第2回 中年期という時期
第2回 中年期という時期
-その発達的位置づけと心理的特徴-
生涯における中年期の発達的な位置づけや、彼らが直面している心理社会的課題について、中年期を説明する諸理論や実証データを通して論じる。
【キーワード】
中年期、心理社会的課題、ジェネラティビティ、人生移行、ターニングポイント
1.長寿化と中年期の位置づけ
我が国の平均寿命は、平成30(2018)年現在、男性81.25年、女性87.32年と、前年に比べて男性は0.16年、女性は0.05年上回った。 今後、男女とも平均寿命は延びて、令和47(2065)年には、男性84.95年、女性91.35年となり、女性は90年を超えると見込まれている
平均寿命は、過去数十年にわたって世界的に増加してきました。これは、医療技術の進歩、健康増進の取り組み、衛生状況の改善、栄養状態の向上などによるものです。
たとえば、日本の平均寿命は、男性が1980年代には約75歳だったのが、現在は約81歳にまで増加しています。女性の場合は、1980年代には約80歳だったのが、現在は約87歳に増加しています。同様に、他の先進国でも平均寿命は増加しています。
将来的には、平均寿命はますます増加すると予想されています。医療技術や健康増進の取り組みが進み、栄養状態の改善などが継続されれば、より健康的で長寿な生活が可能になるでしょう。
ただし、高齢化社会の進展に伴い、高齢者の健康管理や介護などの課題が増えることが予想されます。社会全体で健康的な生活習慣の推進や、介護の充実など、将来に向けた対策が必要となります。
2.人生半ばを生きるということ ージェネラティビティの発達と危機ー
(1)サンドイッチ世代の人々
「サンドイッチ世代」とは、主に中高年の世代が抱える社会問題の一つで、自分たちの世代と、自分たちの子どもたちの世代、そして時には自分たちの親世代との間で、様々な責任や義務を抱え込むことから、まるでサンドイッチのように挟まれたような状態になることからきています。
例えば、子育てと仕事を両立しながら、同時に高齢の両親の介護や家事なども行うことが求められる場合があります。また、子どもたちの進学や就職活動、結婚などの支援をしなければならないこともあります。これらの責任や義務によって、サンドイッチ世代の人々はストレスや疲労感を抱えることがあります。
近年、少子高齢化が進む日本においては、サンドイッチ世代の増加が社会問題として取り上げられることがあります。
(2)ジェネラティビティの発達とその多様性
「ジェネラティビティ(Generativity)」は、心理学の分野で、成熟した成人が自己の経験や知識、技能を社会や次世代に伝え、貢献することを指します。ジェネラティビティの概念は、エリク・エリクソンによって提唱されました。
エリクソンによれば、成人は自己の生産的な能力によって、社会に貢献することができます。その貢献は、自分自身や自分が所属するグループや社会全体の発展、または次世代の成長に関わることがあります。このようにして、ジェネラティビティは、自己の生産性を通じて成人としての成熟を示す重要な指標の一つとされます。
具体的には、ジェネラティビティの表れとして、自己の経験や知識、技能を次世代に伝える教育や指導、社会的貢献活動、創造的な活動、自己実現的なキャリアや職業を追求することなどが挙げられる。
ブラッドリーがとらえるジェネラティビティとは
「ジェネラティビティ」という用語は、世代間の関係や個人のアイデンティティを特定するために使用される概念です。ブラッドリーがとらえるジェネラティビティは、主に若い世代の人々の意識や文化的な価値観を指しています。
ブラッドリーは、若い世代の人々が、自分たちが属する世代に特有の特徴や文化的背景を持っていることを認識し、その中で自分たちのアイデンティティを形成していると考えています。また、彼らが持つコミュニケーションやメディアの使用方法、ライフスタイル、社会的および政治的な見解なども、彼らが属する世代の特徴を反映しているとされています。
