第13回 心の発達の生物学的基礎
神経・生理心理学(’22)
Neuro- and Physiological Psychology (’22)
主任講師名:髙瀬 堅吉(中央大学教授)
【講義概要】
神経・生理心理学では、心の生物学的基礎についての学びを主題とします。講義では、知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きを担う脳の機能を中心に学びます。また、睡眠、生体リズム、遺伝子と行動、心の発達、心の病気についても、その生物学的基礎を紹介します。これらの知見に加えて、心の生物学的基礎を明らかにするための研究手法についても触れ、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。講義内容は、公認心理師試験出題基準(ブループリント)の項目を網羅し、臨床の現場に関連する話題も扱います。
【授業の目標】
神経・生理心理学の基礎的知見、考え方を身につけることを目標とします。具体的には、1)心の諸機能の生物学的基盤、特に神経系、内分泌系のつくりと働きを理解し、2)知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きが、神経系や内分泌系の働きによってどのように営まれているかを学びます。そして、1、2の知見を明らかにするための研究手法も学び、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。
【履修上の留意点】
心理学の概論的講義を履修済みであることが望ましいです。また、数学、物理学、化学、生物学の知識が受講者に備わっていると、講義の理解は容易になります。しかし、これらの予備知識については、放送授業や印刷教材で、そのつど説明します。
第13回 心の発達の生物学的基礎
心の発達は、その生物学的基礎である神経系、内分泌系の発達と深くかかわる現象です。これらの生体システムがどのように発達を遂げていくのかについて、生涯発達の観点から紹介します。
【キーワード】
発達、加齢、生涯発達の遺伝的基盤
生涯発達、受精、髄鞘化、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、リンパ型、神経型、生殖型、可塑性、臨界期、フェニールケトン尿症、老人病、神経原線維変化
次の①~④のうちから、幻肢痛に関わる神経細胞の可塑性として正しいものを一つ選べ。
① 変性
② 再生
③ 再構築 正解です。
④ 回復
フィードバック
正解は③です。
【解説/コメント】
脳は成体期になると4つの可塑性の原理、すなわち変性、再生、再構築、回復に従ってネットワークを変化させることがわかっています。再構築について、学習能力を調べる実験から哺乳類の脳は経験に応じて再構築されることが明らかにされています。また、再構築は障害後にも起きることがわかっています。例えば,一方の網膜に傷をつけた場合、網膜損傷部位に対応する一次視覚皮質は,網膜損傷部位の隣の部位の受容を行うようになっていました。ほかにも、腕の感覚神経を切断されたサルの一次体性感覚皮質では、顔の感覚を受容する領域が腕の感覚を受容する領域まで拡大したことが報告されています。人で、腕や脚を切断されたにも関わらず、切断された腕や脚が存在しているように感じ続ける幻肢と呼ばれる現象は、そのメカニズムが不明でしたが、近年、この現象は脳の再構築が原因の一端を担っていると考えられるようになっています。