第5回 心理検査によるアセスメント(2)-質問紙法
心理的アセスメント(’20)
Psychological Assessment (’20)
主任講師名:森田 美弥子(中部大学教授)、永田 雅子(名古屋大学教授)
【講義概要】
心理的アセスメントとは何をすることなのか? 心理的支援実践においてアセスメントは必須の行為である。クライエントがどういう人であるのか、どのような問題を抱えているのか、といったことを把握しないことには支援の方針計画をたてようがない。では、具体的にどのような方法があるのか、そこで何に留意するとよいのか概説する。
【授業の目標】
本講義を通じて、心理支援における心理的アセスメントの基礎知識を得ることを目標とする。
第5回 心理検査によるアセスメント(2)-質問紙法
質問紙法検査には、本人自身や周囲の人がとらえるパーソナリティ特徴や気分状態などが反映される。ここでは代表的な質問紙法とその理論的背景を紹介する。
【キーワード】
質問紙法、TEG、YG、MMPI
はじめに
基礎
(1) 質問紙法
(2) 信頼性・妥当性・標準化
(3) 質問紙の実物例
(4) 歴史と理論
(5) 分類
代表的な質問紙
(1) 新版TEGII(新版・東大式エゴグラムver.II)
(2) YG性格検査(矢田部ギルフォード性格検査)
(3) MMPI(ミネソタ多面的人格目録)
背景を学ぶことと責任
(1) どうして<<それ>>を選ぶのか
(2) 質問紙の作成と維持
(3) 結果を<<どのように>>理解するか
(4) 実施する文脈
質問紙とこれから
問題 5 次の①~④の文章のうちから,誤っているものを一つ選べ。
① 質問紙の基準は,一定の期間を経たら改訂されることが望ましい。
② 質問紙で設定されたカットオフ値とは,検査結果全体を理解するための一つの基準である。
③ 質問紙 AQ(自閉症スペクトラム指数)における偽陰性とは,ASD(自閉スペクトラム症)ではないのに ASD である,と判断してしまうことである。
④ 質問紙を実施した機関・場所や,実施の文脈を踏まえて解釈を行う必要がある。
①は正しい記述です。時代の変化でライフスタイルなども変化し,平均などの基準が変わるかもしれないので,いつ改訂(再標準化など)がなされたかなどには,目を向けておくべきです。知能検査などは現在,十数年で次のバージョンへと変わります。
②は正しい記述です。スクリーニングを主たる目的とした質問紙ではカットオフ値が慎重に設定されていますが,カットオフ値だけで結果を理解するわけではありません。カットオフ値の意味を冷静に捉えられるようにしておきましょう。
③これが「誤っているもの」です。設問の記述は偽陽性のことを言っています。AQの場合の偽陰性とは,ASDであるのにASDではない,と判断してしまうことです。統計的手法によってもたらされた捉え方をしっかり学んでおきましょう。
④は正しい記述です。印刷教材ではAQを取り上げてこれを論じています。投映法や発達検査でも同じです。病院で実施したか,学校で実施したかで雰囲気は変わります。被検者の機嫌や状態像やモチベーションも,結果を理解する時に考慮すべき文脈となります。印刷教材の第5章を参照して理解を深めてください。
フィードバック 正解は③です。
問題 6 次の①~④の文章のうちから,誤っているものを一つ選べ。
① 質問紙は,信頼性と妥当性の検証,および標準化の作業がなされているかが重要となる。
② 各質問紙がどのように作られたかを理解するためには,統計学の知識を必要とする。
③ 質問紙の項目数は,多ければ多い方がよい。
④ 妥当性尺度は一般に,被検者の回答態度を捉えるものである。
①は正しい記述です。必ずではありませんが,こうした作業を経ていない質問紙は実施と解釈が困難になります。また,こうした作業が実際にどのようになされたかも理解しておくべきでしょう。
②は正しい記述です。平均や標準偏差や相関係数などから,検定方法や分析手法も理解していなければ,個々の質問紙を理解することはできません。質問紙といっても質は様々であるため,皆さん自身がその質を判断できる必要があります。
③これが「誤っているもの」です。項目数が多いことは多面的な理解や詳細な理解につながる可能性を持ちますが,一概にそうとは言えません。被検者の負担を増やすだけになる時もあります。したがって,複数の質問紙を同時に実施する時も注意が必要です。
④は正しい記述です。妥当性尺度も質問紙によって意味が異なりますが,被検者の回答態度を捉えることは共通しています。したがって,妥当性尺度の得点が一定の範囲に入ると,検査結果の判断を保留する時があります。印刷教材の第5章を参照して理解を深めてください。
フィードバック 正解は③です。
質問紙法(読み)しつもんしほう(英語表記)questionnaire method
最新 心理学事典「質問紙法」の解説
結果の解釈は,まず妥当性尺度の各得点を検討し,プロフィール全体のパターンの解釈を行なう。そして,各種臨床尺度についてその高低を検討していく。MMPIは質問項目数が多く,回答に時間を要するが,得られる情報は多岐にわたる。とくに海外ではその評価も確立されているが,それに比べると日本においては,研究・臨床場面での利用に関して,さらに検討を進めていくことが期待される。
