第3回 原因帰属と社会的推論
第3回 原因帰属と社会的推論
社会的推論とは、他者や自分、そしてそれを含む社会に関して私たちが行う推論の総称である。すでに取り上げた対人認知も、他者の内面にある感情や意図、パーソナリティ特性などを推測するという意味では、社会的推論の一部ということができる。ここでは、社会的推論のなかでも特に重要と考えられる原因帰属のプロセスと、私たちが社会的推論一般において、おかしやすいエラーやバイアスについて考えていく。
【キーワード】
原因帰属、基本的な帰属のエラー、誤帰属、社会的推論、ヒューリスティック、錯誤相関
社会的推論とは、他社や自分、そしてそれを含む社会に関して私たちが行う推論の総称である。対人認知も、他社の内面にある感情や意図、パーソナリティ特性などを推測するという意味では、社会的推論の一部といえる。
1.原因帰属とは何か
現象の原因を何らかの要因に帰することを原因帰属と言う。
(1)原因帰属の理論
フリッツ・ハイダー・・・・・「素朴心理学」を重視する→対応推論理論や共変モデルなどが登場する
(a)対応推論理論
対応推論理論(Jones&Davis,1965)は、対人認知場面での原因帰属についての理論である。
・行為と内的属性との対応性から原因を推論する。・・・・・外的制約や役割期待がある行為、社会的に望ましい行為は対応生が低い
「対応」という概念を用いることで、他社の言動の観察から内的属性の推論が生じる条件を整理した。
(b)共変モデル
共変モデルは、より一般的な因果推論の法則を説明するモデルとして提案された(Kelly,1967)
ある結果の原因はそれと共変する要因に帰属されるという共変原理が前提
・原因はそれと共変する要因に帰属される(共変原理)、行為の主体(人)、行為の対象(実体)、状況(時・様態)のいずれか
・共変に関わる情報として、合意性、弁別性、一貫性
(2)原因帰属のあるべき姿と現実の姿
合理的で正しい人間の判断や行動はどうあるべきかを示すためのモデル
・記述モデル(ありのままの姿)
実際に行われている人間の判断や行動について理解し、説明するためのモデル
→規範モデルと照合することで、エラーやバイアスが明らかになる。
・現実の生活の中で手に入れられる情報には限界がある。
・人間は常に合理的に因果推論をするわけではない。
因果スキーマ
2.原因帰属に伴うエラーとバイアス
合理的でない因果推論は、ときにエラーやバイアスを生じさせる。
(1)基本的な帰属のエラー(対応バイアス)
他者の行動の原因を考える際、その行為者の内的属性(性格、態度など)を重視しすぎる傾向のことである。
第一段階の内的属性の帰属は情報処理の負荷が小さいのに対し、その後の段階はより負荷の大きい情報処理が求められるため、しばしば最初の段階で情報処理が終結してしまい、結果的に状況要因が考慮されないのだと考えられる。
(2)自己に関する原因帰属のバイアス
行為者-観察者バイアス(Jones&Nisbett,1971)行為者が自分自身である場合、原因は自身の内的属性よりむしろ、状況や他者に帰属されがちである。
例外がある。セルフ・サービング・バイアス(Bradley,1978)。成功は自分自身の行為であっても内的属性(能力、努力)に帰属する傾向がある。失敗は外的属性に帰属されやすい。
(3)誤帰属
真の原因でない要因に誤って原因を帰属することを誤帰属と言う。
「つり橋効果」(Dutton&Aron,1974)つり橋の上では、その場に居合わせた異性に対して、より好意を持ちやすい可能性を示している。
「単純接触効果」(Zajonc,1968)多角形や外国語の文字を、繰り返し見せられると、その刺激に対する好意が増すことが知られている。
これらの誤帰属は、真の原因に注意を向ける操作を行うと、誤帰属が消えたり、効果が弱まったりすることが知られている。
3.社会的推論
(1)ヒューリスティック
ヒューリスティック・・・・・確実に正答にたどりつける保証はないがだいたいはうまく物事を解決することができる方略、直感的で解決への道のりが早い方略
(a)代表性ヒューリスティック
ある事例が特定のカテゴリーをよく代表する典型例な事例と認識される場合、その事例が当該のカテゴリーに属する可能性を高く推定する認知方略である。
リンダ問題「フェミニストの銀行員」
(b)利用可能性ヒューリスティック
どれだけの実例をすぐに思い浮かべることができるかを基準にとして、その事例の生起頻度を推定する認知方略である。
(c)係留と調整
前もっと与えられた値や、最初に直感的に推測した値を手がかりにしてまず判断を行い、その後、最終的な判断を下すために調整を行うという認知方略である。
(2)錯誤相関
実際には関係性がまったくないが、わずかしかない二者間の関係性を過大に見積もることである。(Chapman&Chapman,1979)
ステレオタイプが形成・維持されるメカニズムの一つとして、利用可能性ヒューリスティックによる錯誤相関(誤った関連付けともいう)が関与している可能性が指摘されている。