第8回 尿の生成と体液の調節
人体の構造と機能(’22)-人体の構造と機能及び疾病A-
Structure and Function of the Human Body (’22)
主任講師名:坂井 建雄(順天堂大学特任教授)、岡田 隆夫(順天堂大学特任教授)
【講義概要】
私たちの健康は正常な構造が正常に機能して初めて可能となる。看護師などの医療職に就くためには私たちの身体の正常な構造を知り、それがどのように機能しているかを理解しておく必要がある。私たちの身体の中には胃や腸、心臓、筋肉等々さまざまな器官・組織があるが、これらは互いに独立して働いているわけではなく、筋運動をすると心拍が速くなることからもわかるように、相互に密接に関連しながら機能している。このような機能の調節をも含めて、トータルとしての人体の構造と機能を理解することを目標とする。
【授業の目標】
人体の構造をマクロ・ミクロの両面から系統的に学ぶ。
人体の各器官系の機能を調節系も含めて系統的に学ぶ。
【履修上の留意点】
限られた時間内で全てを講義することは不可能であり、教科書による自己学習が必須である。予習をしてあることを前提として授業を展開する。疑問の点、わからない点は積極的に質問するよう、心がけてほしい。
「動物の科学」「生命分子と細胞の科学」(いずれも学部開設科目)を学んでおくと理解しやすい。
また、発展・応用科目としての「健康長寿のためのスポートロジー」の受講もお薦めする。
※この科目の通信指導問題の解答および提出はWebのみとなります。通信指導問題冊子は送付されませんのでご注意ください。
第8回 尿の生成と体液の調節
泌尿器の構造と腎臓における尿の生成メカニズム、脱水と酸塩基平衡の異常と電解質異常について解説する。
【キーワード】
腎小体、尿細管、集合管、濾過と再吸収、蓄尿反射と排尿反射
腎臓は、腰より上の背中側に位置しており、背骨を挟んで左右にひとつずつあります。そら豆のような形をしており、大きさは11~2cm(握りこぶし大より少し大きい程度)で、血液中の不要な老廃物を排泄するための尿を生成したり、血圧の調節、ビタミンDの活性化、造血ホルモンの生成などにも関わっている臓器です。
尿を作るということ(1) 泌尿器系について
健康な身体をつくり、それを元気に動かすために毎日食事をとり、それを消化吸収して身体の隅々まで血液で送ります。そして、血液の中から必要なものを取りだして、それを使って身体の各部署(臓器・組織・細胞)が新陳代謝を行います。新陳代謝を行った後は要らなくなったものを血液の中に戻して、外に出します。その一連の作業をするのが腎臓をはじめとする泌尿器系というシステムです。今回は泌尿器系がどのようにして身体の中の要らなくなってものを尿として体外に出すかお話をしましょう。
問題 1 腎臓に関する①~⑤の文章のうちから、正しいものを一つ選べ。
① 糸球体は腎臓の髄質にある。
② ヘンレループは皮質の中でぐねぐねと走る。
③ 集合管は枝分かれのない1本の管である。
④ 糸球体はボウマン嚢により包まれる。 正解です。
⑤ 腎乳頭は腎皮質の一部である。
フィードバック
正解は④です。
【解説/コメント】
①腎臓の皮質には、糸球体と迂曲する尿細管(近位曲尿細管、遠位曲尿細管)が集まっています。
②髄質には直走する尿細管(ヘンレループ、集合管)が集まっています。
③糸球体から遠位尿細管まで枝分かれのない部分でネフロンと呼ばれ、集合管は複数のネフロンが集まって合流する部分です。
④糸球体はボウマン嚢という二重壁の袋に包まれていて、その内腔に尿を濾過して出します。
⑤腎乳頭は腎髄質が腎洞に突き出た先端部分であり、腎臓で作られた尿は腎乳頭から腎杯の中に出されます。
血液中の不要な老廃物を排泄するための尿を生成するのはネフロンと呼ばれる組織で、左右の腎臓それぞれに100万個以上存在します。 ネフロンは、糸球体(読み:しきゅうたい)という毛細血管の塊と、それを包むボウマン嚢、そこに繋がる尿細管という管で構成されています。
問題 2 腎臓に関する①~⑤の文章のうちから、正しいものを一つ選べ。
① 糸球体濾過の原動力は浸透圧である。 不正解です。
② 近位尿細管はブドウ糖を尿中に分泌する。
③ 腎髄質にはNa+と尿素が蓄積している。
④ 傍糸球体装置からアンジオテンシンIIが分泌される。
⑤ アルドステロンは尿を濃縮して尿量を減少させる。
フィードバック正解は③です。
【解説/コメント】
①糸球体濾過の原動力は、毛細血管の内圧であり、浸透圧は濾過を妨げるように働きます。
②近位尿細管では、水分の3分の2程度が再吸収され、また尿中の有用な物質(ブドウ糖、アミノ酸、タンパク質)がほとんど再吸収されます。
③腎髄質にはNa+と尿素が蓄積して浸透圧が高くなっており、これを利用して集合管から水が再吸収され、尿が濃縮されます。
④傍糸球体装置からレニンが分泌され、レニンは血漿中のアンジオテンシノーゲンを分解してアンジオテンシンI(AI)を生成し、AIは内皮細胞の変換酵素の作用で速やかにアンジオテンシンII(AII)になります。AIIには強力な血圧上昇作用があります。
⑤集合管にはさまざまなホルモンが作用して尿の量と成分を調節しますが、下垂体後葉ホルモンのバゾプレシンは尿を濃縮して尿量を減少させ、副腎皮質から出されるアルドステロンはナトリウムの再吸収とカリウムの分泌を促進して体液量を増やし、血圧を上昇させます。
慢性腎臓病(CKD)を知っていますか?
