第7回 心理検査によるアセスメント(4)-知能検査

心理的アセスメント(’20)
Psychological Assessment (’20)

主任講師名:森田 美弥子(中部大学教授)、永田 雅子(名古屋大学教授)

【講義概要】
心理的アセスメントとは何をすることなのか? 心理的支援実践においてアセスメントは必須の行為である。クライエントがどういう人であるのか、どのような問題を抱えているのか、といったことを把握しないことには支援の方針計画をたてようがない。では、具体的にどのような方法があるのか、そこで何に留意するとよいのか概説する。

【授業の目標】
本講義を通じて、心理支援における心理的アセスメントの基礎知識を得ることを目標とする。

第7回 心理検査によるアセスメント(4)-知能検査

思考や認知の機能など知的能力をとらえるための心理検査として知能検査がある。ここでは代表的な知能検査とその理論的背景を紹介する。

【キーワード】
知能検査、ウェクスラー法、ビネー法、認知機能検査

執筆担当講師名:永田 雅子(名古屋大学教授)
放送担当講師名:永田 雅子(名古屋大学教授)


知能検査
知能とは?
知能検査の種類
(1) ビネー式知能検査
(2) ウェクスラー式知能検査
(3) そのほかの認知機能検査
検査の実施・解釈に当たって


問題 9 次の①~④の文章のうちから,正しいものを一つ選べ。

① IQ 値は,検査者の習熟や,被検査者の情緒的な反応によって変動することがある。
② 知能検査は知能という理論的枠組みが確立されてから,開発されてきた。
③ 知能検査を実施することで,知能を構成するすべての因子を測定することができる。
④ 学校側の理解を促すためにも,検査のプロフィールなど詳しい記録を渡す方が望ましい。

これが「正しいもの」です。IQ値は,加齢により検査に対する構えが取れるようになったり,相手の意図を組むことができるようになったりすると上昇し,抽象的な能力が要求されるようになる小学校高学年で,その段階の躓きから値が低下することもあります。それ以外にも,検査者の習熟度や,被検査者の不安の高さが影響することもあります。

フィードバック 正解は①です。

問題 10 次の①~④の文章のうちから,正しいものを一つ選べ。

ビネー式知能検査は,知能を総体的なものとしてとらえており,因子構造モデルは採用されていない。
② WISC-Ⅳは,言語性 IQ である言語理解指標,処理速度指標と,動作性 IQ である知覚推理指標と,ワーキングメモリー指標を算出できる。
③ KABC-Ⅱは,カウフマンモデルと,CHC 理論と二つの分析・解釈が可能である。
④ ITPA は,回路と過程の 2 つの次元で分析ができる。

これが「正しいもの」となります。K‐ABC心理教育アセスメントバッテリーでは,カウフマンモデルのみの分析が可能でしたが,KABC‐Ⅱからは,CHC理論での分析・解釈も可能となりました。

フィードバック 正解は③です。

 


40 代の A さんは交通事故にあい,外傷性の脳障害を受傷した。退院して仕事復帰をしたが,手続きが覚えられない,次に何をやっていいかわからなくなるなどの症状が認められるようになった。A さんの症状の理解や,支援計画作成のために心理職にアセスメントの依頼があったとき,考えられる検査ツールについて,次の①~④の文章のうちから,最も適切なものを一つ選べ。

① 知的能力を把握するため,簡易型の知能検査である HDS-R や MMSE を実施する。

② 記憶能力を把握するためトレイルメーキングテストを実施する。

③ 時計描画テストは,視空間機能の評価であり,A さんの症状を反映するものではないため,選択はしない。

④ 神経心理学的検査の結果を実施する上で,事前に脳画像の結果や,社会生活の様子などのより詳細な情報をカルテ等から得たうえで判断を行う。

フィードバック
正解は④です。

【解説/コメント】

HDS-RMMSE認知症をはじめとした高齢者を対象とするものであり,40 代で,仕事をすることができている A さんには,WAIS など一般的な知能検査の実施が望ましいでしょう。印刷教材の第 7 章を参照して,理解を深めてください。

トレイルメーキングテスト注意機能を測定する検査であり,記憶能力を把握するための検査には,三宅式記銘力検査や,リバーミード行動記憶検査,ウェクスラー記憶検査などがあります。印刷教材の第 8 章を参照して,神経心理学的検査のそれぞれの特徴について理解を深めてください。

時計描画テスト視空間機能の評価を主な目的としていたものですが,遂行機能や注意集中なども測定できるとされており,選択肢の一つとなりうるでしょう。

④これが「最も適切なもの」です。検査ツールの選択をしていくうえで,事前に,脳画像の結果,生育史,現在の病状などより詳細に把握をしておくことが望ましいでしょう。情報を正確に把握していることではじめて,本人の状態にあわせた検査バッテリーを組むことができます。

 


長谷川式簡易知能評価スケール
はせがわしきかんいちのうひょうかすけーる
Hasegawa dementia scale

認知症の可能性を簡易に検査する評価方法の一つ。精神科医の長谷川和夫(1929―2021)によって開発されたもので、日本においてもっともよく用いられる認知症の簡易検査法といえる。その特徴は、次のようにまとめられる。すなわち、再現性があること(信頼性)と認知機能を確かにとらえていること(妥当性)が確認されている、測定内容は記憶のみならず、注意や構成能力、言語機能、見当識などを含んでいる、九つの評価項目で30点満点である、カットオフ値(病態識別値)は21点とされ、20点以下なら認知症の疑いがある。なお、検査の所要時間は約10~15分と短時間である。

なお、いわゆる「長谷川式」には以下の2種類がある。1974年(昭和49)に発表された「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS)」と、質問項目と採点基準の見直しが行われ、1991年(平成3)に改訂された「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」である。現在よく使われているのは後者である。

使用にあたっては注意点がある。まず一つには、本尺度の目的はスクリーニング(認知症の可能性のある人の検出)であり、あくまで診断の「参考」に用いるものである。つまり「長谷川式が何点だから……」と、認知症であるかかを安易に診断するものではない。実際に認知症であるか否かの診断は、あくまでも専門医師の診察に基づいて行われる。すなわち、問診や検査・画像診断などを通じて、認知機能に障害があり、それにより日常生活の自立に支障をきたしていると判断されたときに「認知症」と診断される。

なお、難聴失語症がある人では、問いの理解や回答が困難で、すべての問題に答えられないことがある。そうした場合には、現場でできるかぎりわかってもらえるように努力し、そのうえで確認できなかった項目があれば、どの質問項目が施行できなかったかの記録を残しておくのが実際的だろう。

[朝田 隆 2022年9月21日]

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