第09回 臨床心理学

心理学概論

第09回 臨床心理学

臨床心理学は、心理学のなかでも特に実践との結びつきが強い領域であり、心の問題を抱えている人の支援を主な目的としている。心の健康を保つことは、身体の健康の維持とともに、人の生涯にわたる課題の一つであり、その意味でも臨床心理学の果たす役割は大きい。この回では、臨床心理学の基本的な考え方、実践方法について概説する。

【キーワード】
心理アセスメント、心の病、カウンセリング、心理療法

向田 久美子(放送大学准教授)
ゲスト:松田 英子(東洋大学教授)


1.臨床心理学とは
2.心理アセスメント
3.心の病
4.心理療法


1.臨床心理学とは
研究方法の系譜 臨床法,調査法,実験法

フロイトの事例研究を起源とする臨床法
精神分析
クライエント中心療法
パーソナリティ理論
パーソナリティや知能の個人差研究を起源とする調査法
統計的分析にかけることで標準的な傾向とともに逸脱傾向を明らかにする検査が開発された
心理アセスメントに活用されている
心理学の伝統的な手法である実験法
条件づけを応用した行動療法
認知心理学のち県を取り入れた認知療法の発展へとつながった

現在
当事者だけでなく、当事者の周囲へのサポートや、一般の人々を対象とした予防的なアプローチも研究や実践の対象
エビデンス・ベイスド・アプローチも台頭

2.心理アセスメント

クライエントの現状や成育歴、パーソナリティ、問題の規定因などについて情報収集・分析する過程

心理アセスメントの3つの手法(単独で用いることもあれば、同時並列的に用いることもある)
面接法
クライエント、もしくはその身近にいる人から対面で聞き取りを行う
観察法
クライエントの行動(発言や動作、姿勢、表情、他者との関わりなど)について観察を行う
研究を目的とする場合に用いられる厳密な手法([時間見本法]や[場面見本法]など)を摂ることは少ないため、得られる情報が観察者の力量や主観に左右されやすい
検査法
標準化された発達検査や知能検査、性格検査を用いてクライエントの特徴を探るもの
(標準化: 実施法や採点法、結果の解釈の基準が明確に定められていることを指す)
性格検査には[質問紙法]と[投影法]、[作業検査法]があり、必要に応じて用いられる(第10章 パーソナリティ心理学)

3.心の病
「心に問題を抱えている」という状態は様々

精神疾患を持っているかどうかを診断する基準
国際疾病統計分類(International of Classification of Diseases:ICD)
世界保健機関(WHO)が公表している分類
1900年に初版、ほぼ10年に一度改訂
1990年に第10版(ICD-10)が刊行されている
身体疾患を含む疾患全般を取り上げている
精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)
アメリカ精神医学会(APA)が発行
1952年に初版
2013年に第5版(DSM-5)
精神疾患だけを扱っている

診断の名称や基準は時代と共に変化しており、概して細分化の方向に向かっている
DSM初版(約60種類)、DSM-第4版(約300種類)
第5版では発達障害(通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される疾患)が神経発達症群(Neurodevelopmental Disorders)という名称に変わっている

4.心理療法

精神疾患に至る原因は、生物学的要因(進化、個体の遺伝子、脳の構造と科学組成)、心理学的要因(ストレス、心的外傷、学習性無力感、気分に関連した知覚、記憶)、社会文化的要因(役割、期待、「正常」と「疾患」の定義)の3つが複雑に絡み合って生じる。

心理療法:個別の事情を抱える人に対して、訓練を受けた臨床家が心理学的技法を用いて心の健康の回復や成長を支援することを指す
以下は代表的な4つの技法と理論

(1)精神分析療法
フロイトが創始した精神分析は、心(パーソナリティ)の構造を、エス(イド)、自我、超自我という3層で考える。
エス(イド): 無意識的・本能的なエネルギーから成り、不快を避け、快を求める快楽原則に基づいて機能する
自我: エスから分化したものであり、現実原則に従って意識的にエスの機能を調整し、現実への適応を図ろうとする
超自我: 養育者のしつけや社会の要求を内面化する形で形成され、道徳原則によって機能する

精神分析療法とは – コトバンク

フロイトの理論・技法はその後、アドラーの個人心理学やユングの分析心理学など多くの学派に分かれていった。

(2)クライエント中心療法
ロジャーズはクライエント(来談者)という呼称を用い、非指示的カウンセリングを提唱し、後にクライエント中心療法として発展させた。
カール・ロジャーズ – Wikipedia
クライエント中心療法:人間には自ら成長しようとする力と自己実現を目指す傾向が備わっていると考える
クライエント中心療法の三大要素は治療効果も確認されており、基本的な技法として幅広い分野で使われている
1. 共感的理解
2. 無条件の肯定的配慮
3. 自己一致(心の中と行動が一致していること。純粋性ともいう。)

精神分析療法とは、以下が違うところ
クライエント自身の力を信頼する点
病気を治すというより成長を促すことに焦点を当てている点
過去の無意識的な経験よりも現在の意識的な思考を重視する点
これらは人間性心理学の中核をなす考えでもある  (第1章 心理学とは)

(3)行動療法
行動療法:クライエントの内的な洞察を目指すのではなく、問題となっている行動そのものを変えようとするアプローチである。
道具的条件づけを活用した技法では、望ましい行動に正の強化子を与え、望ましくない行動に負の強化子を与えることで行動の形成や修正を促す(第4章 学習心理学)

応用行動分析:問題行動を環境との相互作用の中で捉えようとする学習理論に基づくアプローチである。
行動の綿密な観察や報告に基づき、「先行要因―(問題)行動―随伴要因」の三項随伴性を明らかにする
三項随伴性 | 心理学用語集サイコタム
三項随伴性とは(ABC分析)|学習理論 | カウンセラーWEB
こうすることで個に応じた問題解決策を立てやすくなり、またチームで対応することが可能になる
一事例実験計画を用いて、介入の効果を確かめることもある(第2章 心理学の研究方法)

(4)認知療法

認知療法:クライエントの行動というよりは、ものの見方([認知])を変えることで苦痛を和らげたり、問題を解決しようとする技法である。
ベックらによれば、うつ病の人は不合理で偏った自動的思考をする傾向があり、そのため過度に否定的な感情(怒りや落ち込み、不安、悲しみなど)を経験しやすいという(Beck, et al., 1979)
ベック – Jinkawiki
自動思考 | 心理学用語集サイコタム

認知行動療法: 行動療法と認知療法を組み合わせたもので面接場面でのやり取りに加え、面接外でもセルフ・モニタリング(日々の出来事とそのときの思考、感情について記録をつけるなど)を行い、思考の偏りを修正したり、肯定的な感情が生まれるような行動を多く取るようにしていく。
バンデューラの提唱した社会的学習理論を応用した自己教示訓練もある
アルバート・バンデューラ – Wikipedia


臨床心理学入門 多様なアプローチを超越する
臨床心理学入門 — 多様なアプローチを越境する (有斐閣アルマ)


 

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