【エゴグラムegogram】 1950年代にバーンBerne,E.によって提唱された心理学理論に,交流分析transactional analysisがある。日本では,バーンの著書を南博が翻訳した『人生ゲーム入門』(1967)によって広く知られることとなった。交流分析では人びとが全員,三つの自我状態を有していると考える。第1にP(parent)であり,これは幼いころに親から教わった態度や行動が全面に出る,親の自我状態とされる。第2にA(adult)であり,これは事実に基づいて判断しようとする成人の自我状態であるとされる。そして第3にC(child)であり,これは本能や感情が全面に出るような,子どもの自我状態であるとされる。親の自我状態にある人は,親であるかのように行なうべき事柄に従って行動したり感じたりする傾向にある。また,成人の自我状態にある人は,周囲の出来事に対して適切な資源を利用しながら考え,行動する傾向にある。そして子どもの自我状態にある人は,あたかも自分が子どものときに感じたように欲求に従って考え,行動する傾向にあるとされる。PとCについては,さらに2種類に分けられる。Pは,父親をイメージさせるような他者に命令したり支配したり,禁止や許可を与えるといった自我状態を表わすCP(critical parent)と,母親をイメージさせるような一時的欲求の充足にかかわる養育的な志向性をもつ自我状態であるNP(nurturing parent)に分けられる。またCは,自由で制約を受けない自我状態を意味するFC(free child)と,両親の期待に応えようとするかのようにステレオタイプ的で順応的な自我状態を表わすAC(adapted child)に分けられる。これら五つの自我状態に代表的な行動は,次のようになるとされる。CPでは,「……すべきだ」「……するのが当然だ」などのことば,しかめ面や腰に手をやるジェスチャー,大声で威圧的な声の調子などである。NPでは,慰めたり元気づけたりすることば,握手や腕を広げるといったジェスチャー,温かみのある声の調子などである。Aでは,直接的で冷静なことば,その場に応じて適切な声の調子を取ることである。FCでは,元気で無邪気,感情的な声の調子である。そしてACでは,元気がなく,相手の機嫌をうかがうような声の調子である。
エゴグラムは,このような自我状態を測定するために開発された質問紙検査である。エゴグラムを最初に考案したのはデュセイDusay,J.M.であるが,そのエゴグラムは単に自我状態を直感的にグラフに描くというものであった。そこで,1979年にハイヤーHeyer,N.R.が質問紙法によるエゴグラムを開発・発表した。日本においても,1970年代に質問紙法によるエゴグラムが開発されており,これまでに10種類以上のものが存在する。現在最もよく使用されるエゴグラムは,1984年に発表された東大式エゴグラムTokyo University Egogram(TEG)である。TEGはそれまでに発表されていたエゴグラムの統計上の問題点や妥当性の問題をクリアすべく開発されたものであり,広く用いられてきた。しかし,種々の問題点が明らかになってきたことから10項目余りを刷新し,1993年に発表されたのがTEG第2版である。その後,さらに多数のサンプルとより妥当な統計処理手法の応用などによって,東京大学心療内科TEG研究会によって,1999年に新版TEGが発表された。2006年には,さらにこの新版TEGを改定した,新版TEG Ⅱも発表されている。
新版TEGでは,五つの尺度それぞれ20項目を作成し,項目の取捨選択を行なった。項目の選択の際には,ある下位尺度に含まれる質問項目と,残りの質問項目との相関が低いものを削除していく手法が取られている。これはいわば,内的整合性internal consistencyを高めようとする項目の選択方法だといえる。さらに,構造方程式モデリングstructural equation modelingによって構造が検討されている。新版TEG Ⅱでは,項目を入れ替え,逆転項目reversed itemをなくす形で改訂が行なわれている。TEGには妥当性尺度も設定されており,新版TEGでは5項目,新版TEG Ⅱではそのうち逆転項目を除いた3項目(L尺度とされる)が用意されている。新版TEG ⅡにおけるL尺度は,虚偽を検出するためのものというよりは,low frequency scale,すなわちよく考えずにでたらめな回答をする程度を測定するものである。また,「どちらでもない」という回答を行なった回数を数える疑問尺度(Q尺度)も算出する。この得点が高い者は,決断力に乏しく優柔不断であると解釈される。新版TEG Ⅱでは,得点を採点後,男女別に標準化した点数に換算し,エゴグラム・プロフィール表に棒グラフを描く。
TEGの解釈は,五つの各尺度の得点の高低に基づいて行なう。それぞれの尺度が高い場合にも,プラス面とマイナス面の両方が解釈される。たとえば,CPが高い場合,プラス面は理想追求的で規律を守る,マイナス面はあら捜しが多く威圧的であるとされる。NPが高い場合,プラス面は世話好きで思いやりがある,マイナス面は過干渉で過保護である。Aが高い場合,プラス面は理性的で客観的,マイナス面は打算的で冷徹である。FCが高い場合,プラス面は自由奔放で創造的,マイナス面はわがままで衝動的である。そしてACが高い場合,プラス面は従順で自己犠牲的,マイナス面は自主性がなく遠慮がちであるとされる。これらの高低について,五つの組み合わせを全体的に解釈していく。
