第14回 認知と発達 -推論する心、共感する心-
知覚・認知心理学(’19)
Psychology of Perception and Cognition (’19)
主任講師名:石口 彰(お茶の水女子大学名誉教授)
【講義概要】
人間は「考える」能力を持っています。考える能力には、大切な事柄を記憶する、問題を解く、どちらが良いか判断する、旅行の計画を立てるなど、意識的に考える能力のほか、見る、聞く、驚くなど、無意識的に考える能力があります。この「考えること」が、広い意味での、認知機能なのです。知覚・認知心理学は、このような、「考えること」の科学です。この講義では、認知の低次過程といえる感覚・知覚等の無意識的な機能から、問題解決や判断・意思決定などのより高次で意識的な認知機能のしくみを解説します。
【授業の目標】
知覚・認知心理学は、実証科学の一員です。実証科学とは、実験を通して得られた事実(エビデンス)に基づいて、仮説やモデルを検証する科学です。この授業では、単に、人間の認知に関する現象や事実を体験し理解するだけでなく、それらの背後に潜む人間の認知のメカニズムを、いかに実証するか、その方法論も併せて理解することが、目標となります。
【履修上の留意点】
履修にあたって、予備知識は特に必要としませんが、高校の生物学の知識があると、理解がより深まると思います。ただし、実証科学の一員として、論理的な思考は、不可欠です。レポートを書くうえでも、論理的なストーリー展開が、求められます。
第14回 認知と発達
-推論する心、共感する心-
人間は、人と人との「間」で育ち合い、生物学的「ヒト」から社会に生きる「人」へと発達する。そこには、様々な認知機能の発達が関わってくる。前半、「知覚の熟達化」について解説する。後半、考えるシステムのなかでも「他者の心を推論する」機能がどのように発達するのか、実証研究を通して考察する。
【キーワード】
シナプス刈り込み、馴化脱馴化法、知覚的狭窄、発達的戦略、クロスモーダル可塑性、社会的参照、共同注意、心の理論、誤信念課題
執筆担当講師名:池田 まさみ(十文字学園女子大学教授)
1.発達初期の神経ネットワーク
2.知覚にあける熟達化
3.「考える」システムの発達
1.発達初期の神経ネットワーク
「生理的早産」ヒト(Homo sapiens)はその脳サイズから予測されるよりも11ヶ月早く、未熟な状態の赤ん坊を産む。この現象は生理的早産と呼ばれ、ヒトの新生児が出生後しばらく未熟な状態で胎生期の脳発育スピードを維持し、大きな脳を成長させる現象(二次的晩成)と関連している。つまり生理的早産は、ヒトにおける脳進化と直接関連するライフヒストリー上の重要なイベントである。ヒトは直立二足歩行をするため骨盤幅と産道が狭いが、一方で脳を大きく成長させる強い淘汰圧を受けたために、生理的早産および二次的晩成が進化したと考えられている。つまり胎児の脳が大きくなりすぎて産道の通過が不可能になる前に、未熟な状態の赤ん坊を分娩するのである。
(1)個体発生における脳と神経ネットワークの形成
神経管が脳の起源である。シナプスの数は、徐々に減少し始める。「シナプス刈り込み」生後間もない脳においてシナプスはいったん過剰に形成された後,環境や経験に依存して必要なシナプスは強められて残り,不要なシナプスは除去されます。この現象は「シナプス刈り込み」と呼ばれており,生後発達期の脳内で普遍的に起こる重要な現象であり,成熟した機能的神経回路を作るために不可欠な過程であると考えられています。
(2)シナプス刈り込みと脳部位の関係
シナプス刈り込みは、脳の部位によってその「度合い」が異なること、その違いは情報処理のレベルと関係していることがわかってきた。生後発達期の小脳におけるシナプス刈り込みのメカニズム
2.知覚にあける熟達化
人間の場合、シナプス刈り込みが始まるのは生後8〜12か月。
(1)乳児の危険パラダイム
馴化脱馴化法 馴化ー脱馴化法とは 馴化(同じ刺激への慣れ)と脱馴化(新しい刺激による反応回復)を用いて、異なる刺激を識別できているかを判定する実験方法。 馴化とは、同じ刺激を繰り返し与えると、慣れが生じて反応を示さなくなること。 脱馴化とは、馴化したあとに新たな刺激を与えることで、反応が復活すること。2021/07/24
(2)乳児はサルの顔を見分ける
(3)知覚の熟達化と発達的戦略
(4)新奇刺激の検出と脳の関係
(5)生後初期のクロスモーダル可塑性
3.「考える」システムの発達
(1)顔から「心」を推測する
・表情から参照する
・視線から参照する
・表情から他者の心を推測する
(2)心の理論の発達
(3)推論する心の発達と脳の関係
・共同注意と脳の関係
・心の理論と脳の関係
・自閉スペクトラム症と心の理論
(4)「考える」システムの発達研究