第11回 睡眠・生体リズム

神経・生理心理学(’22)

Neuro- and Physiological Psychology (’22)

主任講師名:髙瀬 堅吉(中央大学教授)

【講義概要】
神経・生理心理学では、心の生物学的基礎についての学びを主題とします。講義では、知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きを担う脳の機能を中心に学びます。また、睡眠、生体リズム、遺伝子と行動、心の発達、心の病気についても、その生物学的基礎を紹介します。これらの知見に加えて、心の生物学的基礎を明らかにするための研究手法についても触れ、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。講義内容は、公認心理師試験出題基準(ブループリント)の項目を網羅し、臨床の現場に関連する話題も扱います。

【授業の目標】
神経・生理心理学の基礎的知見、考え方を身につけることを目標とします。具体的には、1)心の諸機能の生物学的基盤、特に神経系、内分泌系のつくりと働きを理解し、2)知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きが、神経系や内分泌系の働きによってどのように営まれているかを学びます。そして、1、2の知見を明らかにするための研究手法も学び、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。

【履修上の留意点】
心理学の概論的講義を履修済みであることが望ましいです。また、数学、物理学、化学、生物学の知識が受講者に備わっていると、講義の理解は容易になります。しかし、これらの予備知識については、放送授業や印刷教材で、そのつど説明します。

第11回 睡眠・生体リズム

睡眠は生存に必須の営みであり、心の健康の維持にも必要な機能です。講義では睡眠の生物学的基礎を学ぶとともに、睡眠のように周期性のある生体リズムについても紹介します。

【キーワード】
睡眠、サーカディアンリズム、脳波、事象関連電位

脳波、眼電図、筋電図、睡眠段階、レム睡眠、ノンレム睡眠、網様体賦活筋、睡眠過剰症ナルコレプシー、サーカディアンリズム、視交叉上核


睡眠段階 脳波、眼電図、筋電図

● 急速眼球運動(rapid eye movement)
REM睡眠時にみられる急速な眼球運動を指し、REM睡眠を判断する重要な要素である。REMという言葉は急速眼球運動の略からきている
● 睡眠紡錘波(すいみんぼうすいは)
ノンレム睡眠時の脳波に見られる12~14Hzの波で律動的に連続して出現し、それが紡錘の形に似ている脳波パターン。睡眠段階2の判定には睡眠紡錘波の出現が必須である。
● デルタ波
4Hz未満の周波数。睡眠中では深い睡眠時にみられる。

 

網様体賦活筋 脳幹にあるシステム

睡眠過剰症ナルコレプシー

入眠時幻覚

睡眠麻痺

セロトニン、コルチゾール、ヒスタミン、オレキシン

ベンゾジアゼピン系薬物
睡眠薬でよく聞くベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系って何が違うの?

IIIS 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構


深い睡眠が脳がアルツハイマー病の毒素を取り除くのにどのように役立つか

https://www.npr.org/sections/health-shots/2019/10/31/775068218/how-deep-sleep-may-help-the-brain-clear-alzheimers-toxins

https://jp.quora.com/%E9%A0%AD%E3%82%92%E3%83%95%E3%83%AB%E5%9B%9E%E8%BB%A2%E3%81%95%E3%81%9B%E3%81%9F%E5%BE%8C-%E8%84%B3%E3%82%92%E4%BC%91%E6%81%AF%E3%81%95%E3%81%9B%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%82%B9%E3%82%B9%E3%83%A1


次の①~④のうちから、δ(デルタ)波が50%以上を占める睡眠段階として正しいものを一つ選べ。

① 段階1
② 段階2
③ 段階3
④ 段階4 正解です。

【解説/コメント】
睡眠は、脳波によって下記の5段階に分けることができます。

● 段階1:入眠時のうとうとした状態で覚醒時に認められたα(アルファ)波やβ(ベータ)波は消失し、代わりに低振幅速波やθ(シータ)波が現れ、ゆっくりとした眼球運動(slow eye movement;SEM)が観察されます。

● 段階2:自覚的にも眠りに入った状態で睡眠紡錘波やK複合波が現れるのが特徴です。K複合波は聴覚刺激に反応して出現することが明らかにされています。また、段階2ではSEMは消失します。

● 段階3:中等度睡眠にあたります。かなり大きい刺激を与えないと起きず、デルタ波は20%~50%未満です。

● 段階4:深睡眠にあたり、δ(デルタ)波が50%以上を占めます。

● 段階レム(REM;rapid eye movement):レム睡眠は低振幅の脳波と素早い眼球運動が特徴です。また、この段階で起こすと夢を見ていたと報告することが多いです。

