第11回 協力の進化

第11回 協力の進化

第11回の講義では、ゲーム理論の枠組み(特に囚人のジレンマ・ゲーム)を用いて二者間の協力の進化について理解する。繰り返しのある囚人のジレンマ・ゲームでは応報戦略が適応的と考えられるが、その理由を解説する。

【キーワード】
互恵的利他主義、囚人のジレンマ、応報戦略(しっぺ返し、TFT)、最後通牒ゲーム


1.互恵的利他主義と囚人のジレンマ

(1)互恵的利他主義

第4回 進化論は利他行動を説明できるか

互恵的利他主義(ごけいてきりたしゅぎ)とは、あとで見返りがあると期待されるために、ある個体が他の個体の利益になる行為を即座の見返り無しでとる利他的行動の一種である。 生物は個体レベルで他の個体を助けたり、助けられたりする行動がしばしば観察される。」

ロバート・トリヴァースRobert L. Trivers1943年2月19日 – )はアメリカ進化生物学者。日本語ではほとんど常にトリヴァーと表記されるが、原音ではトリヴァー

チスイコウモリ  飢餓状態の仲間に対して血を分け与える「利他行為」の習性をもつことで知られる。過去にグルーミングをしたことのある仲の良い個体間などでまれに確認されている。また、別個体の子供に乳を分け与える現象も確認されており、種族における社会性の高さに研究の焦点が集まっている。

プレーリードック 捕食者の存在について仲間に警告音を発する行動は、血縁者には行うが、非血縁者には行わない。

(2)囚人のジレンマ

囚人のジレンマ(しゅうじんのジレンマ、prisoners’ dilemma)とは、ゲーム理論におけるゲームの1つ。お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる、というジレンマである[1]。各個人が合理的に選択した結果(ナッシュ均衡)が社会全体にとって望ましい結果(パレート最適)にならないので、社会的ジレンマとも呼ばれる[2]

(3)利他行動と囚人のジレンマ

万人の万人に対する闘争」 人間社会は自然状態においては、ほしいものを獲得するため、お互い争い続ける状況となるという、トマス・ホッブズが『市民論(De Cive)』において唱えた仮説

2.繰り返しのある囚人のジレンマと応報戦略

(1)繰り返しのある囚人のジレンマ

戦略選手権 ロバート・アクセルロッド

ロバート・アクセルロッド(Robert Axelrod)は、アメリカの政治学者であり、ゲーム理論の研究で知られています。彼は1984年に『The Evolution of Cooperation』という本を出版し、これは協力の進化に関する重要な研究となりました。

アクセルロッドの最も有名な貢献は、「囚人のジレンマ」というゲーム理論の実験です。彼はさまざまな戦略選手が参加するトーナメントを主催し、その中で多くの戦略を比較しました。この実験では、参加者はお互いに協力するか裏切るかを選択することが求められました。

アクセルロッドの研究は、多くの戦略の中で「タイター・フォー・タット」という単純な戦略が最も成功したことを示しました。この戦略は、最初の手番では協力し、その後の手番では相手の前回の行動に応じて同じ行動を取るというものです。この戦略は、相手が協力している場合には協力し、裏切られた場合には報復するという柔軟性を持っています。

アクセルロッドの研究は、社会的相互作用や競争の中での協力行動の進化に関する理解を深める上で重要な貢献となりました。彼の研究は、経済学や社会科学の分野で広く引用されており、戦略選手権やゲーム理論の研究においても重要な基礎を提供しています。

(2)応報戦略

「上品さ」、『報復性」、「寛容さ」

応報戦略は、相手の攻撃や敵の行動に対して報復や反撃を行う戦略です。以下は応報戦略の一般的な特徴です。

  1. 報復性: 応報戦略は、相手の攻撃や敵の行動に対して直接的な報復を含みます。攻撃に対して攻撃を行うことで、相手に損害を与えることを目的とします。
  2. 対称性: 応報戦略は、相手の行動に対して同じような行動を取ることがあります。相手が攻撃を行った場合、同じく攻撃を行うことで応じることが多いです。
  3. 目的の達成: 応報戦略は、報復や反撃を通じて特定の目的を達成することを目指します。目的は、相手に損害を与えること、自己防衛を行うこと、または相手の攻撃を抑止することなど、さまざまです。
  4. 情報収集: 応報戦略を遂行するためには、相手の行動や能力についての情報収集が重要です。情報収集を通じて相手の弱点や攻撃のパターンを把握し、効果的な報復策を立てることが求められます。
  5. 柔軟性: 応報戦略は状況に応じて柔軟に対応する必要があります。状況や敵の行動によっては、直接的な報復ではなく、間接的な戦術を取ることもあります。また、報復だけでなく、相手に対して牽制や抑止力を示すこともあります。
  6. 時間的要素: 応報戦略は、攻撃や敵の行動に対して迅速に反応する必要があります。遅延すると、相手の攻撃が拡大し、自身への被害が大きくなる可能性があります。タイミングと迅速さが重要です。

