日本は「静かな退職」状態の社員が15%、クアルトリクス最新版調査
クアルトリクスは2023年2月17日、従業員エクスペリエンス(EX:Employee eXperience)トレンドの最新調査結果を発表した。仕事にやりがいを感じ自発的に取り組む「従業員エンゲージメント」は前年からわずかに向上した一方で、エンゲージメントが低く、最低限の仕事だけをして会社に居座る「静かな退職(Quiet Quitting)」状態の社員が15%いる、というショッキングな現状も浮き彫りになった。
日本の「継続勤務意向」もグローバル平均と同レベルまで低下
今回の調査結果は、日本を含む世界27カ国で正社員雇用されている18歳以上の就業者2万8808人(うち日本2014人)を対象に実施したグローバル調査(2022年8~11月)と、日本独自で4157人に実施した調査(2023年1月)の2つをベースに、従業員エンゲージメントや継続勤務意向、リモートワーク/オフィス勤務への意識などをまとめたもの。
自分の仕事にやりがいを感じ、誇りを持って自発的に仕事に取り組む「エンゲージしている従業員」の割合は、日本では40%となり、前年(2021年)の37%から3ポイント上昇している。一方、グローバル平均は67%だった(前年は66%)。
調査を解説したクアルトリクス ソリューションストラテジー シニアディレクターの市川幹人氏は、「現在の働き方に慣れてきた中で、仕切り直しながら働いているというイメージ」だと分析する。ちなみに、グローバルと比較して日本の従業員エンゲージメントは低いように見えるが、市川氏は「アンケートに対する回答のくせや国民性もあるので、数字そのままのギャップがあるとは見ないほうがよい」と述べた。
エンゲージメントを高める要因(ドライバー)について聞いた設問では、「自社の社会的貢献に対する誇り」「学び、成長する機会」「自社の製品・サービスの推奨意向」「自社の価値観に対する共感」「変革に対応するためのサポート」がトップ5となった。
継続勤務意向については、見逃せない変化が起きている。「終身雇用意識が根強く、転職が少ない」と言われる日本だが、今後3年間以上の継続勤務意向を持つ回答者は2020年から3年連続で低下(76%→70%→65%)。2年間では11ポイントものマイナスとなった。「グローバルと同じレベルになってきた」(市川氏)という。
日本の年齢別の内訳を見ると、継続勤務意向が低いのは「25~34歳」など若年層だ。市川氏は「日本の継続勤務意向は高いことが通常だったが、コロナ禍で働き方に対する価値観の変化があり、特に若年層において同じ企業にとどまる意欲が低下したのではないか」と推測する。
“オフィス回帰の利点”は本当か? エンゲージメント、パフォーマンス、連携とも低い
クアルトリクスでは、従業員エクスペリエンス分野における2023年の注目トピックとして「オフィス回帰」「静かな退職」「キャリア自律」の3つを挙げている。
オフィス回帰は、コロナ禍が一段落したことで2022年から世界的な動きとなっている。ロックダウンが厳しかった米国では、フルリモート勤務にしていたテック企業などが社員をオフィスに戻す動きを見せている。
市川氏は、オフィス回帰のメリットとして「学習の機会」「組織カルチャーの醸成」などが語られるが、それらは都市伝説に過ぎないと記した「Harvard Business Review」の見解を紹介しながら、「リモートワーク=悪」ではないと説明する。
実際に、オフィス回帰で「連携」「パフォーマンス」「エンゲージメント」のそれぞれが改善したかを調べたところ、「連携」と「パフォーマンス」が最も高かったのは週3~4日在宅勤務をする人、「エンゲージメント」は週1~2日在宅勤務の人が高かった。
たとえば「連携」については、「Slackのようなツールを活用して、つながっている人はちゃんとつながっている」(市川氏)。むしろ完全出社(毎日出社)している人のほうが平均して連携度は低く、孤立度が高い結果が見て取れる。
それでは人々がオフィス回帰に期待することは何なのか? 肯定的回答が最も多かったのが「人脈づくりや信頼関係の構築」で61%。一方で、オフィス回帰でよく言われるイノベーションのメリット(「従来とは異なる新しい発想の創出」「組織文化の醸成・強化」)については40~42%で、ほかと比べて「対面の必要性は弱い」と感じていることがわかった。
オフィス回帰の必要性を感じるかどうかに差が出る要因を、勤務形態(在宅か出社か)、パフォーマンス別、役職、人間関係別の4つから分析したところ、「パフォーマンスが高い人」や「上位の役職者」ほど対面の必要性を認める傾向が強いこともわかっている。
米国では若者、しかし日本では40~50代に多い「静かな退職」
注目トピックの2つ目が「静かな退職」だ。2022年の夏ごろから米国で急浮上したキーワードで、「必要以上に働かず最低限の仕事をこなす」姿勢の人を指す。「退職」という言葉が含まれるものの、会社を辞めるわけではないのがポイントだ。
市川氏は「まだ十分に分析されていないテーマだが」と前置きしながら、「働き方、生き方などに対する価値観が変わり、ワークライフバランス、ウェルビーイング、ダイバーシティ、個人の尊重といった考えも背景にありそうだ」と分析する。
今回の調査では、「自発的貢献意欲」が低いものの「継続勤務意向」が高い人を「静かな退職状態にある人」と分類した。米国では主に若者の間で広がった言葉だが、日本では40代、50代に多く、役職別では「一般社員(非管理職)」、人間関係は「孤立」しており、業績は「ローパフォーマー」に分類される人が多い。
より詳しく分析するべく、「退職準備人材」(「自発的貢献意欲」も「継続勤務意向」も低い人)との比較を行った。「新しいスキルや知識を身につけようとしている」「習得したスキルや知識をさらに深めようとしている」「将来のキャリアに関して具体的な目標を持っている」といった項目では退職準備人材のほうが大幅に肯定的回答率が高く、一方で静かな退職人材は「業務遂行に必要な権限を与えられている」「ワークライフバランスの維持」「個人として尊重されている」などが高かった。
さらに「コア人材」(「自発的貢献意欲」も「継続勤務意向」も高い人)との比較もまじえて、静かな退職状態にある人は「『キャリア自律』を考えず、権限・ワークライフバランス・個人の尊重などに甘んじている」「キャリア目標が達成できる職場、報酬、仕事に対する認知などがあまり効かない」と特徴をあぶりだした。「どうやったら静かな退職状態の人たちを変えられるのか、というヒントがなかなか得られない結果になっている」(市川氏)
「キャリア自律」はまだ「どう考えれば良いかわからない状態」
3つ目のトピックである「キャリア自律」とは、「各自が自らのキャリアについて責任を持って主体的に考え、自主的にキャリア形成に取り組むこと」と定義する。日本政府も近年さかんに言い出した言葉だ。
ここでの問題は「ロールモデルが見当たらず、自分のキャリアをどう考えれば良いかわからない状態」だと、市川氏は指摘する。今回の調査でも、「将来のキャリアに関して具体的な目標がある」と答えた人は26%、「キャリア上の目標とすべき人がいる」は24%と、いずれも低い結果となっている。
全体の傾向としては「入社間もない時期は学ぶ意欲があるが、長年たつと意欲が減っていく」というもの。昨今注目されているリスキリングについても「中堅からシニアに新しいことにチャレンジしてもらいたいというものだが、多くがその状態にはない」(市川氏)。そのため、まずはキャリア目標を持つところからスタートさせる必要があるとアドバイスした。