睡眠は全部で上記の5段階に分けられ、段階1から4をまとめてノンレム(non-REM)睡眠と呼びます。

次の①~④のうちから、24時間を周期とする生体リズムとして正しいものを一つ選べ。

① サーカディアンリズム 正解です。
② ウルトラディアンリズム
③ インフラディアンリズム
④ サーカセプタンリズム

フィードバック
正解は①です。

【解説/コメント】

24時間を周期とする生体リズムはサーカディアンリズム(circadian rhythm)と呼ばれます。このサーカディアンリズムを担う脳領域が視交叉上核です。視交叉上核は視交叉の直上で視床下部第三脳室底部にある一対の小さな神経核で、哺乳類動物における睡眠と行動、さらに内分泌等の生理的現象のサーカディアンリズムを支配する最高位中枢です。視交叉上核の概日時計は時計中枢としてほかの脳部位や末梢臓器に見られないリズム形成能力を持っています。これは、生体から取り出した切片培養下の視交叉上核が、外界からの調律刺激が無くとも何週間たっても概日振動を示すこと、さらには、生体で視交叉上核を周辺の脳組織から切り離すと、視交叉上核では神経活動のサーカディアンリズムが見られますが、切り離された脳組織では観察されないこと、そして、生体で視交叉上核を破壊するとサーカディアンリズムが失われますが、別の動物から採取した視交叉上核を移植するとサーカディアンリズムが回復することといった一連の実験から明らかになりました。
サーカディアンリズムより短い生体リズムをウルトラディアンリズム(ultradian rhythm)と呼び、サーカディアンリズムより長い生体リズムをインフラディアンリズム(infradian rhythm)と呼びます。さらに、週、月、年単位の生体リズムはそれぞれサーカセプタンリズム(circaseptan rhythm)(7±3日)、サーカトリジンタンリズム(circatrigintan rhythm)(30±7日)、サーカニュアルリズム(circannual rhythm)(1年±2月)と呼ばれています。


20240926追加

「眠れない」と悩む人に朗報…最新研究が明かす「眠っている自覚がなくても脳は回復している」事実

睡眠時間と日常生活のパフォーマンスや健康に相関関係はあるのか。浜松医科大学名誉教授の高田明和さんは「日本での生活習慣と寿命の関係を調べたある研究で、寿命を延ばす要因は『一日7時間以上の睡眠』と『一日1時間以上の歩行』、そして『生きがいを持つこと』の3つであると報告された。7時間以上の睡眠をとれず、一日4~6時間の短い睡眠時間でも、本人が睡眠不足だと感じていなければ問題ない。逆に、長い睡眠時間を必要とする人でも、それで日々の状態に問題がなければいい」という――。

※本稿は、高田明和『20歳若返る習慣』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

なぜ年をとると、夜になっても眠れないのか

若いときは誰でも、夜になれば当然のように眠くなるものです。

「布団に入ったらバタンキュー」だった若き日の記憶をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

夜にかぎらず、午後の授業中に眠くなり、つい机に突っ伏して眠ってしまって先生に叱られた経験のある方もいるかもしれません。

ところが不思議なことに、年をとるにつれて「眠い」という感覚が薄れてくるのです。夜、ベッドで横になっても、なぜか目が冴えてくる感じさえします。

「このままでは、朝まで眠れないのではないか」

そんな焦りから、不安が増していき、ますます眠れなくなります。毎晩、そんな辛い思いをしたくないし、放っておけば、不眠がきっかけでうつ病になってしまうこともあり得ます。

だから高齢になると、多くの人が入眠剤を用いるのです。今、入眠剤の需要はますます高まっているようですが、はたしてその対策は正しいことなのでしょうか?

睡眠薬の必要性については、のちに触れますが、基本、私は推奨してはいません。

そもそも私たちは、なぜ眠るのでしょうか?

「眠る」という習性があるのは、人間だけではありません。眠りの定義を広くとらえれば、「生きとし生けるものはすべて眠る」と言っても過言ではないでしょう。

たとえば「草木も眠る丑三つ時」という言葉がありますが、実際に、植物も眠ります。木の葉の表面には電流が流れています。これが夜と昼では異なる流れ方をしており、真夜中は電気活動が弱い。そのとき草木は眠っているのだ、と主張する研究者もいるのです。

ゴキブリに24時間光を当てると動かなくなる

では、動物はどうでしょうか? 昆虫類、魚類、カエルなどの両生類、ヘビなどの爬虫類は、一日のうちに、じっと動かなかったり、行動がゆっくりになったりする時間帯があります。

