第8回 情動の生物学的基礎

神経・生理心理学(’22)

Neuro- and Physiological Psychology (’22)

主任講師名:髙瀬 堅吉(中央大学教授)

【講義概要】
神経・生理心理学では、心の生物学的基礎についての学びを主題とします。講義では、知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きを担う脳の機能を中心に学びます。また、睡眠、生体リズム、遺伝子と行動、心の発達、心の病気についても、その生物学的基礎を紹介します。これらの知見に加えて、心の生物学的基礎を明らかにするための研究手法についても触れ、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。講義内容は、公認心理師試験出題基準(ブループリント)の項目を網羅し、臨床の現場に関連する話題も扱います。

【授業の目標】
神経・生理心理学の基礎的知見、考え方を身につけることを目標とします。具体的には、1)心の諸機能の生物学的基盤、特に神経系、内分泌系のつくりと働きを理解し、2)知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きが、神経系や内分泌系の働きによってどのように営まれているかを学びます。そして、1、2の知見を明らかにするための研究手法も学び、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。

【履修上の留意点】
心理学の概論的講義を履修済みであることが望ましいです。また、数学、物理学、化学、生物学の知識が受講者に備わっていると、講義の理解は容易になります。しかし、これらの予備知識については、放送授業や印刷教材で、そのつど説明します。

第8回 情動の生物学的基礎

喜怒哀楽は人生を彩るものであるだけでなく、自分の置かれた状況や今とるべき行動を生体に教えてくれる生存に必須の機能です。この、情動という機能の生物学的基礎を学びます。

【キーワード】
感情、感情に関する神経科学、感情の進化、感情と心身の健康

ジェームズ・ランゲ説キャノン・バード説パペッツの回路大脳辺縁系、クリューバー・ビューシー症候群、ソマティック・マーカー仮説、汎適用症候群、闘争-逃走反応


1.情動の理論

キャノン・バード説 1

 


腹内側前頭前野

記憶を想起したときの「楽しい・嬉しい」感情はどのように創出されるのか

大脳辺縁系という概念→パペッツの回路に扁桃体、視床下部、中隔を加えた。
パペッツの回路とは大脳辺縁系をめぐる閉鎖回路である
パペッツの回路(Papez circuit)
パペッツ(Papez)の回路(Papez circuit)とは、1937年にアメリカの神経解剖学者であるパ-ペッツ(またはパペッツ、James Papez)が報告した情動回路。
海馬⇒脳弓⇒乳頭体⇒視床前核⇒帯状回⇒海馬傍回⇒海馬という閉鎖回路をPapezの回路という。
パペッツは「帯状回が興奮すると、海馬体、乳頭体、視床前核を経て帯状回に刺激が戻る」という神経回路を想定し、この回路が持続的に興奮することで情動が生まれるのではないか、と考えたが、後にこの回路は記憶に関与することが明らかになった。


闘争−逃走反応

次の①~④のうちから、闘争−逃走反応(fight-or-flight response)に関わるホルモンとして正しいものを一つ選べ。

① アンドロゲン
② エストロゲン
③ アドレナリン 正解です。
④ バゾプレッシン

【解説/コメント】

情動に関与する神経系の一つに自律神経系があります。自律神経系の神経支配の特徴として拮抗支配があり、交感神経が促進するものを副交感神経は抑制し、反対に、交感神経が抑制するものを副交感神経が促進します。拮抗支配において、交感神経は緊急事態に際して活動的に働いてエネルギー消費を促進するのに対して、副交感神経は消化機能を促進してエネルギーを貯蔵するよう促します。怒りや恐怖反応などに伴う強い情動反応を示す際には交感神経の活動が支配的となり、心拍数を増大させ、筋への血流を多くして筋の活動に要する多量のエネルギーが供給されます。また、交感神経の活動により副腎髄質が刺激され、副腎髄質ホルモンであるアドレナリンが分泌されます。アドレナリンは肝臓に蓄えられたエネルギーを血液中に放出し、脅威的状況に立ち向かうか、それともそこから逃げ去るかという闘争−逃走反応(fight-or-flight response)と呼ばれる身体的状態で消費されるエネルギー源を確保します。

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