第8回 心理検査によるアセスメント(5)-神経心理学的検査
心理的アセスメント(’20)
Psychological Assessment (’20)
主任講師名:森田 美弥子(中部大学教授)、永田 雅子(名古屋大学教授)
【講義概要】
心理的アセスメントとは何をすることなのか? 心理的支援実践においてアセスメントは必須の行為である。クライエントがどういう人であるのか、どのような問題を抱えているのか、といったことを把握しないことには支援の方針計画をたてようがない。では、具体的にどのような方法があるのか、そこで何に留意するとよいのか概説する。
【授業の目標】
本講義を通じて、心理支援における心理的アセスメントの基礎知識を得ることを目標とする。
第8回 心理検査によるアセスメント(5)-神経心理学的検査
障害や事故あるいは加齢による脳機能の問題が疑われる場合等に心理検査が用いられることがある。ここでは代表的な神経心理検査とその理論を紹介する。
【キーワード】
神経心理学的検査、高次機能障害、認知症
見当識 自分の置かれている状況や、周囲との関係を結びつけて考えることのできる機能のことを見当識といいます。
知能検査
神経心理学的検査の意義
神経心理学的検査の対象
(1) 高次脳機能障害
(2) 認知症
(3) 発達障害
神経心理学的検査の種類
(1) 簡易版知能検査
(2) 注意機能・遂行機能
(3) 記憶
(4) 視空間認知機能
神経心理学的検査の活用
高次脳機能障害のリハビリテーション法について調べ、神経心理学的検査の結果をどういかしていくことができるのか考えてみよう。
高次脳機能障害のリハビリテーション法には、医学的、職業的、社会的リハビリテーションがある。
■医学的リハビリテーション
■職業的リハビリテーション
■社会的リハビリテーション
各テストで測れるものと測れないものを整理したうえで、症状別のバッテリーの組み合わせを考えてみよう。
問題 1 40 代の A さんは交通事故にあい,外傷性の脳障害を受傷した。退院して仕事復帰をしたが,手続きが覚えられない,次に何をやっていいかわからなくなるなどの症状が認められるようになった。A さんの症状の理解や,支援計画作成のために心理職にアセスメントの依頼があったとき,考えられる検査ツールについて,次の①~④の文章のうちから,最も適切なものを一つ選べ。
① 知的能力を把握するため,簡易型の知能検査である HDS-R や MMSE を実施する。 不正解です。
② 記憶能力を把握するためトレイルメーキングテストを実施する。
③ 時計描画テストは,視空間機能の評価であり,A さんの症状を反映するものではないため,選択はしない。
④ 神経心理学的検査の結果を実施する上で,事前に脳画像の結果や,社会生活の様子などのより詳細な情報をカルテ等から得たうえで判断を行う。
フィードバック 正解は④です。
【解説/コメント】
①HDS-R や MMSE は認知症をはじめとした高齢者を対象とするものであり,40 代で,仕事をすることができている A さんには,WAIS など一般的な知能検査の実施が望ましいでしょう。印刷教材の第 7 章を参照して,理解を深めてください。
②トレイルメーキングテストは注意機能を測定する検査であり,記憶能力を把握するための検査には,三宅式記銘力検査や,リバーミード行動記憶検査,ウェクスラー記憶検査などがあります。印刷教材の第 8 章を参照して,神経心理学的検査のそれぞれの特徴について理解を深めてください。
③時計描画テストは視空間機能の評価を主な目的としていたものですが,遂行機能や注意集中なども測定できるとされており,選択肢の一つとなりうるでしょう。
時計描画テスト(Clock Drawing Test; CDT)は,“時計の絵を描画する”という年齢や教育歴の影響を受けにくい教示であるため,検査に対する抵抗が比較的少なくMMSEやHDS-Rと同様に認知症スクリーニングとして周知されており,高齢者の自動車運転免許更新時の認知機能テストにも組み込まれている。
④これが「最も適切なもの」です。検査ツールの選択をしていくうえで,事前に,脳画像の結果,生育史,現在の病状などより詳細に把握をしておくことが望ましいでしょう。情報を正確に把握していることではじめて,本人の状態にあわせた検査バッテリーを組むことができます。