あるいはゴキブリに24時間光を当てて刺激し続けていると、動かなくなる時間が長くなることが知られています。

この現象は、人間に睡眠不足が続いたあと、それを解消するために長く眠ることに似ています。ただ、魚類や両生類は脳波を見るかぎり、睡眠の脳波はないといわれます。

睡眠中に、脳波に変化が現れるのは、哺乳類や鳥です。鳥は警戒心が旺盛で、睡眠の合間にある一定時間、「警戒睡眠」という状態になることがわかっています。

この警戒睡眠中、鳥は目を開け、脳波も起きているのと同じような状態になりますが、姿勢は眠っているときと同じです。

また、渡り鳥のなかには、片目だけをつぶって眠る鳥がいます。このときの脳波を調べると、目を閉じているほうの脳は睡眠の脳波を示し、開いているほうの脳は、覚醒の脳波を示します。

眠りは多くの動物の生存に欠かせない活動

では、あらためて動物はなぜ、眠るのでしょうか?

一つの可能性は、脳が活動するときに出る老廃物を取り除くため。

もう一つの可能性は、脳が活動する際に使った栄養素を補給するためです。

「可能性」としたのは、睡眠が生物にどのような効果をもたらしているのか、確かなことは、科学においていまだ判明していないからです。

ただ、睡眠が生き物に欠かせないものであることは、「眠らせないようにした動物がすべて死んでしまう」という研究結果から明らかに示されています。

現在は、倫理的にあり得ない実験ですが、20世紀のはじめごろ、フランスのアンリ・ピロリンは、犬を眠らせないようにしたらどうなるか断眠実験をしたのです。

すると、7日から10日の間に、実験の犬はすべて死んでしまいました。犬の脳に、特別な異常は見つかりませんでした。しかしほかの動物でも検証した結果、やはり眠らせないようにした動物はすべて死んでしまいました。

このことからも、眠りが多くの動物の生存に欠かせない活動であることは明らかです。

歴史的に拷問の方法として用いられた「断眠」

そして、人体による“検証”も、実は古くから行なわれています。

そもそも「断眠」は、歴史的に「拷問」の方法として用いられてきました。つまり、人は眠ることができない状態が長く続くと苦しくなり、また、意志が弱くなり、自白をさせやすくなることが知られていたのです。

昭和の時代のテレビドラマや映画などでは、警察署での取調べの際、朦朧となった容疑者が「眠らせてください!」と懇願する姿が描かれることもありました。

もちろん、人権上、そんなことが許されるわけがありませんが、戦前は行なわれていたそうです。ナチスも、断眠を拷問の手法に取り入れていました。

科学的な意味での最初の「断眠実験」は、1898年に行なわれています。

3人の男性が90時間、眠らないようにさせられたところ、集中力がなくなり、さまざまなテストの点数が悪くなり、幻覚に襲われるようになります。ところが、実験終了後、彼らは12時間眠ると、すべての症状はなくなりました。

眠っていると自覚していなくても、脳の一部はきちんと眠っている

1955年、ラジオ番組の司会者だったピーター・トリップという人物が生理学者と協力し、自らが被験者となる長時間「断眠の実験」をすることにしました。

彼はニューヨークのタイムズ・スクエアに立ち、のべつまくなし、不眠で話し続けます。トリップは200時間起きていたのですが、4日目ころから幻覚や妄想が出はじめ、次第にそれが激しくなりました。

このときの彼の脳波から、起きているにもかかわらず、ときどき2~3秒間続く睡眠波が測定されました。この現象は「マイクロスリープ(微小睡眠)」と名づけられ、この波の存在は、人間を完全に断眠させることは難しいことを示しています。

201時間の断眠を経験したトリップですが、実験を終えて、13時間眠ったあとは完全に回復し、幻覚などはまったくなくなりました。

また、ギネスブックに載っている断眠の世界記録保持者、英国のモーリン・ウェストン婦人は、1977年に449時間、つまり18日と17時間も眠らずにいました。彼女も幻覚を訴えましたが、その後10時間眠ると、完全に回復しています。

このことから、断眠によって体内から失われる物質や、逆に溜まる老廃物質があったとしても、約10時間の睡眠をとることで、脳の機能は回復すると考えられます。

そして最近の研究では、「私たちが眠っていると自覚していなくても、脳の一部はきちんと眠っている」ことがわかっています。

この「脳の一部が眠っている」状態のとき、脳に溜まった物質は分解されると考えられます。つまり、眠れない状態が続いていたとしても、私たちの脳内では「眠っている場合に行なわれる回復作業」が、ちゃんと行なわれているのです。

