第1回 社会心理学とは何か
社会・集団・家族心理学(’20)
Social, Group and Family Psychology (’20)
主任講師名:森 津太子(放送大学教授)
【講義概要】
人間は社会的動物であり、常に他者との関係性のなかで生きている。本講義では、社会的動物である人間が、社会を構成する他者からどのように影響を受け、またそうした社会をどのように認識しているのか。そして、集団としての行動は、個人の行動とどのように異なるのかについて解説する。さらに、もっとも身近な社会である家族の機能についても考えていく。
【授業の目標】
①対人関係並びに集団における人の意識及び行動についての心の過程を説明できる。
②人の態度及び行動についてさまざまな理論を用いて説明できる。
③家族、集団及び文化が個人に及ぼす影響について概説できる。
【履修上の留意点】
本科目を履修する前に『心理学概論(’18)』を履修していることが望ましい。
※この科目は、心理と教育コース開設科目ですが、社会と産業コースで共用科目となっています。
第1回 社会心理学とは何か
1.社会的動物としての人間
アリストテレス「人間は社会的動物である」
2.社会心理学という学問
(1)社会心理学の定義
ゴードン・オルポートは、「他社が実際に存在したり、想像の中で存在したり、あるいは存在することがほのめかされていることによって、個人の思考、感情、及び行動がどのように影響を受けるかを理解し説明する試み」(Allport,G,W.,1954)と社会心理学を定義した。
「心理学的社会心理学」が扱うのは「社会の中で生きる個人の心」であって、「社会の心」ではないのである。(唐沢,2012:唐沢・戸田山:2012)
「社会学的社会心理学」
クルト・レヴィン(Lewin,1939)は、人間の行動は人と環境の関数だと主張 社会心理学の定義、B=f(P・E)
テイラー(Taylor,1998)「個人の行動は環境、特に社会環境に強く影響を受ける」(社会→個人)と「個人は社会的状況を能動的に解釈する」(個人→社会)である。
エリオット・アロンソン ザ・ソーシャル・アニマル 人と世界を読み解く社会心理学への招待
(2)社会心理学の特徴
「ザ・シーシャル・アニマル(Social Animal:社会的動物)」(Aronson&Aronson,2018)
本書は、1972年の初版刊行から今日まで読み継がれる名著の新訳版です。この第11版では、社会心理学のエッセンスを解説する大枠はそのままに、最近の新しい研究知見や近年重要度の増したトピックの解説を盛り込み、事例として挙げるものには記憶に新しい事件や社会情勢、科学技術、文化、人物が追加されています。また、巻末に新設された「用語集」では、基本的用語の整理ができるよう配慮されています。社会心理学を学ぶ大学生はもちろん、人間社会に生きているすべての人にとっての必読の一冊です。目次 : 第1章 社会心理学とは何か/ 第2章 同調/ 第3章 マスコミ、宣伝、説得/ 第4章 社会的認知/ 第5章 自己正当化/ 第6章 人間の攻撃/ 第7章 偏
後知恵バイアス(Aronson&Aronson,2018)・・・・・ある事象が起こり、その帰結を知ってしまうと、その帰結は事前に予測できたものとして、自分の予測能力を過大に評価する認知の歪みのことである。
(3)社会心理学の研究範囲
3.社会心理学がもたらすもの
エビングハウス「心理学の過去は長いが歴史は短い」
トリプレット、社会的促進と呼ばれる現象(他社の存在によって課題の遂行が促進される現象 第10章)(Triplett,1898年)
「社会心理学(Social Psychology)」(McDougall&Ross.,1908)
社会心理学という学問分野に対して現在抱いているイメージを書き留めておこう。
第一章を読み終えた社会心理学のイメージは、普段人間は、社会の中で生活しているが、その日常には、個人、二者間、集団という範囲があり、それぞれが思考、感情、行動と環境を個人がどう感じるか、感じているのか。またその感じたものが、どのような形で、自分自身、対人間、集団(社会)へとその範囲は日常的には混ざり合いながら思考、感情、行動が現れる、その構造や仕組みを研究し明らかにしようとすることだと思った。
各回のテーマと授業内容
第1回 社会心理学とは何か 本科目の中核となるのは社会心理学という学問である。そこで初回の講義では、学問の定義、特徴、成り立ちなどを学習することを通じ、社会心理学の概略を掴み、今後、学習を進めていく上での基盤とする。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第2回 対人認知とステレオタイプ 私たちは日々、多くの他者と交流を重ねている。その際、相手をどのように認識するかは、円滑な社会生活を営んでいく上で極めて重要な問題であろう。しかし他者の印象は、その人物の特徴だけで決まるものでなく、むしろその相手を認知する側の様々な事情によって大きく左右される。なかでも認知者の既有知識は、対人認知に大きな影響を与える要因であり、ステレオタイプと呼ばれる特定のカテゴリー集団に対する知識は、対人認知を方向づける働きをする。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第3回 原因帰属と社会的推論 社会的推論とは、他者や自分、そしてそれを含む社会に関して私たちが行う推論の総称である。すでに取り上げた対人認知も、他者の内面にある感情や意図、パーソナリティ特性などを推測するという意味では、社会的推論の一部ということができる。ここでは、社会的推論のなかでも特に重要と考えられる原因帰属のプロセスと、私たちが社会的推論一般において、おかしやすいエラーやバイアスについて考えていく。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第4回 認知と感情 感情は、長らくの間、認知と対立し妨害するものとして捉えられてきた。