第15回 セラピストとしての研修

心理カウンセリング序説(’21)

-心理学的支援法-

Introduction to Psychological Counseling (’21)

主任講師名:大山 泰宏(放送大学教授)

【講義概要】
この授業では、臨床心理学におけるカウンセリング、心理療法を中心とした、心理学的な相談・支援に関する基礎とその展開について講じる。対象者に対する心理学的な支援の中核にはカウンセリングがありつつも、それは、支援の形や対象となる領域によって、さまざまな展開をみせている。そこでは、どのような専門性が求められ、どのような学びをおこなっていけばいいのだろうか。こうしたテーマについて包括的に論じる。
なお本科目は,公認心理師学部カリキュラムのうち「心理学的支援法」に対応する。

【授業の目標】
・カウンセリングの基礎について学ぶ
・心理学的支援のさまざまな技法の基礎と特徴、その適用範囲について学ぶ
・心理学的支援をおこなううえでの心構えや責務について学ぶ

【履修上の留意点】
この科目は、公認心理師の学部カリキュラム「心理学的支援法」に対応しています。他の関連科目も積極的に履修してください。

第15回 セラピストとしての研修

カウンセリングや心理療法をはじめとする心理学的支援をおこなうものは、常に自分の職能を向上させていかねばならない。また、それぞれの支援者は職能集団の中の一員として、どのような支えあいの中にあるのか。支援者の生涯をわたった研修のあり方について講じる。

【キーワード】
傷ついた治療者、ケースカンファレンス、スーパーヴィジョン、教育分析、支援者のライフサイクル、職能集団

執筆担当講師名:大山 泰宏(放送大学教授)
放送担当講師名:大山 泰宏(放送大学教授)
橋本 朋広(放送大学教授)
波田野 茂幸(放送大学准教授)


1.セラビストへの道

(1)傷ついた治療者

アスクレピオス
アスクレーピオス – Wikipedia
エピダウロス – Wikipedia
アドルフ・グッゲンビュール=クレイグ – Wikipedia  アドルフ・グッゲンビュール=クレイグ(Adolf Guggenbühl-Craig、1923年 – )は、スイスの精神医学者、分析心理学者。C・G・ユング研究所所長。ユング派分析家。結婚=死ぬまでお互いに対決するという仕事。ユング派の代表的分析家が説く結婚論、待望の復刊!

(2)心理学の知識ー講義科目の意義

(3)セラピストとしてのトレーニンク゜ー演習らか実習へ

2.臨床実践を通した学び

(1)臨床心理学教育の現場での複数の指導

(2)事例検討(ケースカンファレンス)

(3)教育分析

3.おわりにー一生を通じての研修

人間は不完全な存在である。

一生涯、未熟な部分があり、心のどこかに傷つきを抱えている。

自分の心の傷口をいつも開かせておく。

それに気づいたとしても、それに足を掬われてしまわない強靭でしなやかな心と眼差しを持つこと

自分の中にあるクライアントと同じような苦悩に気づきつつ、そこに希望をもって生き抜きクライアントに関わっていくことを大切にしたい。


問題 10 セラピストの研修について述べた,次の①~④の中から,正しいものを一つ選びなさい。

① 心理学の基礎的な講義科目は,心理学的知識を得て頭で理解することができても人間理解は深まらないので,カウンセラーとして誰かの相談に乗ることを始めた後に学ぶのがよい。
② セラピストは,自分の心の傷について自覚すると,セラピストよりもクライアントの役割に,治療者より病者の役割となってしまうので,できるだけ自分の問題やテーマからは距離を置くほうがよい。
③ 現場での実習の学びにおいては,実践の場でのスキルや技能ばかりでなく,心理職としての倫理や態度も学んでいくことが望まれる。 正解です。
④ ひとつの事例を検討するだけでなく,似たような事例を集約してその共通点を探ることができるように,効率的なデータ収集の場とすることが,正しい事例検討の在り方である。

フィードバック 正解は③です。

【解説/コメント】

基礎的事項を学ばずに職業とすることは,大変危険です。基礎的事項とは,時間をかけて彫琢された知です。それと「照らし合わせつつ」,自分のこと,人の心を理解していこうとする態度が望まれます。これは決して,基礎的な知識に当てはめて理解するということではありません。基礎的なことと自分が体験している複雑でニュアンスに富むこととの厳しい対話の中から,自分を常に見直していくという謙虚に学び続ける姿勢を保ちたいものです。

心の傷や不完全さがない人間などいません。「傷ついた治療者」のところで述べたように,傷や不完全さを避けることなく向かい合い,しかしそれに呑み込まれてしまうのではないという位置が重要です。

③実際の現場でどのように心理職が働いているのか,背中を見て学んだり,現場で対象者に関わる中で学んだりするわけですが,そこでは,すでに一人の心理職としての倫理や態度が問われます。そのことを通して,倫理や態度を学んでいってください。

④事例検討の意義は,多様で豊かなものであり,どれが正しい事例検討の在り方と決定できるようなものではありません。事例検討はデータ収集の場ではなく,そこに自らをコミットさせ,「人ごと」ではなく「自分ごと」として体験していくことで,自らの主体的な事例への関わり方のアイデアの交換を通して,自らを磨いていく場であるということを,心にとどめておいてください。

【彫琢】ちょうたく 宝石などを、きざみ磨くこと。比喩的に、文章を磨くこと。
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