このことは、「眠れないこと」に悩む人にとって、朗報かもしれません。

110万人調査でわかった「睡眠と健康の相関関係」

睡眠についてもっとも興味を持たれている問いは、「寝不足の日は、仕事や勉強の効率が悪くなるのではないか?」というものと、「自分は4時間くらい眠れば十分なのだが、もっと眠らないと体に悪いのだろうか」というものです。

つまり、「眠れないこと」「睡眠時間が短いこと」が、日常の生活のパフォーマンスに与える影響を、みんな心配しているわけです。

日常生活に支障をきたすようであれば、「健康を害すのではないか」とか、「病気の原因にもなるのではないか」という心配にもつながってくるでしょう。

そこで2003年に発表された、睡眠時間に関する研究結果を紹介しましょう。アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校と日本の「対がん協会」が共同で行なったものです。

30〜104歳の約110万人を対象に、睡眠時間によって、どれくらい死亡率が変わるのかを調べるため、年齢や食習慣、運動、病歴、喫煙歴などの要因も考慮し、6年間にわたる追跡調査を行ない、睡眠時間が健康にどれくらい関わっているかを検証しました。

6〜7時間の人より8時間睡眠の方が死亡率が高い

検証の結果、理想とされる一日8時間睡眠の人の死亡率は、なんと6〜7時間の人よりも1割くらい高くなりました。さらに、8時間以上の人と5時間の人を比べると、8時間以上の人のほうが高い死亡率を示していたのです。

8時間以上の睡眠は、体に悪いのでしょうか?

この実験結果だけで安易に結論を出すのは危険であり、研究グループも「なぜ、長く眠る人たちの死亡率が高いのかわからない。6~7時間の睡眠で健康状態がよくなるのかどうか、これから研究したい」と述べています。

さらに、不眠で悩んだ経験のある人の死亡率を、不眠を経験したことのない人と比較したデータも紹介されています。その結果は、不眠の経験のある人の死亡率は、そうでない人とほとんど変わりなかったのです。

不眠で悩んだ人の多くは、実際の睡眠時間は当人たちが思うほど減ってはいませんでした。よって、不眠症だったわけでなく、多くはうつ状態であったと研究グループは指摘しています。

ただ、睡眠薬を飲んでいる人の死亡率が高かったことは指摘されています。睡眠の不足よりも、薬のほうが健康に悪影響を及ぼすことは、データ上から確かなようです。

寿命を延ばす3つの要因

日本での研究も紹介しましょう。1990年から97年にわたり、新潟大学が地方に住んでいる60~74歳までの440人の男性と625人の女性について、生活習慣と寿命の関係を調べました。

そして、寿命を延ばす要因は、「一日7時間以上の睡眠」「一日1時間以上の歩行」、そして「生きがいを持つこと」の3つであると報告したのです。

つまり、7時間くらいの睡眠がもっとも体によく、寿命を延ばすということ。8時間以上の場合はどうかという点を除けば、これはアメリカでの研究とも一致した結果といえます。

では、一日4~6時間の、短い睡眠の人は、どうしたらいいのでしょうか? その場合も、あまり気にする必要はありません。

実は「睡眠時間の短さが健康に悪影響をもたらした」とされた人は、仕事や家庭の事情で、もっと眠りたいけれども、短時間の睡眠を余儀なくされた人たちだったのです。

本来ならもっと長い睡眠時間が必要なのに、その時間がとれない自覚のある「慢性的な睡眠不足にあった人たち」ということです。

ですから短い睡眠時間でも、本人が睡眠不足だと感じていなければ問題ありません。逆に、長い睡眠時間を必要とする人でも、それで日々の状態に問題がなければ、いいのです。

7時間以上の睡眠が健康を害することは、現在は証明されていません。実際、アインシュタイン博士などは、10時間の睡眠を習慣にしていたのです。

ただ、長時間眠っても寝足りないと感じているケースや、先に述べたように、抗うつ剤や睡眠薬を飲んでいるために長く眠っている場合は、必ずしも健康的な睡眠とはいえません。

———- 高田 明和(たかだ・あきかず) 浜松医科大学名誉教授 医学博士 1935年、静岡県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。米国ロズウェルパーク記念研究所、ニューヨーク州立大学助教授、浜松医科大学教授を経て、同大学名誉教授。専門は生理学、血液学、脳科学。また、禅の分野にも造詣が深い。主な著書に『HSPと家族関係 「一人にして!」と叫ぶ心、「一人にしないで!」と叫ぶ心』(廣済堂出版)、『魂をゆさぶる禅の名言』(双葉社)、『自己肯定感をとりもどす!』『敏感すぎて苦しい・HSPがたちまち解決』(ともに三笠書房≪知的生きかた文庫≫)など多数ある。 ———-

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