年金財政は「国民の犠牲」なくして成り立たない…日本社会に訪れる恐ろしい“これから”
老後2000万円問題で国会が紛糾したり、高校の授業でお金の勉強が始まったりした背景には、国が「国民を養えない」と感じているという現実があります。本記事では、スティーブ金山氏が著書『18歳になったら、必ず押さえておきたいFIRE黄金法則』(彩流社)にて紹介している「これからの日本経済が厳しい理由」10項目のうち3項目について解説していきます。
なぜ日本という国に頼っていては危ないのか
[図表1]我が国の高齢化の推移
老後2000万円問題で国会が紛糾したり、高校の授業でお金の勉強が始まったりする背景は、もう国が国民を養うことが不可能だと感じているからです。 だからこそ、あなたも、自分の身は自分で何とかしなくてはならないと自覚しなくてはなりません。そのためにも、まず現状をしっかりと理解しておく必要があります。
これから、いま世界で何が起こっていて、なぜ日本という国に頼っていては危ないのかをお話ししますが、パニックにならずに、冷静に、聞いてください。 これからの日本経済が厳しい理由として、次の10項目を挙げました。
【1】少子高齢化による生産年齢人口の減少
【2】高齢化と豊かさによる消費の減衰
【3】年金財政の歪さ
【4】高齢者の利益が優先される政治
【5】長引くデフレ
【6】資産の老朽化
【7】国債の対GDP比
【8】世界的なインフレによる資源価格高騰
【9】円安
【10】テクノロジーの進化による既存産業の崩壊
ひとつひとつ説明していきます。統計データが多くなるので、眠くなるかもしれませんし、あまりの不安の大きさに現実から目をそむけたくなるかもしれませんが、しっかりと向き合って、危機感を身体と心に沁み込ませてください。
【1】少子高齢化による生産年齢人口の減少
日本は、少子高齢化が叫ばれてずいぶんと経ちました。身のまわりにも、お年寄りが増えたと実感しているかもしれませんが、ではどのくらい進んでいるのでしょうか? 2017年に実施された国勢調査の結果集計([図表1])からは、次の傾向が明らかに見えています。
・全体的な人口が2005年をピークに下がり始めている(棒グラフ)
・65歳人口が増えている(棒グラフ)
・14歳以下人口も、15~64歳人口も減り始めている(棒グラフ)
・高齢化比率が急激に増えている(折れ線グラフ)
・生産年齢人口が減っている(折れ線グラフ)
なかでも注目すべきなのは、生産年齢人口が60%を切って、50%に向かっていることです。生産年齢人口は働ける年代の人たちです。50%というのは、世の中の半分の人たちで、残りの半分の人たちを養っているという状況です。
この生産年齢人口の減少は、国民の生産性が上がらない限りは、国の生産力、すなわちGDPの減少につながります。GDPが減少すれば、税収も減ります。後述する国債発行残高の返済を考えると、「国家破綻」という言葉が浮かんでくるほど、かなり厳しい未来が浮かんできます。
「雇用が不安定になり、収入が途絶える可能性」のワケ
[図表2]日本の人口ピラミッド(2020年推計値、2045年推計値) 出所:総務省統計局 統計ダッシュボード
【2】高齢化と豊かさによる消費の減衰
人口構成比がピラミッド型から崩れ、少子高齢化が進むと、消費力が減ります。10代、20代のあなたは、スマートフォンやゲーム機など、新しいバージョンが発表されれば、お金が許せば欲しいと思うのではないでしょうか。レトロな昭和時代の雰囲気を好む人も最近は増えていますが、一人暮らしを始めれば、新しい家具が欲しいと思うでしょうし、新しくて便利な家電を知れば、手に入れたくなります。
一方で、年齢が上になればなるほど、そういったものに興味が湧かなくなります。それまでの経験から、モノでは心は満たせないことを知るからかもしれませんし、結婚してしまうと、異性に認めてもらおうというモチベーションが消えるからというのもあるでしょう。