ただし、応報戦略は必ずしも最善の戦略ではありません。状況や目的によっては、他の戦略やアプローチが適切な場合もあります。戦略の選択は、具体的な状況や目標に基づいて慎重に検討される

(3)進化的安定性

進化的安定戦略とは,進化生物学者のメイナードスミスが理論的に導いた,進化上獲得される行動形態のことである。 直感的に言えば,ある行動形態は,その戦略をとる個体が増えても安定であり,かつその増えた状態で他の戦略をとる個体が優位にならない場合に,進化的に安定な戦略として,生き残るのである。

3.ヒトの互恵性

(1)報復の心理

「目には目を」 目には目を(めにはめを)あるいは目には目を歯には歯を(めにはめをはにははを)とは、報復律の一種であり、人が誰かを傷つけた場合にはその罰は同程度のものでなければならない、もしくは相当の代価を受け取ることでこれに代えることもできるという意味である[1]ラテン語で lex talionis (レクス・タリオニス) と表わされる同害復讐法で、ラテン語「 talio 」[2](タリオ)は「同じ」を意味する「 talis 」を語源とし、法で認可された報復を意味する。その場合、報復の仕方やその程度は、受けた被害と同じくらいでなければならない。

最後通牒ゲーム 最後通牒ゲームは、最終通告ゲームともいわれていて名称はたくさんありますが、行動経済学やゲーム理論のなかで登場する次のような仮想の設定からはじまるゲームです。 1000円(金額はいくらでも可)があるとして、提案者となるAさんが、Bさんに、ある金額を提示してふたりでお金をわけようと提案します。

『最後通牒ゲームの謎 進化心理学からみた行動ゲーム理論入門』小林佳世子 著

スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)は、カナダ生まれの心理学者であり、認知科学者です。彼は言語、心のプロセス、人間の進化に関する研究で知られています。

ピンカーは1954年にカナダのモントリオールで生まれました。彼はモントリオールのマクギル大学で心理学の学士号を取得し、その後、ハーバード大学で認知心理学の博士号を取得しました。現在はハーバード大学で心理学の教授を務めています。

彼の研究の中心的なテーマの1つは言語と認知の関係です。彼は言語がどのようにして私たちの思考や理解に影響を与えるかについて研究し、言語の起源や発達にも関心を持っています。彼の著書『言語の本能』(The Language Instinct)や『言葉と観念』(Words and Rules)は、言語に関する啓蒙的な研究として高く評価されています。

また、ピンカーは人間の進化と心のプロセスにも興味を持っています。彼は進化心理学の観点から、人間の行動や感情の起源や発達について考えています。彼の著書『人間の本性のまなざし』(The Blank Slate)や『暴力の下降』(The Better Angels of Our Nature)は、人間の進化と社会の変化に関する洞察に基づいています。

ピンカーは著述家としても知られており、科学的な洞察力をもとに、社会問題や人間の本性について広く意見を述べています。彼の著書は一般向けにも読みやすく書かれており、広く読まれています。

スティーブン・ピンカーは、認知科学や進化心理学の分野における研究の貢献や著作の影響力から、現代の重要な思想家の一人と見なされています。

「自分の邪魔をするものは代償を払ってでも報復をしようと感情的に駆り立てられる者の方が、成功する見込みのある競争者であり、相手に付けこまれることが少ない」

(2)感謝と返報性

感謝と返報性は、お互いに関係し合う重要な概念です。

感謝は、他人から受けた恩恵や善意に対して感謝の気持ちを持つことを指します。感謝の表現方法は人それぞれですが、お礼の言葉や手紙、贈り物、思いやりの行動などが一般的な方法です。感謝の気持ちは相手の善意に対して敬意を示し、関係を深めることができます。

一方、返報性とは、他人が自分に恩恵を与えた場合、その恩恵に報いることを意味します。これは、人々が他者からの援助や好意に応えることで、社会的なつながりや協力関係を築くための重要なメカニズムです。返報性は社会的な相互依存関係を促進し、信頼や協力を生み出すことができます。

感謝と返報性は相互に関連しています。他人からの善意に対して感謝を示すことは、相手に対する尊敬と感謝の気持ちを伝えることです。同時に、返報性の原則に基づいて、他人の善意に対して何らかの形で恩返しをすることで、関係を強化することができます。

