増える帯状疱疹 50代以上はワクチンも検討を

新型コロナウイルス禍で注目を集めるワクチンだが、50代以降の人が受けておきたいのが帯状疱疹ワクチンだ。帯状疱疹は発症すると数カ月間、夜も眠れない痛みにさいなまれたり、治癒後も痛みの後遺症が残ったりすることがある。

80歳までに約3人に1人がかかるといわれる帯状疱疹。顔や体の片側に激しい痛みが起きた後、痛みを伴う発疹や水ぶくれが帯状に出る。

原因は多くの人が子供のころにかかった水疱瘡(ぼうそう)だ。この病気を引き起こす「水痘・帯状疱疹ウイルス」は、水疱瘡自体が治った後も脊髄などの神経節に潜んで生き続ける。国立感染症研究所の調査では、日本の成人の90%以上は体内にこのウイルスをもつ。

加齢で高まる発症率

「加齢や疲労などで免疫力が低下すると、神経節中のウイルスが急激に活動を始め、増殖し発症する」と愛知医科大学皮膚科の渡辺大輔教授は説明する。宮崎県の大規模疫学調査(宮崎研究)によると、発症率は50代以降急激に増え、40代までは年に1000人に3人程度であるのに対し、50代ではそれが約6人に、70代では10人を超える。

今、この帯状疱疹が急増している。高齢化の進展や2014年に水痘ワクチンが小児対象に定期接種化されたことなどが原因だ。宮崎研究では帯状疱疹の発症率は14年に1997年比約4割増、2018年には同約6割増だった。「それまでは水疱瘡感染者からのウイルスに晒(さら)されて帯状疱疹への免疫が自然に強化されていた。定期接種の効果による感染者の減少でその機会が減り、ブースター効果が得られなくなった」(渡辺教授)

帯状疱疹では夜も眠れないほど強い痛みを経験する人もいる。特に怖いのは顔面に症状が出た場合で、顔面神経麻痺や難聴、めまい、目の周りでは角膜炎などを起こし、まれに失明することもある。

さらに「50歳以上で帯状疱疹にかかった人の約2割が3カ月以上痛みが続く帯状疱疹後神経痛になる。最初に強い痛みがある人ほど帯状疱疹後神経痛になりやすい傾向がある」と順天堂大学麻酔科学・ペインクリニック講座の井関雅子教授は指摘する。

帯状疱疹を早く治すには早期発見と早期治療がカギ。気づかずに治療が遅れると重症化を招く。「通常抗ウイルス薬と痛み止めを組み合わせた治療を行うが、抗ウイルス薬は早く使うほど効果が出やすい。皮膚症状が出て3日以内が望ましく、遅くとも5日以内に服用する必要がある」と岩手医科大学皮膚科学講座の天野博雄教授は話す。

別の病気と間違えてしまうケースも

帯状疱疹の症状の特徴は急に体の片側に痛みや発疹が出ること。症状があればすぐに皮膚科を受診したい。「脇腹などに痛みが出ると、肋間神経痛と勘違いして湿布薬を貼る人が少なくない。効果がないばかりか、痛みが増したり、かぶれと見分けるのが難しくなったりするので避けてほしい」(天野教授)

痛みをがまんしないことも大切だ。「痛みで眠れないと免疫が落ちて悪化を招く。さらに痛みを感じやすくなり悪循環になる」(井関教授)ためだ。「強い痛みが1~2週間続くならペインクリニックを受診し、神経障害性疼痛用の薬や神経ブロックなどの痛み専門の医療を早めに受けるのがいい」(同)

ワクチン接種も検討してみる

帯状疱疹の予防や重症化、後遺症を防ぐためにも有効なのが帯状疱疹ワクチンだ。自身もワクチン接種を受けたという渡辺教授は「患者さんの苦しむ姿を見て、ワクチンを受けない理由はなかった」。

現在、従来の弱毒化した生ワクチンと20年に発売された不活化ワクチンの2種類がある。不活化ワクチンは生ワクチンに比べやや副反応が出やすく、2回の接種が必要で高額だ。一方で抑制効果が高く、免疫が落ちた人でも使える。

(ライター 武田 京子)

Pocket
LINEで送る