[図表2]は、2015年の国勢調査の結果、総務省統計局が発表している統計ダッシュボードによる人口ピラミッドです。比較しやすいように、2020年と2045年の推計値を並べてみました。
2つのグラフを比較すると、明らかに消費欲が旺盛な年代の人数が減っていることがわかります。比較対象が25年後というのは、これまであなたが生きてきた年数と同じかそれ以上の年数が経過した未来となり、想像するのは難しいかもしれません。
しかし、もしあなたが結婚して子どもを育てる未来を少しでも考えているのであれば、この頃がもっとも出費が多くなり、より多くの収入が必要になる時期です。
いまですら、消費力が旺盛な年代の人数が減っているために、モノが売れない現象が起きています。モノが売れない、客が来ないということは、会社はヒトを雇用することに消極的になりますし、給料もそれほど払えません。
日本が失われた20年間と呼ばれる1990年以降、デフレに陥り、正社員が減り、非正規雇用者の率が急増したのは、消費が旺盛な人たちの人口が減ったからです。
そして、給料が上がらず、待遇が低くなると、ますます消費力は衰え、会社はますます渋くなり…悪循環に嵌ってきました。
先の人口ピラミッドは、この状態がますます続くことを予感させます。
ところで、モノが売れなくなっているのは、若者の数が減っているからだけではありません。世の中が豊かになったために、若者の物欲が減っていることも一因です。
ヒトは、豊かになり満ち足りていると、新たに欲しいと思うものがなくなってきます。さらには、高級車と言われているポルシェやBMWであっても、地方でさえも目にしない日がほとんどない状態では、当たり前の存在となり、憧れて欲しいと思うことは減っているでしょう。
このようにして、この先の日本における消費はますます先細り、雇用が不安定になり、収入が増えるどころか途絶える可能性がますます高まっていく、そんな未来が見えています。
年金財政、「民間がやったら詐欺」だが…
[図表3]市場運用開始後の累積収益額(2001年度~2021年度第3四半期) (出所)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
【3】年金財政のいびつさ
高齢化により生産年齢人口が50%に近くなるということは、世の中の半分の人たちが、残りの半分の人たちを養っているという状況になると前述しました。それがまさに年金財政に反映されます。
年金というのは、支給額の70%は、後から入った人たちの支出から充当されています。これは、ポンジスキームとまったく同じしくみです。 ポンジスキームは、詐欺の手法のひとつとして有名です。民間がやったら犯罪ですが、おかしなことに国なら許されるようです。それどころか、年金を支払わない(納付しない)という選択肢がなく、強制加入であり、長期間未納が続くと強制徴収により財産差し押さえになります。
年金支給額の20%は税金からの歳出で、残りの10%を年金積立金(年金財源)からの支出でまかなっています。その年金財源も、2051年には国民年金の積立金、55年には厚生年金の積立金が枯渇する可能性があるとの試算を日本総合研究所の主席研究員である西沢和彦氏と、中田大悟創価大学准教授が示したと、2018年10月5日付けの日経ビジネス電子版に書かれています。 ただし、その年金積立金の総額は、株式市場による運用によって増えてはいます。
[図表3]のように2001年の運用開始から100兆円まで増やしているという結果が発表されています。しかし、これはまやかしです。図をみるとリーマンショック以降増えていて、特に2012年と2020年に伸び率が上がっています。
このグッと上がっている時期は、黒田バズーカに代表される、日銀の量的緩和の影響です。日銀は量的緩和を行い、日銀が年金の株式運用先である日経平均のETFを大量に買い入れている時期と合致します。
国がお金を刷って、日本企業の株式を購入し、それによって株価が上がっているため、本来の企業価値が反映された株価ではありません。
そのまやかしの株価で年金財政が保有している株式の価値を換算したら、100兆円になったというだけの話です。
