第11回 判断と意思決定 -人間は合理的か-

知覚・認知心理学(’19)

Psychology of Perception and Cognition (’19)

主任講師名:石口 彰(お茶の水女子大学名誉教授)

【講義概要】
人間は「考える」能力を持っています。考える能力には、大切な事柄を記憶する、問題を解く、どちらが良いか判断する、旅行の計画を立てるなど、意識的に考える能力のほか、見る、聞く、驚くなど、無意識的に考える能力があります。この「考えること」が、広い意味での、認知機能なのです。知覚・認知心理学は、このような、「考えること」の科学です。この講義では、認知の低次過程といえる感覚・知覚等の無意識的な機能から、問題解決や判断・意思決定などのより高次で意識的な認知機能のしくみを解説します。

【授業の目標】
知覚・認知心理学は、実証科学の一員です。実証科学とは、実験を通して得られた事実(エビデンス)に基づいて、仮説やモデルを検証する科学です。この授業では、単に、人間の認知に関する現象や事実を体験し理解するだけでなく、それらの背後に潜む人間の認知のメカニズムを、いかに実証するか、その方法論も併せて理解することが、目標となります。

【履修上の留意点】
履修にあたって、予備知識は特に必要としませんが、高校の生物学の知識があると、理解がより深まると思います。ただし、実証科学の一員として、論理的な思考は、不可欠です。レポートを書くうえでも、論理的なストーリー展開が、求められます。

第11回 判断と意思決定
-人間は合理的か-

人間は、合理的に判断し、決定を下しているのであろうか。合理的というのは、判断が正しく、その決定は最大の利得をもたらすものである。今回は、まず、合理的な判断・意思決定としての期待効用理論を説明し、それと対比して、人間の意思決定の特徴とそれを説明する理論を紹介する。

【キーワード】
決定木、確率判断、価値判断、効用関数、期待効用理論、価値関数、プロスペクト理論


問題 5 次の①~④のうちから,正しいものを一つ選べ。

① 確率判断における利用可能性ヒューリスティックスとは,合理的な関係性を持つ出来事は出現する可能性が高い,と判断することである。
② ベイズ規則に則った信念更新とは,ある出来事の発生に関する客観的確率が,新たなデータをもとに,更新されることをいう。
③ 期待効用理論では,意思決定者の合理的な行動は,期待効用を最大化する行動であると規定する。 正解です。
④ 意思決定の代表的な規範理論として,現在のところ,カーネマンとトヴェルスキーの提唱したプロスペクト理論がある。

フィードバック 正解は③です。

【解説/コメント】

①印刷教材の第 11 章第 2 節をよく読んでください。利用可能性ヒューリスティックスとは,日常生活上で多く目に触れ,従って想起されやすい事例は,生起頻度が高く,従って発生確率が高いと判断される,一種の認知バイアスです。「合理的関係性を持つ出来事」とは,関係ありません。

②印刷教材の第 11 章第 2 節をよく読んでください。ベイズ規則に則った信念更新とは,ある出来事の発生に関する「主観的確率」が,新たなデータをもとに,更新されることをいいます。ベイズ規則では,ある信念や仮説に関する事前確率は,基本的には,主観的な確率として与えられます。

③よく理解しています。期待効用理論では,意思決定者の合理的な行動は,期待効用を最大化する行動であると規定します。印刷教材の決定木の例を参照して,日常経験を振り返り,「デートに誘う」vs「図書館で勉強する」の事例以外の例を考案し,各自,合理的な最良選択肢を求めてみましょう。

④印刷教材の第 11 章第 4 節をよく読んでください。現在のところ,意思決定の代表的な規範理論としては,期待効用理論があり,一方,意思決定の代表的な記述理論として,カーネマンとトヴェルスキーの提唱したプロスペクト理論があります。しかし,人間の行動を記述する「記述理論」も,理論的整合性が向上し,さらに,最適性の概念が再考されれば,「規範理論」となる可能性はあります。

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