しかし近年では、むしろ感情が認知とどのように相互作用するかに焦点を当てた研究が増えてきている。また感情は、無益なものではなく、むしろ人間にさまざまなシグナルを送り、生存を高める機能を持つものだという考え方も一般的になってきた。感情の生起に関する主要な理論と、認知との関わりについて概観するとともに、感情の働きや適応的価値についても考察する。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第5回 態度と説得 世論調査や街頭インタビューなど、私たちは日々の生活のなかで、しばしば態度を表明することが求められる。態度とは、人や事物、事象に対する評価反応であり、身の回りの多くのものに対して、私たちは何らかの態度を持っているのがふつうである。態度の構造や機能、説得に基づく態度変容、行動との一貫性など、態度にまつわる理論を概観する。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第6回 自己概念と自尊感情 「自己」は社会心理学において、重要なトピックである。それは、私たちは、自己というフィルターを通して社会環境を見ているからである。すなわち、私たちが社会をどのように認識するかは、認知の主体である自己がどのように構成され、またどのような動機を持っているかに依存している。自己概念と自己評価という、自己の2つの側面に焦点をあてながら、自己について考えていく。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第7回 自己過程 自己は静的ではなく、社会のなかで動的に構成されていくである。そこで、自己をプロセス(過程)としてとらえ、自己に注目したり、表出したり、制御したりする段階について考えていく。これらの段階は、再帰的に自己に影響を与え、それにより自己はまた変容をしていく。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第8回 対人関係 社会的動物である人間は、日々、他者との関係性のなかで生活をしている。私たちはどのような人に魅力を感じ、どのように関係を築いているのだろうか。また、対人関係は私たちの生活にどのような効用をもたらしているのだろうか。対人関係にまつわる社会心理学的事象について考える。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第9回 対人行動 私たちが他者に対して行う行動には、社会的に見て望ましいものと望ましくないものがある。ここでは、反社会的行動の代表である攻撃行動と、向社会的行動の代表である援助行動を取り上げ、これらの行動がいかに実行され、抑制されかを考える。また、より日常的な対人行動として対人コミュニケーションを取り上げ、それにまつわるトピックについて概説していく。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第10回 社会的影響と集団力学 他者はただ存在するだけでも、私たちの態度や行動に影響を与えるが、多数派や何らかの社会的勢力を持った他者はさらに大きな影響力を持つ。このように、私たちが他者から受ける影響を社会的影響という。また人が複数集まり集団を形成すると個々人の特性の総和というだけでは説明できないような力学が生まれることがある。社会的影響と集団力学についても概説する。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第11回 社会的葛藤 対人関係や集団間関係は、両者の利害が影響し合う相互依存状況であり、利害の対立によって様々な葛藤が生じる。このような対人間および集団間の社会的葛藤が、どのような利害の構造や動機に基づいて生じるものかについて考察する。また、会社などの組織で生じる葛藤を解決する手段の一つとして、リーダーシップに着目する。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第12回 家族という集団 ここから2回は、家族心理学について概説する。家族が社会心理学の研究対象として取り上げられることは、これまではまれであったが、家族も集団の一つの形態としてとらえるならば、家族にまつわる問題は社会心理学的な事象と考えることができるだろう。家族という集団の特殊性を踏まえたうえで、その機能と構造を検討し、家族心理学の特徴を概観する。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第13回 家族内の関係性 家族というシステムのなかには夫婦関係、親子関係といったサブシステムが存在する。ここでは、家族心理学や、それと関連が深い発達心理学、臨床心理学の知見を参照しつつ、社会心理学的な視点から夫婦関係、親子関係について考えていく。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第14回 心の文化差 社会心理学に限らず、心理学では、人間の心の働きは、国、文化によらず、普遍的だと考えてきた。しかし近年では、かなり本質的な部分で、東洋人と西洋人の心の働きが異なる可能性が指摘され、心の普遍性が疑問視されるようになってきた。このような疑問の根拠となる心の文化差についての研究を紹介しながら、文化と心の働きとの相互作用について考えていく。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |
第15回 社会心理学のこれから 社会心理学の特徴を改めて振り返るとともに、その将来的展望について、近年、注目される3つの研究アプローチを通じて考える。また、社会心理学がどのような「知」を私たちに提供するのかについても議論する。 【キーワード】 執筆担当講師名:森 津太子(放送大学教授) |