な遅延を伴って得られる見返り報酬の評価に関する心理・神経メカニズムは未解明である。 →教授学習
〔伊澤 栄一〕

(2)文化の複製子

遺伝子による進化・・・DNAのコピーが親から子に渡される。

文化の伝達を担う複製子はミーム(meme)と呼ばれる

ミームが3番目のレプリケーターにどのように上昇したか – LIFE-SHIFT (lifeshift.site)

(3)文化の進化

文化進化(cultural evolution)・・・ミームが社会の中に広がっていくプロセスののこと。

文化的進化とは? – こころの探検 (kokoronotanken.jp)

(4)文化進化の特徴

ミームの伝達は

水平伝達・・・同世代の間

斜行伝達・・・前世代の親以外の誰かからの伝達

等の伝達により遺伝伝達よりも早い進化が可能である。

2.文化を支える社会的認知

(1)動物の文化と社会学習

文化的なのはヒト以外の動物でも知られている。

刺激協調(stimulus enhancement)

局所協調(local enhancement)

エミュレーション(emulation)・・・やり方をそっくりそのまま模倣するのではなく、目的達成の手段を観察から学ぶ。

チンパンジーとヒトの幼児を対象に行われた社会学習実験で用いられた道具

(2)ナチュラル・ペダゴジー

ナチュラル・ペダゴジー(natural pedagogy)説・・・ヒトには高度な社会学習を可能にする傾向が備わっている。ヒトには教え・教えられる傾向が自然に備わっているという考え方。

語用論(pragmatics)・・・言語によるコミュニケーションがどのように実践されているのかを研究する。

第3回 対象(2)言語学から – LIFE-SHIFT (lifeshift.site)

意図明示・推論コミュニケーション(ostensive-inferential communication)・・・相手に対して特定の情報を伝えようとする情報意図だけではなく、自分は何かを伝えようとしているという伝達意図も同時にはたらていると考える。

(3)大型類人猿との比較

文化的知性仮説(cultural intelligence hypothesis)・・・ヒトには文化を学習するために自然淘汰により備わった能力があるという考え方。

3.遺伝子と文化の共進化

(1)人種=社会的構築物

世界中の文化のほとんどは、遺伝子の進化よりも速く変化する文化進化によるものだという考え方、遺伝子の差異に基づかない多様な文化が生まれたということです。

(2)文化が遺伝子の変化を促す

二重継承理論(dual inheritance theory)・・・

遺伝子と文化の共進化(gene-culture coevolution)・・・

(3)非適応的な文化ー人口転換

人口転換(demographic transition)・・・少子化の傾向

社会全体が裕福になり栄養状態は改善し、繁殖のためにも環境は良くなっている。しかし、繁殖に有利な環境で人々は子供を産まなくなる。


Prestige-biased cultural learning: bystander’s differential attention to potential models influences children’s learning
威信に偏った文化的学習:潜在的なモデルに対する傍観者の異なる注意は、子供の学習に影響を与えます
https://doi.org/10.1016/j.evolhumbehav.2011.05.005

累積的な文化的学習に対する私たちの種の能力の進化についての推論は、文化遺伝子共進化(CGC)理論家に、人間が文化的学習者のフィットネスを強力に高めるいくつかの学習バイアスを持つべきであると予測するように導きました。一方、発達心理学者は、幼児が実際に持っている学習バイアス(CGCをテストするのに熟した方法論)を調べるために実験手順を使用し始めています。ここでは、CGCによるプレステージバイアスの予測、つまり他の人が優先的に出席、学習、または延期した個人から学ぶ傾向の子供を対象とした最初の直接テストを報告します。私たちの最初の研究では、3歳と4歳の子供が、以前は傍観者が10秒間優先的に出席していた成人モデル(権威あるモデル)から学ぶ確率は、傍観者が無視したモデルから学ぶ確率の2倍以上であることが示されました。さらに、この効果はドメインに敏感であるように見えます:研究<>では、傍観者が人工物を使用して権威あるモデルを優先的に観察した場合、彼女はその後の人工物使用タスク(オッズがほぼ<>倍高い)でより頻繁に学習されましたが、食物嗜好タスクでは学習しませんでしたが、その逆は、食べ物の好みを表現する際に優先的に傍観者の注意を受けたモデルに当てはまりました。

The cultural evolution of fertility decline
出生率低下の文化的進化
https://dx.doi.org/10.1098/rstb.2015.0152

文化進化論者は、人口が発達するにつれて出生率が低下する理由の問題に長い間関心を持っていました。文化進化のモデルは、個人の意思決定、集団内の情報の流れ、グループ間の競争の間のもっともらしいメカニズムのリンクを概説することにより、出生率の移行の複数のレベルの説明を統合するための斬新で強力なアプローチを提供します。ただし、公開されているモデルはごくわずかです。彼らの仮定は、社会的行動に対する他の進化的アプローチの仮定とはしばしば異なりますが、彼らの経験的予測はしばしば類似しています。ここでは、人口動態の変化に関する文化進化研究の最初の概要を提供し、それを他の進化研究者がとったアプローチと批判的に比較し、ギャップと重複を特定し、人口統計学における並行した議論を強調します。私は、研究者が出生率低下の3つの異なる段階(低出生率の起源、広がり、維持)に労働を分割することを提案します。生殖の意思決定を支配する心理学の進化した側面と、出生率の低下を引き起こし持続させる社会的、生態学的、文化的不測の事態の両方を解明するには、比較、マルチレベル、および機械論的なフレームワークが不可欠です。

Natural pedagogy
自然教育学
https://doi.org/10.1016/j.tics.2009.01.005

私たちは、人間のコミュニケーションが伝達を可能にするように特別に適応されていることを提案します 個人間の一般的な知識の。私たちが呼ぶそのような通信システム 「自然教育学」は、認知的に不透明な迅速かつ効率的な社会的学習を可能にします 純粋に観察学習だけでは習得が難しい異文化知識 メカニズムのみ。私たちは、人間の乳児は受容的になる準備ができていると主張します 自然教育学の側面(i)を示す表向きの信号に敏感であることによる それらがコミュニケーションによって対処されていること、(ii)参照的期待を発展させることによって 表向きの文脈で、そして(iii)表面的な参照を解釈するために偏っていることによって 親切で一般化可能な情報を伝えるコミュニケーション。

Pocket
LINEで送る