このように、ブラッドリーがとらえるジェネラティビティは、若い世代の人々が自己理解と社会的アイデンティティの構築に役立つ概念であり、その世代を特徴づける文化的価値観や社会的な傾向を理解するための手掛かりとなるものです。
ジェネラティビティの発達は、中年期のウェルビーングを高める
キャロル・リフ(Carol Ryff)は、アメリカの心理学者であり、心理学におけるウェルビーイング(well-being)の研究で知られています。彼女は、生涯にわたる発展、成長、および自己実現の能力に焦点を当てた「心理的な成熟度」の6つの次元を提唱しました。
- 自己受容性:自分自身を受け入れ、自分自身に満足していること。
- 自己成長:成長、発展、および自己実現の意欲。
- 自己統合:自分自身の異なる側面を調和させ、自分自身を統合する能力。
- 自己目的性:人生の目的、意味、および目標を持ち、それらを達成するために行動する能力。
- 個人の資源:感情的、社会的、および認知的な資源にアクセスし、活用する能力。
- 自己制御:ストレス、不安、および負の感情に対処する能力。
これらの次元に注目することで、リフは、ウェルビーイングが単に幸福感や快適さだけでなく、人生の豊かさや成熟度にも関係していることを示しました。
ジェネラティビティ・ステイタス
「ジェネラティビティ・ステイタス」とは、人々の世代的な位置付けや社会的な立場を示す言葉です。これは、年齢、社会的地位、教育、所得、職業、文化的バックグラウンドなどの要因に基づいて決定されます。
例えば、ベビーブーマー世代は、第二次世界大戦後に生まれた世代であり、戦後の経済成長期に成長したため、高い所得や経済的安定を享受しています。一方、ミレニアル世代は、1980年代から1990年代に生まれた世代であり、経済不況や労働市場の変化に直面しているため、雇用や経済的な安定についての不安を抱えています。
ジェネラティビティ・ステイタスは、社会における個人の立場や権力関係、意識形態、価値観などに影響を与えることがあります。ただし、個人差があるため、必ずしも一様ではありません。
3.中年期の心理的変化の構造
人生の主要な転換期を中年期に迎えやすい点については、古くは分析心理学の創始者であるユングによって論じられている。
ユングの考えでは、人生には幾つかの段階があり、それぞれが成長と変化の機会を提供しています。彼はこれを個人の成長と発展に関する彼自身の理論であるアナラムス理論として知られるものに基づいています。
ユングは、「中年期」と呼ばれる段階が、人生の重要な転換期の一つであると考えました。中年期は、40代から60代の間の時期であり、生物学的な年齢よりも心理的な成熟度に関連しています。
この期間は、自己理解の深まり、自己実現の追求、社会的な役割の変化など、多くの変化が生じる時期であるとされます。また、この期間は、過去の成功や失敗についての洞察が得られ、人生の目的や価値観の再評価が可能になるとされます。
ユングは、この段階においては、個人が自分自身と向き合い、内なる自己との関係を深めることが必要であると考えました。このような深い自己理解は、より豊かな人生を送るための基盤となるとされます。
ユングの考えによれば、中年期においては、個人は自己の潜在能力を最大限に発揮することができるため、この時期は、個人的な成長や発展に向けての重要な機会であるとされます。
4.人生の移行期としての中年期 ーターニングポイントと心理的変化ー
(1)トラジェクトリーとターニングポイント
連続性 トラジェクトリー
非連続性 ターニングポイント
(2)ライフイベントとターニングポイント
Clausen ライフイベント
Clausenのライフイベントとは、心理学者James W. Clausenが提唱した、人間の発達における重要な転換期を指す概念です。
Clausenは、人生のある時点で、個人が経験する一連のライフイベントが、その人の発達に大きな影響を与えると考えました。これらのライフイベントは、人生の様々な段階で起こることがあり、それぞれが個人の心理的および社会的発達に影響を与えます。