「世界腎臓デー(World Kidney Day)」をご存じでしょうか?
国際腎臓学会が主体となり、慢性腎臓病(CKD)の早期発見・治療の重要性を伝える国際的な取り組みとして2006年に開始しました。
CKDの予防、治療、患者さんの意識向上などを目的として、日本でも例年3月に開催されています。
各自治体でイベントをしていることもあるのでチェックしてみてもいいかもしれません。
内科医 KOTATSU先生
CKDは腎臓が何らかの原因でダメージを受けて血液をろ過する機能が落ちてしまう病気で、たんぱく尿・血尿などを伴うこともあります。
全国で約1300〜1400万人(成人の8人に1人)と推計されている「新たな国民病」といわれるほど身近な病気です。
多くは糖尿病や高血圧など生活習慣の悪化により発症し、症状が進行すると人工透析などが必要な末期腎不全におちいることがある病気です。
腎臓は沈黙の臓器と呼ばれ、病気が進行しないと症状が出現せず、腎機能の低下に気づいたときには透析を始めなければならない状態という人もいます。
腎臓は、腰の高さで背中側に左右ひとつずつある、そら豆のような形をした、にぎりこぶしくらいの大きさの臓器です。
血液をろ過して、身体に必要なものを再吸収し、不要な老廃物を尿として排出する働きを毎日しています(1。
この働きを担っているのが、毛細血管が球状に絡まった「糸球体」という組織です。
糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病や加齢などによる血管の障害は、糸球体にもダメージを与えるため、CKDの主な発症リスクになります。
CKD(慢性腎臓病)とは、腎臓の働き(GFR)が健康な人の60%未満に低下するか、タンパク尿が出るといった腎臓の異常が続く状態を言います。
その具体的な定義としては、1もしくは2が3カ月以上続いている場合とされています。
- eGFR(推算GFR)という血液検査の項目が 60 mL/min/1.73 m2未満である状態
- たんぱく尿や血尿(尿潜血)など、腎臓の障害を疑う所見が続いている状態
CKDの場合、痛みなど症状があるわけでなく尿の量も保たれることが多いので、血液検査や尿検査をしないとわからないことが多いです。
原因はさまざまで、メタボリックシンドロームや高血圧・糖尿病等の生活習慣が深くかかわっているとされています。
そのため、CKDの予防のためには早期発見と適切な生活習慣の維持が大切です。
CKDの悪化が進むと、人工透析や腎移植が必要となるリスクが高まるだけではなく、心筋梗塞・心不全・脳卒中などによる入院や死亡のリスクが何倍にも跳ね上がってしまうとされています(2。
年を取るごとに腎機能が低下していくのは避けられませんが、治療の介入が早いほどそのスピードを遅らせることが可能ですし、健康寿命を伸ばすことにつながります。
血液検査の血清クレアチニン(筋肉の老廃物)および、年齢や性別から腎機能を計算したeGFR(推算GFR)から、現在の腎機能を把握することができます。
他にも尿検査でたんぱく尿や血尿などがないかもチェックできます。
CKDを疑う結果だったとしても症状がない方がほとんどですので、健診は毎年必ず受けるようにしましょう。
世界腎臓デーのサイト(https://www.worldkidneyday.org/)では、CKDを予防するためにできることも記載されているので、まとめてみました。
1つでもいいので、毎日の生活で意識していきましょう。
1日20分以上の定期的な運動をしていきましょう。
健診の時だけでなく、日頃から血糖値や脂質、血圧の値を意識しましょう。
特に糖尿病患者の約50%が腎障害を発症すると言われています。
そこに高血圧や脂質異常症が重なると、腎臓はさらにダメージをうけやすくなります。
また、腎臓がんのリスクも増加させます。
解熱・鎮痛剤としてよく使用される、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、定期的に服用すると腎臓にダメージを及ぼす可能性があります。
現在の薬の選び方や飲み方が適切かどうか不安がある方は、かかりつけの医師や販売店の薬剤師に相談してみましょう。
参考出典
- 第1回腎疾患対策及び糖尿病対策の推進に関する検討会,厚生労働省より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001005972.pdf - Alan S Go et al, Chronic kidney disease and the risks of death, cardiovascular events, and hospitalization. N Engl J Med. 2004 Sep 23;351(13):1296-305.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15385656/