第14回 心の病気の生物学的基礎
神経・生理心理学(’22)
Neuro- and Physiological Psychology (’22)
主任講師名:髙瀬 堅吉(中央大学教授)
【講義概要】
神経・生理心理学では、心の生物学的基礎についての学びを主題とします。講義では、知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きを担う脳の機能を中心に学びます。また、睡眠、生体リズム、遺伝子と行動、心の発達、心の病気についても、その生物学的基礎を紹介します。これらの知見に加えて、心の生物学的基礎を明らかにするための研究手法についても触れ、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。講義内容は、公認心理師試験出題基準(ブループリント)の項目を網羅し、臨床の現場に関連する話題も扱います。
【授業の目標】
神経・生理心理学の基礎的知見、考え方を身につけることを目標とします。具体的には、1)心の諸機能の生物学的基盤、特に神経系、内分泌系のつくりと働きを理解し、2)知覚、記憶、学習、感情、意識などの心の働きが、神経系や内分泌系の働きによってどのように営まれているかを学びます。そして、1、2の知見を明らかにするための研究手法も学び、神経・生理心理学の総合的理解を目指します。
【履修上の留意点】
心理学の概論的講義を履修済みであることが望ましいです。また、数学、物理学、化学、生物学の知識が受講者に備わっていると、講義の理解は容易になります。しかし、これらの予備知識については、放送授業や印刷教材で、そのつど説明します。
第14回 心の病気の生物学的基礎
気分障害や統合失調症の生物学的基礎について、神経伝達の異常という観点から紹介します。また、発達障害など、生物学的基礎が十分に明らかになっていない心の病気についても、現時点で解明されている知見を紹介します。
【キーワード】
気分障害、統合失調症、薬理作用、発達障害
1.統合失調症
2.うつ病、双極性障害
3.不安障害
4.神経発達症
1.統合失調症
黒質ー線条体ドーパミン神経
2.うつ病、双極性障害
3.不安障害
4.神経発達症
次の①~④のうちから、統合失調症に関わる神経伝達物質として正しいものを一つ選べ。
① ドーパミン 正解です。
② セロトニン
③ アセチルコリン
④ オレキシン
フィードバック
正解は①です。
【解説/コメント】
統合失調症の生物学的メカニズムについては、まだ詳細は明らかにされていません。ただ,主要なものとしてドーパミン神経の機能亢進が想定されています。1950年代初期に最初の抗統合失調症薬としてクロプルマジンが偶然発見されました。これはフランスの製薬会社から抗ヒスタミン薬として合成された薬剤ですが、鎮静効果が見出されたことから、統合失調症患者に適用され、一定の効果を得ました。次に、ヘビの咬み傷に効く植物の根茎の活性成分であるレセルピンにも抗統合失調症効果が見出されました。これら二つの薬剤はパーキンソン病と同様の運動変化、すなわち静止時振戦、筋硬直、自発運動減少を伴います。
パーキンソン病は、黒質−線条体のドーパミン神経が変性し、ドーパミンが減少することで起きる、運動障害を主症状とする神経疾患であることが報告されています。そのため,クロプルマジンやレセルピンはドーパミン神経の機能を低下させ、ドーパミンを減少させることが推測され、逆に、統合失調症ではドーパミン神経の機能が亢進し,ドーパミンが増加するという「統合失調症のドーパミン仮説(ドーパミン理論)」が提唱されました。
現在では、クロプルマジンはドーパミン受容体のアンタゴニスト(阻害薬)として作用することで、レセルピンはシナプス小胞を壊してドーパミンを始めとするモノアミンを枯渇させることで、ドーパミン神経の機能を低下させることがわかっています。また、健常者に統合失調症の症状を引き起こすアンフェタミンやコカインなどは、ドーパミンを始めとするモノアミンを増加させることもわかっています。