感謝と返報性は、個人や社会の健全な機能において重要な役割を果たしています。相手の善意を受け入れ、感謝を示し、その恩恵に報いることで、相互の関係を築き、より良い社会を形成することができます。


The Evolution of Cooperation https://doi.org/10.1126/science.7466396協力の進化

細菌であろうと霊長類であろうと、生物間の協力はダーウィン以来進化論にとって困難であった。個人のペア間の相互作用が確率的に発生するという仮定に基づいて、囚人のジレンマ ゲームのコンテキストにおける進化的に安定した戦略の概念に基づいてモデルが開発されます。モデルからの推論とコンピューター トーナメントの結果は、互恵性に基づいた協力がどのように非社会的な世界で始まり、他の幅広い戦略と相互作用しながら繁栄し、完全に確立されれば侵略に抵抗できるかを示しています。潜在的な用途には、縄張り意識、交配、病気などの特定の側面が含まれます。

感謝の気持ちと向社会的行動:犠牲を払うときは助ける https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01705.x

感謝の感情がコストのかかる向社会的行動を形成する能力は、対人感情の誘導と援助の要請を利用した3件の研究で調べられた。研究 1 は、感謝の気持ちによって、たとえそのような努力が高価であったとしても (つまり、快楽的に否定的であったとしても) 恩人を助ける努力が増加し、この増加は一般的な肯定的な感情状態の効果とは異なることを実証しました。さらに、仲介分析により、互恵性規範の単純な認識とは対照的に、感謝の気持ちが援助行動を促すことが明らかになりました。感謝が向社会的行動を媒介するという理論をさらに推し進め、研究2では研​​究1の結果を再現し、感謝が見知らぬ人に提供される支援を増やすことができることを示すことで、付随的感情として機能する感謝の能力を実証しました。研究 3 では、感情状態の本当の原因を認識すれば、この付随的な影響は消失することが明らかになりました。関係構築における感謝の役割に対するこれらの発見の意味について議論します。

A little thanks goes a long way: Explaining why gratitude expressions motivate prosocial behavior.ちょっとした感謝は大いに役立ちます: 感謝の表現が向社会的な行動を促す理由を説明します。
https://doi.org/10.1037/a0017935

感謝の表現を受け取ると向社会的行動が増加することは研究によって証明されていますが、この効果を媒介する心理的メカニズムについてはほとんど知られていません。私たちは、感謝の表現は、エージェント的メカニズムと共同メカニズムの両方を通じて向社会的行動を強化することができる、つまり援助者が自分の努力に対して感謝されると、より強い自己効力感と社会的価値を経験し、それが向社会的行動に参加する動機となることを提案します。実験 1 と 2 では、短い感謝の気持ちを書面で受け取ると、援助者は感謝を表明した受益者と別の受益者の両方を支援するようになりました。感謝の表現によるこれらの効果は、自己効力感や感情によってではなく、社会的価値の認識によって媒介されました。実験 3 では、フィールド実験でこれらの効果を建設的に再現しました。マネージャーが感謝の意を表したことで、大学の募金活動者からの電話が増えたが、その募金は自己効力感ではなく社会的価値によって媒介されたものだった。実験 4 では、社会的価値の異なる尺度が、対人的な感謝の表現の効果を媒介しました。私たちの結果は、エージェント的な観点ではなく、共同体の観点を裏付けています。感謝の表現は、個人が社会的に評価されていると感じられるようにすることで、向社会的な行動を増加させます。感謝の表現は、個人が社会的に評価されていると感じることを可能にし、向社会的行動を増加させます。

The Evolution of Reciprocal Altruism 相互利他主義の進化 https://doi.org/10.1086/406755

相互利他的行動と呼ばれるものの自然選択を説明するモデルが提示されています。このモデルは、システム内のチーター (非レシプロケーター) に対して選択がどのように機能するかを示します。利他的行動の 3 つの例が議論されており、その進化はモデルで説明できます。(1) 共生の浄化に関与する行動。(2) 鳥の警告の鳴き声。(3) 人間の相互利他主義。人間の互恵的利他性については、この利他性を制御する心理システムの詳細がモデルによって説明できることを示した。具体的には、友情、嫌悪感、道徳的攻撃性、感謝、同情、信頼、疑惑、信頼性、罪の側面、そしてある種の不正と偽善が、利他的システムを規制するための重要な適応として説明できます。

 

吸血コウモリの食物の共有 https://doi.org/10.1038/scientificamerican0290-76

吸血コウモリは、ねぐらの仲間に食べ物を要求できない限り、2晩血を摂取せずに餓死してしまいます。バディシステムにより、コウモリ間での餌の分配が公平に行われます。

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