なぜ豊かなものはより豊かになり,貧しきものはより貧しくなるのか
人は誰しも豊かな人生を送りたいと考えている。
1.健康第一です。
2.周りの人たちに迷惑を掛けないだけの資産を持つこと。
3.やりがいのある仕事、または、学び
健康は、健康なうちは、それほど気にはしていないだろうが、健康なうちに気をつけていかなければならいもので、病気になってからでは、元の健康な体には戻らないことも多い。
資産については、少なければ迷惑をかけることになるし、多ければ多いほど良いというものでもないと思う。人ぞれぞれになってしまうが、自分で計算するしかないのかな。他人に客観的に見てもらっても、自分でそう思わなければ納得しないだろう。
やりがいのある仕事や学びは、いままで生きてきても感じたことがないので、これからそのようなものが出来るだろうか、吉野美奈子さんみたに芸術にやりがいを感じることは出来ますように。
なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか ロバート・C・アレン著
グローバル経済史の全体像を描く
世界にはなぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか。この単純かつ根源的な疑問に簡潔に答えたのが本書。著者のアレンはオクスフォード大学で経済史を専攻する学会の大御所だそうだ。原題は「Global Economic History: A Very Short Introduction」というもので、オクスフォード大学出版「入門シリーズ」の一冊として出版された。
だからこれ、一読した感想は大学教養課程の教科書みたい。ところがこれが面白いんだなあ。だからこそ一般書として翻訳されたんだろうけど。その理由は、ひとつにはかつての経済史が近代国家を対象にしたものだったのに対し、アジア、アフリカ、南米を含んだグローバル・ヒストリーとして経済史を考える新しい視点が出てきたこと。もうひとつは、それぞれの地域を時間軸に沿って数量的に比較しながら考えることができるデータが揃ってきたことにある。
僕たちは世界史の常識として、大航海時代以来ヨーロッパが貿易や収奪によって富を蓄積し、産業革命を経て近代化したヨーロッパ・北アメリカが飛びぬけて豊かになったという歴史像を持っている。この本が描くグローバル経済史も、そこから大きく離れているわけではない。でも、この本に挿入されたグラフや図はいろいろなことを考えさせてくれるし、なぜイギリスで産業革命が起きたのか、なぜ日本や台湾、韓国、そして中国がキャッチアップに成功し(つつあり)、アフリカがなぜ貧しいままなのかといった問題に対する解答も興味深い。
最初に登場するグラフは1820~2008年の「世界の1人当たりGDP」。1820年でいちばん豊かなのはオランダで1,838ドル。次いでイギリス1,706ドル、北米が1,202ドルでつづく。残りの国々は発展途上で、日本は669ドル、中国600ドル、インド533ドル、いちばん貧しいのはサハラ以南のアフリカで415ドルとなっている。
図録▽1人当たりGDPの歴史的推移(日本と主要国) (honkawa2.sakura.ne.jp)
これと2008年の数字を比べてみる。オランダが24,695ドル(13.4倍)に、イギリスは23,742ドル(13.9倍)になっている。北米は30,152ドル(25倍)と世界一豊かになり、日本は急速に成長して22,816ドル(34.1倍)とヨーロッパ並みになった。中国は6,725ドル(11.2倍)、インド2,698ドル(5倍)、いちばん貧しいサハラ以南のアフリカは1,387ドル(3.3倍)にとどまり200年前のヨーロッパの水準にも及ばない。19世紀から21世紀まで、いわゆる先進国とそうでない国々の間の所得格差は一貫して拡大しつづけているのだ。
1人当たりGDPランキングの推移(1990年・2000年・2010年・2020年) / 日本の地位は低下傾向 – ファイナンシャルスター (finance-gfp.com)
もっとも1人当たりGDPでなく国民全体の所得総額である国民所得を見ると、様相はだいぶ変わってくる。国民所得は1820年では中国が抜きん出た1番、以下、インド、フランス、イギリス、ロシア、日本とつづく。「19世紀初頭までの世界の富の分布をみると、まだヨーロッパ、アメリカが中心とはいえなかった」
大航海時代によって最初のグローバル経済が成立したが、15世紀から19世紀の初頭まで世界の国民所得に大きな変動はなかった。ところが19世紀後半、ヨーロッパ列強が激しい植民地獲得競争を繰り広げて中国、インドの経済力が低下し、一方、イギリスの産業革命がヨーロッパ・北米に波及して劇的な所得格差の拡大が起こった。これがアレンが示してみせるグローバル経済の基本的な構図である。