さらに、平均年齢が男女とも10歳以上延びると予測されていることから、年金支給開始年齢も現状の65歳から70歳に変わろうとしています。
契約期間中に支払開始時期を遅らせるというのは、民間では、重大な契約違反です。 しかし、これも国がやると許されるようで、実際に過去60歳からの支給開始が65歳に延長されています。これが70歳になるということは、そのうち75歳、80歳と繰上されていくだろうと考えるほうが自然です。
そして、年金支給開始が遅くなる分、政府は企業に定年を延ばすように要請しています。
しかし、これからの企業がその受け皿になることは、まずないでしょう。 つまり、あなたが年金を受け取るのは、ずっと先になるということですし、それまでの間、あなたは収入源がまったくない数十年を過ごすかもしれないということです。しかも、寿命が延びているといっても、あくまでも平均寿命の話です。
「年金受給前に亡くなる可能性」…受け取れたとしても「年金だけでの生活は厳しい」
[図表4]年金の所得代替率も徐々に低下 (出所)NIKKEI STYLE 2018/6/24
最近の70歳はまだまだ若い人たちが多いのも事実ですが、2020年、2021年にお亡くなりになった著名人の享年を見てください。
・古賀稔彦さん 53歳 がん(1992年バルセロナ五輪の柔道金メダリスト)
・田村正和さん 77歳 心不全(俳優)
・チャーリー浜さん 78歳 誤嚥性肺炎(吉本興業芸人)
・和田圭さん 68歳 急性心不全(元フジテレビ解説員、アナウンサー)
・中西宏明さん 75歳 リンパ腫(経団連の前会長、日立製作所元会長)
・大島康徳さん 70歳 大腸がん(元プロ野球選手)
・中村吉右衛門さん 77歳 心不全(歌舞伎俳優、人間国宝)
・沢木和也さん 54歳 食道と下咽頭がん(AV俳優)
・梓みちよさん 76歳 孤独死(歌手)
・志村けんさん 70歳 コロナ(コメディアン)
・岡江久美子さん 63歳 コロナ(女優)
・山本寛斎さん 76歳 白血病(ファッションデザイナー)
・志賀廣太郎さん 71歳 誤嚥性肺炎(俳優)
・渡哲也さん 78歳 肺炎(俳優)
・宅八郎さん 57歳 小脳出血(オタク評論家)
・岸部四郎さん 71歳 急性心不全(タレント)
・斎藤洋介さん 69歳 がん(俳優)
・小松政夫さん 78歳 肝細胞がん(コメディアン)
・林家こん平さん 77歳 誤嚥性肺炎(落語家)
・羽田雄一郎さん 53歳 コロナ(政治家)
著名人は、日本全体から見れば極めて少ない人数です。しかし著名人だけでも、このように年金をもらう前に亡くなる人や、数年しか受け取らずに亡くなる人がたくさんいるのです。
70歳が年金支給開始年齢になるということは、あなたは年金をほとんど受け取らないにもかかわらず、毎月お金を支払わなくてはならないことを意味します(もし、あなたが亡くなったあとに遺族がいれば、残された人が遺族年金をもらえることになりますが、受け取るのはあなたではないことは確かです)。
そして、運良く年金を受け取れるようになったとしても、その金額だけで生活していくのは、ますます難しくなっています。
[図表4]は、年金の所得代替率の推移です。所得代替率とは、年金を受け取り始める時点における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示すものです。
この図を見る限り、受け取れる年金の金額だけで生活するのは厳しいと言わざるを得ません。
以上のように、年金財政は国民の犠牲のもと、ますます厳しくなっていき、あなたを含めた現役世代の負担はますます増えるにもかかわらず、いつまでも受け取ることができず、受け取れたとしても、それだけでは生活ができない、という厳しいものになっています。
運良く支給が開始されたいまの高齢者たちの多くも、ある程度の資産がないと、生活はけっして楽とは言えず、死ぬまで貧困にあえぐことになります。
スティーブ 金山 ゴールデン・グース合同会社 代表 機会投資家