指し値オペ (さしねおぺ)
ナローパスの指し値オペ 「円安批判を回避」の見方
日本銀行が指定する利回りで国債を買い入れる手法。
指し値オペレーションの略です。2016年9月に公表した金融政策の新たな枠組みの中で、長期金利操作のために導入しました。新たな枠組みでは、長期金利の指標である10年物国債の利回りを0%程度に誘導する目標を設定しました。指し値オペは将来、利回りが大きく上がる局面を想定。金利の上昇を抑えるため、低利回りで無制限に国債を買い入れることができます。現状のように利回りをマイナス圏から引き上げる場合は国債の購入量を減らすなどして対応します。
日銀は25日も金利抑制策である「指し値オペ」を通知しなかった。先手先手で打てば金利抑制姿勢が際立つ一方、通知が遅れて長期国債を大量に買うことになってしまえば大規模な量的緩和を印象付けることになる。いずれも円安を加速させかねない。資源高の環境下での円安進行には国民の懸念が強まり、夏の参院選前に金融政策の正常化を求める声につながるおそれがある。緩和政策を継続するため、目下はなるべく円売りに弾みをつけてしまわぬよう、日銀は焦らずとも、遅れないようオペを打つタイミングを見極めているとの見方が市場であった。
日銀、長期金利0.24%でも動かず
24日時点で国内長期金利は0.230%と、日銀が前回指し値オペの実施を予告した2月10日の水準に上昇していた。米金利上昇を受けて25日も国内長期金利は上昇して始まり、一時は0.240%まで上昇した。日銀が許容する変動幅の上限(0.25%程度)に迫ったことから、市場では、一定の利回りで国債を無制限に買い入れる指し値オペに構える雰囲気もあったが、18時時点までに発動はされていない。
前回に比べると幅広い年限で金利の上昇スピードが緩やかで「午後や週明けでも金利上昇に対応できると判断したのではないか」(国内証券のストラテジスト)との声が聞かれた。25日午前は黒田東彦総裁が衆院財務金融委員会に出席していたため、総裁の答弁中にオペを実施しにくいという事情もあったかもしれない。
円安が一段と進んでいることもオペ実施の判断に影響しているとの見方が出ている。円相場は足元で6年3カ月ぶりに1ドル=122円台に下落した。日銀は円安について「全体として日本経済にプラスに作用している」という基本認識を崩していない。だが、資源価格が急騰するなか、円安で輸入物価がさらに上振れすれば、原材料コストの増加を招いて家計や企業収益の圧迫要因になる。
早すぎても遅すぎても
野村証券の中島武信氏は「長期金利が0.25%よりも低い水準で指し値オペを乱発すれば、日銀の緩和姿勢が際立ち、円安が一段と進行する要因となり得る」と指摘する。そのうえで指し値オペの実施が「国民や国会の注目を集めることで、日銀政策修正への圧力を高めることになりかねない」とみる。できるだけ0.25%に近い水準まで指し値オペを温存した方が、緩和継続や国内金利の低位安定につながるとの見方だ。
一方、通知が遅れても円売りがかさむ可能性はある。前回2月14日のオペ通知では、予告の効果もあって14日当日に市場金利が低下したため、オペでの応札額はゼロとなった。実際の購入を伴わない「空砲」に終わった。大和証券の末広徹氏は、指し値オペで特定の銘柄を大量に購入すれば「大規模な量的緩和を意識した投機筋などの円売りを招きかねない」と話す。対象銘柄の流動性低下にもつながるため、大量購入は回避したいはずだとみる。
通知の判断はナローパス(狭き道)だ。早すぎても、遅すぎても、円売りに弾みをつけてしまう可能性がある。アナウンスメント効果も含めて購入額を最小限にして金利上昇を抑制する水準やタイミングを日銀は慎重に見計らっているもようだ。
〔日経QUICKニュース(NQN) 椎名遥香〕