第10回 面接法1:臨床的面接法

心理学研究法(’20)

Psychological Research Methods (’20)

主任講師名:三浦 麻子(大阪大学大学院教授)

【講義概要】
心理学の諸領域で用いられている基礎的な研究法について講義する。学習者が自らテーマを設定して研究を計画し、一連の科学的実証手続きを経てそれを遂行できるようになることを目指して、心理学の研究者・実践家としての心構えを含めて、スキルとテクニックを教授する。

【授業の目標】
心理学の諸領域で用いられている基礎的な研究法を学び、それらをふまえて自らテーマを設定して研究を計画し、収集したデータを分析・考察するという一連の科学的実証手続きを遂行するためのスキルとテクニックを習得することを目指す。

第10回 面接法1:臨床的面接法

面接法の種類とその特徴を知るとともに、ラポールの重要性について学ぶ。そして基本的面接スキルについてアイビーのマイクロカウンセリングに基づき学習し、さらに面接法を用いた事例研究のあり方について理解する。

【キーワード】
ラポール、マイクロカウンセリング、非言語的コミュニケーション、事例研究


次の臨床活動のうち,正しい対応をとっているものを①~④の中から一つ選べ。

① 大学で臨床心理学を教えている教授が,受講生の学生から自身の心理的問題についての臨床的面接を求められ,個人的に引き受けることとした。

② 自身の性格に関する悩みを主訴として継続的に来談しているクライエントが,今日だけは別の話題をぜひ話したいと言ってきたので,その求めに応じて普段とは異なる話題を面接で扱った。

③ 本来の面接目的とは全く異なる話題を毎回延々と話し続けるクライエントに対して,途中で話を遮り,このままでは時間とお金の無駄になってしまうので,何のために相談に来ているのかを改めて考え直した方が良いと指摘した。

④ 自分の息子が遠方の大学に合格し一人暮らしを始めることについて,嬉しいけど寂しさもあると語った女性のクライエントに対して,肯定的な面に目を向けさせるために,大学合格の喜びに焦点を当てた面接を行った。

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正解は②です。

【解説/コメント】

①臨床的面接における職業倫理の一つに多重関係の禁止が挙げられます。この事例は成績評価権をもつ教師という役割と臨床心理面接を行う心理援助者という役割の 2 つが重なることとなり,倫理的に問題といえます。

基本的に臨床的面接では,何を話し合うのか相互に理解・同意して面接を行うという場面構成を重視します。しかしながら,場面構成は絶対的に従わなくてはならないというものではなく,状況によって臨機応変に変わりうるものです従ってクライエントが強く希望してきたような場合には,本来の話題とは別の話題を取り上げることが起こり得ます。

③毎回本来の面接の主題から離れた話題をクライエントが延々と話し続けていると,面接者の方にも苛立ちが生じることがあるとされています。しかし,それを直接的に指摘することはクライエントとの関係性を壊してしまう恐れが出てきます。どうしても異なる話題を話してしまうクライエントに対しては,ある程度の枠を設定してそれぞれの話題を扱うようにした方が良いでしょう。

④臨床的面接において,クライエントは悲しいけど嬉しい,腹が立つけど嬉しいといった複合感情を示すことがあります。面接者はそうした複合感情に対して感情の反射を行う場合には,どちらか一方の感情だけでなく,両方の感情を返すようにしなくてはなりません。


ケースフォーミュレーションの説明文として正しいものを次の①~④の中から一つ選べ。

① ケースフォーミュレーションとは,クライエントが抱える問題が何故出現したのかについて,過去に遡ってその原因を探る試みのことを指す。 

② ケースフォーミュレーションによって見立てを一度作ったら,安易に修正することは望ましくなく,新たな情報を入手した場合でも,なるべくその内容は変えない方が良い。

③ ケースフォーミュレーションは臨床心理学的観点から行うものなので,生物学的要因や社会的要因については極力排除し,心理的要因を中心に実施する必要がある。

④ ケースフォーミュレーションは精神科治療を目的として診断名を付与する行為である医学的診断とは異なるものである。

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正解は④です。

【解説/コメント】

ケースフォーミュレーションでは,クライエントが抱える問題について,(1)いつ生じ,(2)どのように変化し,(3)なぜ現在も維持され続けているのかを明らかにすることを目指しています。従って過去に遡って原因を探るよりも現在における問題の維持要因の方を重視します。

②ケースフォーミュレーションによって作られる見立てはあくまでも仮説であり,その後の面接において新たな情報が入手できたり,介入の効果が認められなかったりした場合には,適宜仮説を修正していく必要があります。

ケースフォーミュレーションでは,生物-心理-社会モデルという 3 つの要因とそれぞれの相互作用からなる仮説生成が求められます。従って,仮説の内容を心理的要因のみに限定しないようにしなければなりません。

精神科治療では,医学的診断を行うことで,同一ないし類似した症状に対する効果的な治療法を選択できるようにするという方針をとります。一方,ケースフォーミュレーションでは,当該のクライエントが抱える問題について,その維持要因を明らかにし,改善を目指すという方針をとります。従って両者は異なるものだといえます。

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