金融所得で保険料増を検討 医療介護、不公平見直し
金融所得で保険料増を検討 医療介護、不公平見直し
岸田文雄政権が医療・介護の保険料算定に株式配当などの金融所得を反映させる検討を始めている。超高齢社会の到来に伴い、社会保障費の膨張に対応するため保険料負担を増やすことが狙いだ。だが、首相が「Invest in Kishida!」(岸田に投資を!)とまで宣言し、今年1月にスタートさせた新NISAをプッシュしておきながら、負担増を強いる姿勢には「これが狙いだったのか」といった疑念が渦巻く。「国民に地獄へ落ちろというのか」などとうい声も聞こえる。経済アナリストの佐藤健太氏は「物価上昇に加え、金利上昇の波も押し寄せる中、子ども・子育て支援金の負担も始まる。国民の我慢は限界が近づいてきている」と厳しい。
「増税は考えていない」と言い続けた岸田首相
2022年5月、岸田首相は英・ロンドンの金融街シティーでの演説で「安心して投資して欲しい」と呼びかけ、自らが唱える「新しい資本主義」をアピールした。その具体的内容は明らかではなかったが、政権発足から3年目に入り、うっすらと姿が見えてきた。たしかに岸田氏は「成長」だけではなく、「分配」に重きを置いていることは知られていたが、ここまで分配を採ってくるとは多くの人が思わなかったに違いない。
首相は「増税は考えていない」と繰り返してきたものの、あの手この手で国民からお金を徴収するスキームを描いてきた。防衛費大幅増に伴う所得税、法人税、タバコ税の増税プランに加え、2026年度に開始される「子ども・子育て支援金」は被保険者1人あたりの負担額が2028年度に年収400万円で月650円、年収600万円で月1000円、年収800万円で月1350円と試算されている。
一部から「増税メガネ」と揶揄され、防衛増税は実施時期を先送りしたものの、森林環境税(年額1000円)は2024年度にスタートした。75歳以上の人が支払う医療保険料は2024年度に平均で6000円(年間)アップし、国民年金保険料の納付期間は65歳になるまで5年延長することが検討されている。
「減税分や補助金事業の回収をこれからスタートします」
首相の諮問機関である政府税制調査会が2023年6月に提出した中期答申では、同じ会社に長く務めるほど優遇される退職金の課税見直しなども検討するよう求めている。今後も国民はどんな負担増が待っているのかと不安になるのは当然だ。
2023年は全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)が前年比3.1%上昇し、1982年のオイルショック以来41年ぶりの高水準となった。ワンショットの定額減税を除けば、岸田首相が国民の苦境に寄り添った政策を講じてきたとは思えない。物価高騰対策として始めた電気・ガス料金の負担軽減措置は5月末で打ち切るという。これでは「減税分や補助金事業の回収をこれからスタートします」と言っているようなものではないか。
岸田政権が「金融所得」を狙い撃ちにしていることも疑問だ。国家のリーダーが強烈に推進してきたこともあり、1月にスタートした新NISAは好調な滑り出しを見せた。2月のNISA口座新規開設件数は53万件と、2023年1~3月の増加数(平均)と比べ2.9倍増加している。東京証券取引所によれば、4月第3週は個人投資家の現物株買い越しが過去最大の9085億円に達し、NISAマネーの流入が膨らむ。
「1億総投資家」構想を打ち出しながら、金融所得を狙い撃ち
少額投資非課税制度の拡充策で「1億総投資家」構想を打ち出しながら、金融所得を狙い撃ちにする首相の姿勢には、頭をかしげる人が少なくないのではないか。投資を推進したいのか、ストップをかけたいのか分からない。
政府は2023年12月に社会保障改革の工程表を決定した。それによると、「国民健康保険制度、後期高齢者医療制度及び介護保険制度における負担への金融所得の反映のあり方について、税制における確定申告の有無による保険料負担の不公平な取扱いを是正するため、どのように金融所得の情報を把握するかなどの課題も踏まえつつ、検討を行う」とある。
2月26日の衆院予算委員会では、立憲民主党の岡本あき子氏が「保険料算定に金融所得を使う。適正化の下に医療や介護の保険料値上げ、サービス縮小そういう改革になってしまわないのか。結局、負担金を増やしていくといくことに変わりないと思う」と問いただした。これに対し、岸田首相は「全世代型の社会保障を実現して持続可能性を高めるという努力、議論を続けていかなければならない課題だ」などと答弁している。
アクセルとブレーキを同時に踏むような施策
社会保険料の算定ベースに年間収入だけではなく、保有する預貯金や金融資産といった「ストック」も含めて算出することは政府内で20年以上も議論されてきた。実際の負担能力に近い応能負担を実現するというのが狙いだ。現行の国民健康保険や後期高齢者医療制度、介護保険における保険料の算定は、市町村民税の課税所得をもとに所得を判断している。現在は確定申告をした人は保険料に反映されるものの、源泉徴収を選択して未申告だった人は対象にならず「不公平」との指摘がなされてきた。
ただ、未申告だった人の保険料は大きく増える可能性がある上、金融所得の把握方法や自治体の事務負担増など課題は山積している。政府は2028年度までに検討するとしているが、アクセルとブレーキを同時に踏むような施策がなぜ今のタイミングで必要なのか国民への説明が欠かせないだろう。
岸田政権は2023年度の税制改正で富裕層への課税強化も打ち出した。資産所得が多い人にターゲットを絞り、年間総所得が30億円超の富裕層を念頭に2025年から追加の税負担を求めるというものだ。対象はまだ少ないとみられるが、努力して富裕層の仲間入りを果たした人を岸田政権がなぜ「不公平」と狙い撃ちするのか理解に苦しむ。
社会保険料のアップといった「隠れ増税」は国民に打撃を与える
「30億円超なんて一握り。だから搾取しても構わない」という人もいるかもしれない。しかし、この「30億円超」というハードルが今後下がらない保証はどこにもない。時の政権の意向で「10億円」「5億円」に対象が広がっていくかもしれないことは注意しておく必要がある。せっかく努力して成功をつかんでも、そこに負担増が待っているのであれば、海外に飛び出す人がたくさん出てくるのではないか。
2023年11月に会計検査院が提出した2022年度決算検査報告によれば、税金の不適切な支出や無駄遣いは国の事業で344件、約580億円に上る。岸田首相はさらなる消費税増税を否定するものの、社会保険料のアップといった「隠れ増税」は国民に打撃を与える。しかも、国民から徴収したお金が不適切な支出や無駄遣い、さらには政治家の「裏金」に使われているのであれば、たまったものではない。
岸田政権の姿勢として浮かび上がるのは、「取れるところから搾り取れ」というものだ。物価高騰で苦しみ、これ以上の負担増を懸念する国民の声に「聞く力」を発揮していないのは間違いない。
自営業者は、金融所得に課税される。サラリーマンは、まだ出来ないらしい。FIREを考えている人は、このままサラリーマンでいた方が税金は安いので、だらだら退職しないで続けて、給料とは別に配当を貰っていた方が、自営業者や配当のみ生活をするよりはマシなのだろうか。
ますます、サラリーマン地獄が続くことになるのだろうなぁ。