第8回 精神分析の始まりと展開

心理カウンセリング序説(’21)

-心理学的支援法-

Introduction to Psychological Counseling (’21)

主任講師名:大山 泰宏(放送大学教授)

【講義概要】
この授業では、臨床心理学におけるカウンセリング、心理療法を中心とした、心理学的な相談・支援に関する基礎とその展開について講じる。対象者に対する心理学的な支援の中核にはカウンセリングがありつつも、それは、支援の形や対象となる領域によって、さまざまな展開をみせている。そこでは、どのような専門性が求められ、どのような学びをおこなっていけばいいのだろうか。こうしたテーマについて包括的に論じる。
なお本科目は,公認心理師学部カリキュラムのうち「心理学的支援法」に対応する。

【授業の目標】
・カウンセリングの基礎について学ぶ
・心理学的支援のさまざまな技法の基礎と特徴、その適用範囲について学ぶ
・心理学的支援をおこなううえでの心構えや責務について学ぶ

【履修上の留意点】
この科目は、公認心理師の学部カリキュラム「心理学的支援法」に対応しています。他の関連科目も積極的に履修してください。

第8回 精神分析の始まりと展開

心に原因があると考える「心因」という発想が誕生するに至った流れや背景について概説し、
その意義について述べるとともに、フロイトによる精神分析の始まりとその革新的な意義と影響、
および、その後の発展について講じる。

【キーワード】
ヒステリー、心因、メスメリズム、催眠、カタルシス療法、精神分析、無意識、心的現実、対象関係論

催眠、心因,無意識、自由連想、心的装置、対象関係論

 


メスメル 動物磁気説 メスメリズム(Mesmerism)

「Baquet」。大きなテーブルの周りにたくさん人がいる応接室の絵。松葉杖をついた男は足首に鉄の帯を巻いている。グループの他のメンバーたちも同様に手をつないでいる。左側では男が女を磁化している。(1780年)

ヨーゼフ・ブロイアー アンナ・Oへの治療 無意識的表象

ヒステリー研究』(Studien über Hysterie)ジークムント・フロイトとの共著, 1895年

ジークムント・フロイト 自由連想

メラニー・クラインMelanie Klein1882年3月30日 – 1960年9月22日)は、オーストリアウィーン出身の女性精神分析家児童分析を専門とする。

対象関係論とは、対象関係こそが人格の発達に大きな影響を与えるとし、理論の中心にすえたものです。 対象関係とは、主体(自分)と対象との関係のことで、対象には人間も含まれます。 主体は対象を選択しますが、その一方で対象が主体のあり方を決定することもあるため、対象関係は相互関係です。

エディプス期 (Oedipus phase)

 

第09回 臨床心理学


問題 1 ヒステリーの治療から,次第に心理学的支援が成立してくる様子について述べた,次の①~④の中から,正しいものを一つ選びなさい。

ヒステリーには,身体に働きかける治療が有効でなかったので,当初から心理的なものだと考えられていた。
② メスメル(Mesmer, F-A.)の動物磁気による治療に端を発する催眠は,20 世紀後半に至りその機序が分かるまで,神秘的でオカルト的なものだとみなされていた。
③ 催眠下で特定の記憶の想起や情動の解放をおこなうことは,ヒステリーの症状の消失につながるということが,カタルシス療法により知られた。
④ 井上円了が「心理療法」として整理した体系によれば,加持祈祷や悪魔払いのような方法は,心理療法ではない。 不正解です。

フィードバック正解は③です。

【解説/コメント】

ヒステリーの治療には,温泉療法,マッサージなどの,身体に働きかける治療法も有効であり,よく用いられていました。

②19 世紀の半ばに,ジェイムズ・ブレイドが,メスメルの動物磁気による治療は神経系統の特定の状態と対応していることを見いだし,それを「催眠 hypnosis」と名付けました。

③これが,いわゆる無意識の発見につながったわけですね。本人が意識していない,しかしその人の行動等に影響を与えている記憶(心的表象)があるということが示されたのです。

井上円了「心理療法」として整理したものには,宗教や民間療法的なものであっても,その機序は心理学的に説明できるものとして,「心理療法」として位置づけられました。現在の「心理学的支援」が,心に対して心理学的モデルと理解にもとづきなされるものとして定義されることとは,異なっていることに留意してください。


問題 2 無意識に接近するためのフロイト(Freud, S.)の方法について述べた,次の①~④の中から,正しいものを一つ選びなさい。

① 連想においては,ある言葉から別の言葉へのつながりを重視し,誤謬や言い間違いといったエラーには着目しなかった。
② 基本的に治療は催眠下でおこなわれたので,分析家(セラピスト)のみが患者(クライアント)の隠された心の秘密を知るという不均衡さがあった。
③ 患者が想起する記憶は,いずれも過去にあった歴史的事実であるとして重視した。
人間の無意識の衝動は,動物的な本能に還元してしまうのではなく,人間固有のものであると考えていた。 正解です。

フィードバック正解は④です。

【解説/コメント】

①連想のつながりから,人間の精神のありようを探ろうとしていたのは,当時の実験心理学を中心として支配的な方法でしたが,フロイトの場合,言い間違いや失念といったことに着目して,抑圧という心的機制を考えたところに独創性があります。

②フロイトは,催眠ではなく寝椅子での自由連想を用いたため,患者(クライアント)自身も,自分の語ったことを知ることができたという点が重要です。

③当初はそのように考えていましたが,必ずしも患者が語る記憶に対応する過去の事実がない事例に多く接したことで,「心的現実」の発想を得ました。そして,人間のもつ根源的な欲動を仮定するに至りました。

人間の無意識の衝動,すなわち根源的な欲動は,個体維持・生存のための動物的な本能とは異なったものであるということを,しっかりと押さえておいてください。それを示す例としてどのようなものがあるか,印刷教材や放送授業をもとに整理しておいてください。

 

心的現実(しんてきげんじつ / mental reality)とは、客観的または物的にそういうことが起こったかどうかにかかわらず、本人が嘘をついているつもりでなく、心の底から「それが起こった」と信じているような現実のことをいいます。

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