Clausenが提唱した代表的なライフイベントには、学校入学、高校卒業、大学入学、就職、結婚、出産、引退、健康問題などがあります。これらのライフイベントは、個人の社会的および心理的な役割、自己認識、価値観、人間関係などに影響を与え、個人の発達に大きな役割を果たすとされています。
「喪失への適応」
(3)ターニングポイントとなる危機的状況と心理的プロセス
アイデンティティの発達
アイデンティティの発達は、個人が自分自身と社会との関係を理解するためのプロセスです。この発達は、幼児期から成人期にわたって続き、文化的背景、家族、友人、教育、職業などの要因によって影響を受けます。
以下は、一般的なアイデンティティの発達段階です。
- 幼児期(0-2歳):自己の存在を認識し始め、自己中心的な思考を発達させます。周りの人や物に興味を持ち、自分が他人と異なることを理解し始めます。
- 幼児期(2-6歳):言葉を話し、行動を通して自分の意見や感情を表現することができるようになります。社会的規範や文化的な期待に従うことを学び、自分と他人との違いを認識するようになります。
- 子ども期(6-12歳):自己のアイデンティティを構築するために、自己評価や自尊心を発達させ始めます。同時に、自分と同じグループに属することの重要性を認識し、集団のルールや価値観に従います。
- 思春期(12-18歳):自己のアイデンティティを模索し始め、自己認識や自己表現の重要性を感じるようになります。自分と異なるグループや個人との関係を理解し、社会的な規範や文化的な価値観について疑問を持ち始めます。
- 成人期(18歳以降):自己のアイデンティティを確立するために、職業や人間関係などの社会的な役割を選択することが重要になります。同時に、自己実現や自己実現のための取り組みを追求し、自分自身のアイデンティティを深めるようになります。
これらの段階は必ずしも一定ではなく、個人によって異なる場合があります。しかし、アイデンティティの発達は、人生の過程において重要な役割を果たし、自分自身と社会との関係を理解するための重要な
否定的な変化
アイデンティティの発達は、若者が自分自身や世界との関係を理解し、自己概念を確立するプロセスです。アイデンティティの発達には、肯定的な変化と否定的な変化の両方があります。
肯定的な変化は、若者が自己を理解し、自己肯定感を高める過程です。若者は、自己の興味や価値観を発見し、それに基づいて自己概念を形成します。この過程で、若者は自分自身に対する自信や自尊心を高め、社会との関係をより健全に構築することができます。
一方、否定的な変化は、若者が自己概念を確立する際に直面する障害や不安を表します。若者は、自分自身や自分自身の役割について疑問を抱き、自己評価が低下することがあります。これは、自己同一性の危機として知られています。自己同一性の危機は、若者が自己を再構築するために必要なプロセスであり、肯定的な変化につながる可能性があります。
否定的な変化が持続する場合、若者は自分自身や周囲の人々に対するネガティブな態度を示すことがあります。これは、若者の自己肯定感が低下し、自分自身や周囲の人々に対して否定的なイメージを持つようになるためです。これは、問題のある行動や社会的孤立につながる可能性があります。
アイデンティティの発達には、肯定的な変化と否定的な変化の両方がありますが、自己同一性の危機は成長に不可欠なプロセスであることを理解することが重要です。支援者は、若者が自分自身を見つけ、自己肯定感を高めるために必要な環境を提供することが重要です。
アイデンティティの発達に関する理論としては、エリク・エリクソンの発達理論がよく知られています。エリクソンによれば、人間は生涯を通じて8つの発達段階を経験し、それぞれの段階で発達課題をクリアしなければ次の段階に進むことができないとされています。アイデンティティの発達においては、エリクソンは青年期に「アイデンティティと役割の拡大」の課題が現れるとし、この課題をクリアすることが重要だと考えています。