【ビッグ・ファイブ(性格の5大因子)検査】 人間の性格にはいくつの特性次元があるのかという問題は,オルポートAllport,G.W.とオドバートOdbert,H.S.が行なった辞書から性格特性用語を抽出する研究にまでさかのぼることができる。その後,多くの研究者がこの問題に取り組んだが,近年最も多くの研究者に同意が得られているのは,ビッグ・ファイブBig Fiveや5因子モデルFive Factor Modelとよばれる,人間の性格特性が大きく五つの次元から成るという考え方である。なお,ビッグ・ファイブは辞書的に抽出された語彙を統計的に縮約することにより五つの次元を見いだしたものであり,5因子モデルは多くの研究で見いだされた質問項目の次元をまとめることにより,結果的に五つの次元を見いだしていったものである。ビッグ・ファイブの五つの性格次元は,神経症傾向neuroticism(情緒不安定性,あるいは方向を逆転させることによる情緒安定性;N),外向性extraversion(E),経験への開放性openness to experience(開放性もしくは知性とよばれることもある;O),調和性(協調性)agreeableness(A),誠実性(勤勉性)conscientiousness(C)である。ビッグ・ファイブ検査の代表的なものを以下に記す。
NEO-PI-R(revised NEO personality inventory)は,コスタCosta,P.T.,Jr.とマックレーMcCrae,R.R.が開発した検査で,1985年に神経症傾向,外向性,開放性の三つの特性次元を測定するNEO-PIを,1989年には調和性と誠実性を加えたNEO-PI-Rを発表している。この検査は240項目で構成されており,ビッグ・ファイブの5特性とともに,各特性につき六つ,計30のファセットとよばれる下位特性をもつ点に特徴がある(表2)。なお,英語版には自己評定式と他者評定式の2種類が存在するが,日本語化されているのは自己評定式の尺度だけである。なお日本語化は,下仲順子らによって1992年に始められた。オリジナルの項目と日本語版が対応するよう忠実に翻訳し,18歳から87歳を対象としたデータから標準化を行なった。
NEO-FFI(NEO five factor inventory)はNEO-PI-Rの短縮版で,五つの性格次元がそれぞれ12項目,計60項目で構成されている。なお海外では,NEO-PI-3の標準化の準備が進められている。日本語版のNEO-FFIは,日本語版NEO-PI-Rから項目を抽出することで構成されている。妥当性を測定するために,回答用紙の下に簡単なチェック項目が三つ用意されている。両尺度とも,回答から素点を算出した後でT得点に換算し,プロフィール記入用紙に得点を描く。解釈は,プロフィールを参考にしながら行なう。
5因子性格検査five factor personality questionnaire(FFPQ)は,1998年に辻平治郎を中心としたFFPQ研究会によって発表された検査で,2002年には改訂版が公表されている。FFPQもビッグ・ファイブの五つの性格特性を測定するが,外向性,愛着性(調和性に相当),統制性(誠実性に相当),情動性(神経症傾向に相当),遊戯性(開放性に相当)という名称になっている。さらにこれら五つの因子(超特性とよばれる)の下位に,五つの要素特性が位置する。外向性の下位には活動,支配,群居,興奮追求,注意獲得が,愛着性の下位には温厚,協調,信頼,共感,他者尊重が,統制性の下位には几帳面,執着,責任感,自己統制,計画が,情動性の下位には心配性,緊張,抑うつ,自己批判,気分変動が,遊戯性の下位には進取,空想,芸術への関心,内的経験への敏感,奔放が位置している。2005年に藤島寛らはFFPQから50項目を選択し,短縮版であるFFPQ-50を発表している。
主要5因子性格検査は,1990年代後半に村上宣寛と村上千恵子が発表した検査である。この検査は,語彙的なアプローチに基づく検査であるといえる。70項目で構成されており,建前尺度と頻度尺度という二つの妥当性尺度も含まれている。五つの性格特性の下位次元は設定されていない。五つの性格次元は,外向性,協調性,勤勉性,情緒安定性,知性である。なおこの検査には,中学生から成人を対象とした一般用と,小学4年生から6年生を対象とした小学生用がある。
なお,市販されていないビッグ・ファイブを測定する尺度として研究などでよく使用されるものに,1996年に和田さゆりが発表したBFS(Big Five Scales)がある。これは60の形容詞に対してどの程度当てはまるかを回答するものであり,五つの性格次元それぞれ12項目を得点化する。 →性格検査 →性格心理学 →特性論
〔小塩 真司〕
(5)電話調査法 調査対象に調査員が電話で質問して記入する方法である。迅速に調査できる点が優れているが、あまり多くの質問ができないのと、調査対象が電話所有者に限られるのが難点である。
これらの諸方法は、調査の目的、内容、費用などの諸要因を検討して使い分けられているのが現状である。