スペイン、ポルトガルに代わってオランダ、イギリスが台頭した17~18世紀の北西ヨーロッパでは、次のようなことが起こっていた。
(1)都市化と製造業・商業の発展による高賃金経済。
(2)都市の需要に対応するための農業革命。
(3)木炭・薪から石炭へのエネルギー革命。
(4)教育への需要増大による識字率、計算能力の向上。
これが産業革命の基盤となった。
産業革命の代表的な発明は蒸気機関、綿紡績機・織機、石炭による製鉄・製鋼法といわれる。その結果、鉄道と蒸気船が普及し、動力で動く機械を使った工業化が繊維業だけでなくあらゆる分野で発達した。アレンは、この革命の基礎になったのがイギリス特有の高賃金と安価なエネルギーだったという。
「賃金が割高で、エネルギーコストが割安なイギリス経済では、産業革命への道を切り開いた技術を発明したり、利用することによって、企業は利益を得ることができた」
「彼ら(イギリスの発明家)が発明した機械は、労働を節約するために資本の使用を増やしたことである。その結果、これらの機械の使用から利益を上げられたのは、労働が割高で、資本が割安であったところ、すなわちイギリスにおいてであった。他の地ではそうではなかった。この点こそ産業革命がイギリスで生じた理由なのである」
このイギリスの産業革命を、西ヨーロッパと北アメリカが追いかける。その場合、発展戦略は次のようなものとなった。
(1)内国関税の撤廃と輸送網の整備で国内市場を創出する。
(2)対外関税を設定し国内産業をイギリスとの競争から守る。
(3)通貨を安定させ、事業に資金を供給する銀行を創設する。
(4)大衆教育を確立する。
こうしてヨーロッパと北アメリカでは高賃金が労働節約的な機械を生み、それが労働生産性を増大させて更に賃金の上昇を生むという「上昇スパイラル」に乗ることができた。豊かな国がさらに豊かになっていった。一方、貧しい国々では賃金が安いから労働節約的な技術を導入しても割があわず、古い技術(自動織機でなく手織機)を使いつづけることになる。「今日貧しい国々はこの上昇スパイラルに乗り遅れてしまったのである。彼らは低賃金と高資本コストのため、古めかしい技術と低賃金でなんとか間に合わせなければならないのである」
アレンはさらに、なぜ欧米以外のある国がキャッチアップに成功し、ある国(地域)はなぜ失敗したのかを素描している。アフリカはなぜ貧しいままなのか。サハラ以南のアフリカが16世紀に貧しかった理由は農業の先進地帯ではなかったからだ。先進的な農業はやがて商業や製造業を発達させて近代を産む母体になった。ところがアフリカでは鍬しか使わない農耕が多く、伝染病が多いため家畜飼育も発達しなかった。
やがて植民地支配の時代が来て、農業はココアやヤシ油といった輸出用農産物に特化された。ところがココアもヤシ油も価格が20世紀初頭から低下し、それが100年後の現在もつづいている。低賃金なので機械の導入も利益につながらない。同じ理由で国全体の工業化にも失敗した。「アフリカの貧困は、低賃金が輸出価格を抑え、低価格が賃金を抑えるという、悪循環にあるように見える」。「上昇スパイラル」とは反対の「負のスパイラル」に陥っているというわけだ。
一方、日本のキャッチアップの成功は、明治以降一貫した国家主導の発展戦略が成功したからだというのがアレンの考え。日本は欧米との間にあった3つの格差(労働者1人当たりの資本と教育費と生産性の格差)を縮小することで急成長し、それは1990年前後に達成された。日本は先進国になった。しかし、とアレンは言う。「先進国は、世界の技術フロンティアが拡大するのと同じ速さでしか成長できない。つまり、毎年1、2%の成長しかできないということである」。とすればバブル崩壊以後の低成長は必然的なものであり、僕たちの課題はそれを克服してもう一度成長を目指すのでなく、それを前提に持続可能な社会をどうつくるかを構想することにある。
アレンは最後に中国の成長についても触れている。結論はこうだ。「もし、この国が次の30年間、1978年以降の30年間と同じほど急速に成長するならば、中国は西洋との格差を完全に埋めるだろう。ちょうどクリストファー・コロンブスとヴァスコ・ダ・ガマの航海以前と同じように、中国は世界で最も大きな製造業の国になるだろう。これで世界の歴史は一巡したということになる」
現在の問題をいちばんの基本から理解するために、歴史を500年遡って考えることの面白さがこの本にはある。