うつ病とは「心のバッテリー」が上がること…「考えすぎ」がうつ病に変わるメカニズムは?

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<「考えすぎ」と「心配」はどう違うのか? 今、心理学の分野で注目されている「考えすぎ(Overthinking)」について>

体に異変を感じて、ネット検索をした結果、悪い病名を発見。すると悪い情報ばかりを探すことがやめられない……。そういう経験は誰でもあるだろう。

しかし、単なる心配と「やっかいな考えすぎ」との境界線はどこにあるのだろうか? 今、心理学の分野で注目されている「考えすぎ(Overthinking)」とは何か? 不安障害が専門の臨床心理士グウェンドリン・スミスによる、『考えすぎてしまうあなたへ』(CCCメディアハウス)より抜粋する。

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近年、医療現場では「考えすぎ」という言葉は日常的に使われるようになりました。人びとに「『考えすぎ』と心配は、同じですか?」と尋ねると、私の同僚や患者を含めた多くが、「同じだけど違う」と答えるはずです。時には、両方の要素が少しずつ組み合わさっていることもあります。それは次のような場合です。

私は考えすぎてしまう。それ自体は問題ないが、だんだん心配し始める。それから不安になり、次はその「不安である」という状態に悩みだす。今度はあらゆることを考えすぎるようになり、これまでの自分の行為を思い返す。しまいには、これからやろうとすることについても不安になってくる。

あなたがこの困った状態から抜け出すために、この複雑な心理現象に「やっかいな考えすぎ」という名前をつけましょう。この用語を使えば、ほとんどの事柄をカバーすることができます。

医師は、「考えすぎ」を「繰り返し思い出すこと」と同じ意味だと考えがちです。「患者が、自身を苦しめている症状に着目し、その解決策を見つけようとするよりも、原因や結果にばかり目を向ける傾向にある」と思っているからです。

「考えすぎ」が不安と結びつくのは、たとえば悪友とつるむのに似ている―医師たちはそのようにも考えています。

健康不安の例

その典型的な例が、健康不安(かつては「心気症」と呼ばれた精神状態)です。「やっかいな考えすぎ」は健康不安に大きく関係しています。たとえばこんな感じです。

朝、あなたは身支度をしていて、歯を磨こうとします。いつものように、まずは糸ようじを使っていると、血が少し出ていることに気づきました。

舌を動かして口の中を探ってみると、小さなしこりのようなものがありました。あなたは心配し始め、その瞬間に不安が生まれます。通勤の車が渋滞に巻き込まれる時間までに、急いでグーグル先生に質問して、安心材料を探します。


「歯周病」で検索。どうしよう! 1億300万件もヒット! 多すぎます! もっと対象を絞り込みましょう。

「歯肉がん」と入力。375万件がヒット。少しだけ調べやすくなりました。では、スクロールして兆候や症状を見てみましょう。

「口腔がんの兆候と症状。嚙むことや飲み込むことが困難になる。口の中や喉、唇にしこりが出来たり、痛くなったりする。白色や赤色の斑点が口の中に見られる。舌やあごを動かすのが難しくなる」

単純明快な、最悪の結果です! この30分ほどそうしていたように、もう一度口の中をチェックします。舌で歯茎の表面を刺激していましたが、そこがたしかに痛みます。この気持ちの悪い不安の正体を突き止めるべく、病院に行くべきときが来ました。

人は不安を感じると、その不安を解消し、気持ちを楽にするのが一番の目的になります。たしかに、歯茎にしこり(あるいは、しこりと思われるもの)があるのは問題ですが、人が何より求めているのは不安の解消です。健康不安のある人は、多くのお金を使って健康診断やさまざまな検査を受け、安心感を得ようとします。

医師が診察し、「何も異常なし」と伝えます。注意深く探っていた舌が歯茎を刺激していただけで、ジェル状の痛み止めを少し塗れば治るようです。

ふう、やれやれ! 不安は消えました。ただし、それもほんの少しの間だけで、心配性の人は同じことを繰り返します。心配してはまた不安になるのです。

「考えすぎ」に関する学術的な情報は、あまり重要ではありません。あなたの今の考え方を、もっと有益で、事実に基づいたものに変えていくことが大事なのです。そうすれば、ありのままの自分でいても平気になります。

「やっかいな考えすぎ」からうつ病へ

最後にもうひとつ、研究で明らかになっている事実に触れておきます。「やっかいな考えすぎ」が感情に長期的な影響をもたらすのは明白であり、またそれはうつ病にも深く関わっているという側面です。

うつ病、不安、そして過度の心配は密接に関係しています。この現象を説明するとき、私はよく車のバッテリーを例に出します。

大きな災難(家族の突然死、大量虐殺、自然災害による家の破壊など)に遭ったとき、あなたの身体は車のヘッドライトをつけっぱなしにしている状態と同じです。エネルギーを大量に消耗し続けてしまいます。

 


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『考えすぎてしまうあなたへ』51頁より

このときの反応は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と同等だと判断されます。車だったら1時間以内にバッテリーは上がってしまうでしょう。

しかし、もしつけっぱなしにしていたのが、駐車灯や室内灯だったとしたらどうでしょう。もっともっと時間はかかりますが︑それでも最終的にはバッテリーは上がってしまいます。

つまり、不安や「やっかいな考えすぎ」を抱えている状態が続くと、いずれバッテリーは上がってしまいます(それはつまり、うつ病になることの比喩です)。

不安の大小によって、結果に辿たどり着くまでの時間が変化するというだけです。人びとは、すぐに回復するという見込みのもと、「辛抱して頑張る」という道を選びがちです。でも、バッテリーの調整は、人びとが思うより困難です。

それゆえ、これらの兆候を無視しないことの重要性を私は強調したいのです。バッテリーが上がりそうだなと感じたら要注意。身体があなたに何かを訴えようとしているからです。

英語の古い慣用句に「つぼみのうちに摘み取る」という言葉があります。これができたら、事態の悪化を未然に防ぐことができます。

 

考えすぎてしまうあなたへ
グウェンドリン・スミス 著
小谷七生 訳
CCCメディアハウス

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