アイデンティティの発達がうまく進まない場合、中年期に否定的な変化が現れることがあります。たとえば、自己肯定感の低下や、自分自身や自分が選んだ人生の方向性に対する疑問や不安が現れることがあります。これは、青年期にアイデンティティを確立できなかった場合、中年期になってもその課題が残っているために現れると考えられています。また、中年期には身体的な変化や社会的な役割の変化なども起こりやすく、それによっても自己のアイデンティティに対する不安が生じることがあります。
ただし、中年期における否定的な変化は必ずしも起こるものではなく、アイデンティティの発達が青年期にうまく進んでいれば、中年期においても自己肯定感や自己理解が深まることもあります。また、中年期には新たなアイデンティティの模索や、より自己に合った人生の方向性を模索することもできます。
夫婦人生の節目における関係性発達の各段階と人数分布
夫婦関係性の発達には、様々なモデルや理論がありますが、ここでは一般的な段階分けをご紹介します。
- 準備期(20代前半まで) この期間は、個人としての自己発見や自己実現が中心です。社会人になったり、学校を卒業したり、自立して生活するための準備をします。
- 接触期(20代半ばから30代前半まで) この期間は、恋愛や出会いがあり、相手との交際を始めることが多いです。お互いを知り合い、付き合いを深めていきます。結婚するカップルも多いです。
- 試験期(30代中盤から40代前半まで) この期間は、結婚生活を始めるための準備期間としても重要です。夫婦としての役割や責任を理解し、共通の目標を持つことが大切です。夫婦関係において初めての課題や問題が生じることもあります。
- 安定期(40代中盤から50代前半まで) この期間は、夫婦としての役割や責任を十分に理解し、お互いの価値観や人生観を共有することができるようになります。夫婦としての信頼関係や親密さが深まり、家族としての絆が強くなることもあります。
- 新境地期(50代半ば以降) この期間は、子育てが終わり、夫婦二人だけで新しいライフスタイルを考える時期です。お互いの興味や趣味を共有し、一緒に過ごす時間を大切にすることが多くなります。また、老後の生活計画や健康面の問題も意識されるようになります。
ただし、このような段階分けはあくまでも一例であり、個人差が大きいことを念頭に置いておく必要があります。また、夫婦関係は常に変化していくものであり、これらの段階が必ずしも順序通りに進むわけではないこともあります。
・これまでのあなたの人生において、ターニングポイントはいくつあっただろうか。複数ある方は1つを取り上げ、そこでの心理的な変化を時間軸に沿って記述しよう。
・中年期のジェネラティビティの個人差を生む要因には、どのようなものがあるか考えてみよう。
中年期のジェネラティビティの個人差を生む要因は様々ですが、以下にいくつか例を挙げてみます。
- 個人の価値観や信念:個人が持つ価値観や信念は、その人のジェネラティビティに影響を与えます。例えば、社会に貢献することを重要視する人は、自分の子供に社会貢献の意識を教えることに力を入れるかもしれません。
- 家族の歴史や文化:家族の歴史や文化は、その家族にとってのジェネラティビティに影響を与えます。例えば、家族に政治家や宗教家がいる場合、その家族のメンバーはその分野での活動をすることが多いかもしれません。
- 教育や職業:教育や職業は、個人のジェネラティビティに大きく影響を与えることがあります。例えば、教育熱心な親から育った人は、自分自身や子供たちに対して、教育に重きを置く可能性が高いです。
- 社会環境:社会の状況や環境は、個人のジェネラティビティにも影響を与えることがあります。例えば、社会に対して不満を持っている人は、自分自身や子供たちに対して、社会の問題解決に向けた活動をすることに力を入れるかもしれません。
- 個人の人生経験:個人が経験した人生の出来事は、その人のジェネラティビティに影響を与えます。例えば、経済的に苦しい状況を経験した人は、自分自身や子供たちに対して、経済的な自立を重視する可能性が高いです。
これらはあくまで例であり、個人のジェネラティビティに影響を与える要因は非常に多岐にわたります。