第15回 産業・組織心理学の実践と応用
産業・組織心理学(’20)
Industrial and Organizational Psychology (’20)
主任講師名:山口 裕幸(九州大学教授)
【講義概要】
産業・組織心理学は、①組織に所属する人々の行動の特性やその背後にある心理、あるいは人々が組織を形成し、組織としてまとまって行動するときの特性について研究する「組織行動」の領域、②組織経営の鍵を握る人事評価や人事処遇、あるいは人材育成について研究する「人的資源管理」の領域、③働く人々の安全と心身両面の健康を保全し、促進するための方略について研究する「安全衛生」の領域、そして、④よりすぐれたマーケティング戦略に生かすべく消費者心理や宣伝・広告の効果を研究する「消費者行動」の領域からなる。本講義は、それらを全体として統合しつつ、産業・組織心理学の理論と知見を体系的に解説する。
【授業の目標】
①組織における人間行動の特徴とともに、組織体全体に発生する現象の諸特性について理解し、概説できる。
②人材の育成や開発のために必要となる人的資源管理のあり方について理解し、概説できる。
②職場で発生する安全衛生の問題に対して、その解決のための行動や心理学的支援の方法について理解し、概説できる。
④消費者の意思決定や行動の特性ならびに、効果的な宣伝やマーケティングのための心理学的知識について理解し、概説できる。
第15回 産業・組織心理学の実践と応用
産業・組織心理学の学問が、組織現場でどのように活用され、応用されているかを解説する。また、産業・組織心理学の今後の展望についても考える。
【キーワード】
ワーク・ライフ・バランス、働き方改革、女性の就労、組織の社会的責任(SCR)、コンプライアンス、少子高齢化、多様性社会、世代間継承、ソサエティ5.0(Society5.0)
多元的無知(たげんてきむち、英: pluralistic ignorance)とは、特定の社会的集団の構成員に見られるバイアスの一種である[1][2]。多元的無知は社会心理学において、集団の過半数が任意のある条件を否定しながらも、他者が受け入れることを想定しそれに沿った行動をしている状況を指す[3]。言い換えれば「誰も信じていないが、誰もが『誰もが信じている』と信じている」と表現できる。
また多元的無知は 傍観者効果の好例である[4]。他者がある特定の行動をしない場合、その行動が不適当と他者が信じている可能性を考慮し傍観者は行動を自制しがちである。
次の①~④の中から,正しいものを一つ選びなさい。
① 企業として営利を追求することは正当なことであり,法律違反をしない限り組織の社会的責任(CSR)は果たしているといえる。
② 法律に反していなくても,社会的な道義や規範に反する行為をとれば,その企業ではコンプライアンスが適切になされているとはいえない。
③ 部下である以上,上司からの命令に対しては,多少嫌なことでも我慢するのが当然なのに,パワー・ハラスメントだと言われるのは納得いかない。
④ 組織が事故や不祥事を起こしてしまった場合,即座に謝罪や説明をするよりも,法的に不利になることがないように弁護士と相談して対応していくべきである。
フィードバック
正解は②です。
【解説/コメント】
①この記述内容は正しくありません。法律を守るだけでは CSR を果たしていることにはなりません。CSR は,組織の目標達成を追求することばかりに専念するのではなく,組織活動が社会に与える影響に責任を持ち,組織自らの永続性とともに,社会の一員として持続可能な未来をともに築いていく責任を意味します。
②よく理解されています。この記述内容は正しいです。コンプライアンスは,法令遵守と訳されますが,単に法律を守るというよりは,社会的な要請に応えることという意味合いも強く持っている概念です。たとえ,法律に反していなくても,社会的な道義や規範に反する行為をとれば,その組織ではコンプライアンスがなされていないといえます。
③この記述内容は正しくありません。ハラスメント事態においては,加害者の側に,加害意識が希薄であることが多く,被害者は非常に不愉快で強いストレスを感じているのに,加害者の側は,それに気づいていなかったり,これくらいのことは我慢して当たり前といった態度をとったりしがちで,問題の解決を難しくしています。
④この記述内容は正しくありません。事故や不祥事が発生した場合,被害に対する誠実な謝罪と適切な賠償,同じ事故や不祥事の再発防止のための的確な施策実施が,CSR の基盤として重要です。法的に不利にならないことも重要ですが,世の中の人々が,組織の対応は社会的責任を果たしていると認識してくれることを念頭において,適切な対応を検討することが大事です。
放送授業の第 15 回および印刷教材の第 15 章(224 頁~227 頁)を参照して理解を深めてください。