
第4回 知覚心理学と絵画芸術の接点
第4回 知覚心理学と絵画芸術の接点
恒常現象は、人の知覚がもっている性質をよく表している。この現象には、物理的に正しい認識よりも、対象の同一性を保持し、世界を安定して知覚する働きが優先されることがよく現れている。こうした錯覚の性質は、線遠近法が学習される以前の子どもの絵や古代の絵画などを通して理解することができる。
【キーワード】
大きさと形の恒常性、遠近法、知的写実主義
1.奥行き知覚と恒常現象
「相対的大きさ」「重なり」「線遠近法」
「線遠近法」遠くのものは小さく、近くのものは大きく
2.子どもの絵はなぜおもしろいのか
運動視差
両眼立体視
透明画法(レントゲン画) → 「擬鳥瞰図法」、「疑似展開図」 → 「知的写実主義」
線遠近法(透視図法) → 「視覚的写実主義」
3.絵画の歴史と遠近法の発見
(1)古代の絵
やまと絵遠近法
(2)西欧絵画における恒常性の否定
大気遠近法
(3)恒常性の否定と、その転機
「明るさの恒常性」
「色の恒常性」
(4)恒常性の回帰
「絵を描くことは対象をそのまま描くことではなく、構成することだ」後期印象派の画家ポール・セザンヌ
「この年になってやっと子どもらしい絵が描けるようになった」パブロ・ピカソ
アヴィニヨンの娘 娼婦宿のあるスペインのバルセロナ、アビニヨー通りから命名されたこの大作は、娼窟を描いたもの。
画面左側の女性の横顔は古代エジプト彫刻、中央の2人の顔には、イベリア彫刻(古代スペイン彫刻)、また、グロテスクに歪曲された右の2人の顔には、アフリカ彫刻の影響が見え隠れする。また右手前の女性は背を向けているにもかかわらず、顔だけがこちら側をにらんでいる。
本作は、遠近法や明暗法などによって得られる写実的な現実感ではない、絵画ならではの新しい現実感を得るために、事物の形をいったん解体したうえで、画面のなかで複数の視点から再構成する「キュビスム」の起点とされる。さらには、遠近法や明暗法に基づく伝統的な絵画の約束事を根本からくつがえした点で、現代絵画の出発点ともいわれる。